12 【大切なお知らせ】
サイレンサーのテストのとき、俺は陣内さんの前で発勁を使っていた。その結果、陣内さんに分析された俺は、銀髪の配信者と動きが完全に一致していると正体がバレてしまった。
「じゃあどうするか、だが──発勁講座を開けば解決っ」
発勁を俺しか使っていないからバレるのだ。
ならばっ、ライブ配信でやり方を世界中に公開し、誰でも使える一般的な技術にしてしまえばいい!
みんなが発勁を使うようになれば、発勁を使う=俺。という図式は崩壊する。これこそが、平穏なヒーローオタクライフを守るための最強の自衛手段であるッ。
俺のたぎる想いがあふれ出る問題は……一旦置いておくしかないのだが。
というわけで俺は放課後に、河川敷でライブ配信のセッティング済ませた。
俺に気付いて手を振る人もいるので振り返す。
「ミステリアス女子、銀髪でございまーす! チャンネル登録、グッドボタン、よろしくお願いしますねー!!」
さて。
趣味でヒーロー配信をしているものですがチャンネル──配信開始。
「キュートな笑顔で、ごきげんよう。趣味でヒーロー配信をしているものですが、今日はいつものライブ配信ではございません」
配信がスタートするや否や、ものすごい勢いで同接数が跳ね上がり、チャット欄が賑わい始めた。
『汚清楚のお時間です?』
『エネミーの警報鳴ってないぞ?』
『今日は平和だな!』
『お知らせってなんだ?引退とか言わないよな?』
「ふっふっふ、引退だなんてとんでもない。今日はみなさんに、とっておきの情報をお届けしに来ました。題して──
初心者必見! とっても簡単、発勁講座! です!」
俺がビシッとポーズを決めると、チャット欄が一瞬ピタッと止まり、直後に猛烈な勢いで文字が滝のように流れ出した。
『は?』
『急にどうしたw』
『発勁講座www』
『ムチャ言いやがって』
『この前の空間歪んだ謎カンフーのことか!?』
『草生える』
『ユーチューバーみたいな企画やりやがってw』
「実は先日、私の大切なお友達から、おかしなことをやっていると大変厳しいご指摘を受けまして」
陣内さんのジト目を思い出しながら、俺はわざとらしくため息をついてみせた。
「ですから、今日はその誤解を正すための配信でもあるのです。ちゃんと理屈を説明すれば、友達もリスナーのみんなもきっと、なんだそんなことか。と分かってくれると思いますので御安心ください」
結局は発勁のやり方を知らないだけだからな。
『友達いたのか・・・・』
『とも・・だち・・・』
『銀髪ちゃんに友達がいたことに驚きを隠せない』
『そこ?w』
『で、簡単なのか?』
『あんな空間ぐにゃあってなるのが簡単だとでも?』
『あやしい・・・メッチャあやしいぞ』
「そう! そうなんです。実はとても簡単なことをやっているだけなんです」
俺はカメラの前で人差し指を立てて、得意げに解説を始める。
「なぜ他のヒーローはカンフーを使わないのか? この回答は単純です。ヒーローのみなさんは、生まれ持った強力な固有能力があるから、わざわざこんな地味な技を使う必要がないだけなのです。火を出したり、雷を落としたりできるなら、そっちのほうが強いですからね」
『地味・・・?』
『地味とは』
『空間歪んでましたけど?』
「私が発勁を使う理由は、私自身に固有能力がないからです! 能力がないから、こうして日々の鍛錬と技術で補っているだけなんですよ。つまり、ヒーローの強靭なフィジカルさえあれば、誰にでもできる技術なんですよね」
俺の熱弁に、チャット欄はさらに加速する。
『能力がない(大嘘)』
『技術で空間が歪むわけないだろw』
『ヒーローなら誰でもできるだと!?』
「もちろん。本物のヒーローのみなさんなら、絶対にできると、この銀髪は確信しております。それでは、さっそく実技にいってみましょうか」
俺はカメラから少し離れ、河川敷の空間に向かってスッと腰を落とした。
「いいですか? まずは基本の構えからです。大地にしっかりと足を踏み込み、全身の筋肉を連動させます。ここまでは普通の格闘技と同じですね」
『うんうん』
『ここまではわかる』
『俺でもできそう』
「そしてここからがポイントです。対象に触れる瞬間に、掌を小刻みに超振動させます。そこに自分の中にある、練り上げた氣功を一気に流し込む!
ただそれだけなんです。そうすれば破壊のパワーが波紋のように、対象の内部に広がりますよ!」
『は?』
『超振動?』
『氣功って言った?』
『波紋!?』
「いきますよ? ふんっ!」
俺は気合と共に、なにもない空間に向かって掌を打ち込んだ。
ヴォァァァァァン。
俺の掌の先が、まるで巨大なゼリーを殴ったかのようにぐにゃりと歪み、圧縮された衝撃の波が空間を激しく揺らす。
「──ほらね? 簡単でしょう? 理解、鍛錬、実行のたった3つのプロセスですから」
俺がニッコリと微笑んでカメラに顔を近づけると、チャット欄は完全に阿鼻叫喚の地獄と化していた。
『簡単じゃねえええええええ!』
『ヒーローは万能じゃねえww』
『理解のとこからわかんないって!!!』
『わかんないわかんないわかんない!』
『超振動ってなんだよ!』
『たった3つのプロセスが1個も分からんwwwwww』
『氣功!?波紋!?漫画かよ!!』
『何回見ても意味不明で草なんよ』
「またまた御冗談を。そのノリは好きですけど、今日の私は真面目ちゃんです。ヒーローのフィジカルがあれば、ふんっくらいの気合で誰でもイケますからねー!」
これくらいは、鳴神さんやあかねさんみたいな圧倒的なパワーに比べれば、ただの小手先の技術でしかないからな。
ヒーローの能力というのは、それほどまでに凄いのだ。
『イケるかぁぁぁ!』
『無理に決まってんだろ!』
『ふんっ、で空間が歪むか!!』
『人間をやめろってことか?』
次々と流れる否定的なコメントの数々。いくらノリだとしても、しつこいのは良くないぞ諸君ッ!
俺はあざとさを演出するため、少しだけむっとしながら、頬を膨らませる。
プンプンモーォォォドッ!
これはあの日の鳴神さんから学びを得ているッ!!
「もうっ。男の人っていっつもそうですよね」
カメラのレンズをじっと見つめ、リスナーたちに語りかける。
「少し難しくなると、すぐに無理だ、できないって諦めるんですから。まずはやってみる姿勢が大事なんですよ?」
『そういう問題じゃねええええ!』
『男とか女とか関係ないから!』
『物理法則の話をしてるんだよ!』
『空間を歪めるなww』
「ふむ、仕方ないですね。では、もう一度だけゆっくりやりますから、ちゃんと見ていてくださいね? いきますよー、ぬぅんっ、そーいっ」
『聞かぬ』
『話を聞け』
『話を聞けww』
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『聞かぬ』
『ぬーん、そーいだけゆっくりでも意味がないんよw』
ヴォァワゥゥゥン。
再び河川敷に響き渡る、不思議な破壊音と空間の歪み。
これできっと、全国のヒーローたちも発勁をマスターして、俺のカモフラージュに一役買ってくれるに違いない!
俺は自分の完璧な作戦に内心でガッツポーズを決めながら「それではみなさん、ごきげんよう!」と笑顔で配信を終了させた。
「しまった! 伝え損ねがあったな。1点、忘れていました、と──」
──心のマッチョを起動してください。
俺は発勁の秘伝をインスタに投稿した。




