14 商店街のシャカシャカヤモリ、ピピタァ!
『──並区に次元の裂け目の兆候。当学園に要請あり。現場は高架下の再開発地区である。市街戦用装備を──』
学園内に響くアラート。
今回の現場は戦闘区域が高架下及び、隣接する路地の商店街だったため、エネミーを消し飛ばすような高威力は出せない。
雷撃を使う鳴神さんにとっては、少し考えなければならない状況だ。
「私の番じゃなくてよかった……」
空に潜る能力の風波つばささんが、心底ホッとした声を漏らす。確かに屋内や狭い路地では、彼女の空潜行は使いづらいだろう。
「アタシは商店街っていう難易度に燃えてくるけどな!」
速水リンさんは、自分の順番じゃないことが残念そうだ。
うーむ、加速系能力の瞬駆動は、狭い場所だと、よほど上手く制御しないと壁に激突しそうだがな?
「リンちゃんはもうちょっと考えたほうがいいよ?」
壊すじゃん。
これがクラスメイト全員の頭によぎった共通の言葉だ。
だが!
「そんなときこそ発勁さ! ふんっふんっ」
俺は、俺の真似をした。
「……ムチャ言わないでよ」
「銀髪さんの? あれはアホなことやってたよな」
「そうそう。できねえっての。あれは絶対、能力だろ」
俺の熱い想いはクラスメイト達に伝わっていなかった。
残念である。
「準備できたみたいだよ、小柴くん」
「了解。ガアアアアアルズゥ、フォーォムンッ!!」
俺は偽装用のムキムキ女子モードに変身し、気合を入れる。
「おっしゃ、行こうかカナタ。今日は俺のドラテクを見せてやろう」
運搬車両の運転を担当する亮二が、ハンドルを握るふりをしてニヤリと笑う。
「よろしく!」
今回の俺の役目は、大量の耐電バリケードの積み込みと荷下ろし、そして現場への設置だ。鳴神さんと陣内さんは現場確認や作戦の共有、そしてエネミーの誘導経路を作成するために先行して現場に向かった。
特に鳴神さんは弾丸を起点に雷撃を射出することが多いしな。精密な射線管理が必要な市街戦では、事前のシミュレーションが不可欠なのだ。
いつも使っている連鎖用の誘導弾ではなく、今回は帯電弾を選択した鳴神さん。
これは着弾したエネミーの内部で放電させ、周囲への漏電を防ぎつつ確実に無力化するための選択だ。
周囲への被害を出さず、勝利を目指す。
さすがは迅雷の乙女、慈愛の精神と言わざるを得ないッ!
◆
現場である高架下の商店街に到着し、俺はテキパキと耐電バリケードと予備弾丸を各所に設置した。
「よし、設置完了だ。あとは鳴神さんたちに任せよう」
サポートの男子部隊は、設置が終わると同時に帰還する。
「カナタ、お前はどうするんだ? 一緒に乗ってくか?」
「いや、俺は車より早く移動可能だからな。徒歩……というか、こっちの足で先に帰らせてもらうよ。訓練にもなるし!」
「ハハッ、相変わらず脳筋だな、お前」
適当な言い訳をして仲間を帰す。
すべてはライブ配信を始めるためだ。
誰にも見られない路地裏へ滑り込み、俺は静かに姿を切り替える。
ムキムキモードから、清楚な銀髪美少女へ。うーん、自動お着替えガジェットみたいなものはないだろうか?
さあ、本日も最高に輝くヒーローの雄姿を、世界にお届けしよう。
趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネル──配信開始。
「みなさんごきげんよう。ヒーロー配信のお時間です」
配信を開始した瞬間、チャット欄が爆速で流れ始める。
『ごきげんよう』
『きちゃ!待ってた』
『ぬぅっと出てくんなw』
『路地裏の銀髪ちゃん』
『心のマッチョを起動せよ』
『まちょめーん』
「本日の現場は高架下を含む再開発地区。建物が密集する難所ですが、我らが推しのヒーローたちならば! 鮮やかに解決してくれるでしょう」
俺は移動しながらリスナーとやり取りを交わす。
『高架下とか鳴神ちゃんにはキツそうだな』
『射撃はともかく雷がやべえ』
『ひなちゃんガンバレ!』
「おや? 迅雷の乙女の実力を知らないようですね。このポンコツどもめっ! 彼女の射撃と雷撃の精度は、ま・さ・に・神の一手と言っても過言ではないのだっ!!」
『ぬかしおる!』
『なんだと汚清楚様め!』
『くそwお前にだけは負けたくねえ!!』
高架下の狭い通路には。商店街のシャッターが並ぶ中、エネミーが咆哮を上げる。
植物系のエネミーも声は出るんだな?
「見えてきました。さすがに、公園と違って、自由には移動できません──が!」
ピピタァ!!
俺は新型のクライミングガジェットを使い、垂直な壁に張り付いた。そのまま、天井に近い高さをシャカシャカと素早く移動する。
『ギャアアアア』
『虫すぎるwww』
『怖えええんだよ!』
『キモイイイイイイ』
『清楚が壁をシャカシャカすんなww』
『髪の毛が清楚美人顔を隠して不気味さがコンニチワしてんのよw』
「これなら邪魔になりません」
鳴神さんの動きは、狭い場所でも正確無比だった。
「御覧あれ! 帯電弾がエネミーの胴を貫き、内側からバチバチと青白い火花を散らす。それは、さながら命の灯のよう!! 雷撃の威力も、商店街の看板や電線に被害が出ないよう、完璧にコントロールされています!!」
「ヒィッ!? あ! や、やめてェっ?」
『最速でオカシなったw』
『ハジマタw』
『鳴神ちゃんビックリしちゃったじゃんか!』
『逆に邪魔してね?』
『オワタww』
『わかった!辱しめるのが能力だ』
『ひなちゃんカワヨ』
『応援(公開処刑)』
「その眼鏡も伊達じゃない! 全てを見通す、無駄のないガン捌き! おおっと? つまりは、砲兵だけじゃなく銃の名手と呼ばれたっていいのではないでしょうか!!」
おそらく陣内さんの指示も正確無比なのだろう。
さすがだな!
「美しきかな、空間を支配する迅雷の乙女の御姿!」
「銀髪さん! やめてってば!!」
鳴神さんは顔を真っ赤に染めながらも、現れたエネミーを次々と撃ち抜いていく。
「本当にふつくしい……」
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『我らも聞かぬ』
『なぜなら・・・見たいからっ!』
『かわいい』
「おお、迅雷の乙女! 断罪の女神よ!! ああ……私の言葉では、彼女の魅力を世界にお届けできない……無念」
エネミーはボロボロになって崩れ落ちていく。さすがは我らが委員長だ。あとは事後処理をして終わりだろう。
俺は先に帰らせてもらうとしよう。
「幸せな時間でした」
他のクラスのかたたちが集まってきてるからな。
他の路地もエネミーの処理は終わったのだろう。
「私がお役に立てるのはここまでですね」
『役立っていると?』
『俺たちだけに役立つ銀髪さん』
『今日の銀髪さんはキモかっただけだが?w』
『シャカシャカ女子は私たちの心に変なものを残したのです』
「チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますね。それではみなさん、ごきげん──」
本来なら、エネミーをすべて排除すれば、次元の裂け目に処置を施して終了のはずだ。
俺が、満足げに撤収しようとしたそのとき。
違和感が残っていることに気付いた。
「おかしいですね?」
『頭が?』
『頭?』
『銀髪さんが?』
『お前らがどう思ってるかバレたなww』
陣内さんから、緊迫した報告が入ったようだ。インカムから漏れ聞こえるその声には、困惑と焦りが混じっていた。
『裂け目の処置をしても反応は残る? 反応、さらに増大。協会に連絡、急いで』




