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一日に約1分ズレる腕時計  作者: A.O.C.DESIGN
第三章 Secondi Piatti
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第三十三話 リアリティ

土曜日の朝。


いつも通り、街に鐘の音が響く。


カーン。


カーン。


カーン。


三回目の鐘の音。


かちり。


いつも通り、ハリーは腕時計の竜頭を押す。


そして、スマートフォンを掴む。


| 昨日はどうもありがとうございました。


サブローにメッセージを送る。


⸻


「昨日は社長の奢りだったの?」


エナがハリーに尋ねる。


「いや、研修として会社の経費にしてもらえた。」

「そう、良かったわね。」

「あぁ。

マジで焦ったよ。

後から後から、人数増えちゃったからね。

もう、どうなることかと•••。」


朝食の後。

いつものコーヒーを口にする。

朝はまだ涼しい。

ホットコーヒーの湯気が立ち昇る。


ハリーは思い出す。

スパークリングワインの泡。


湯気は器から昇る。

ハリーのひたいの高さで消える。


スー。


鼻から湯気を吸い込む。

ゆっくりと吐く。


「良い香りだ。」


エナは微笑む。

「いつものコーヒーが一番ね。」


ハリーは頷く。

「あぁ。」


⸻


休日の朝。

夫婦の会話。


ハリーは安らぐ。

心が落ち着く。


目を閉じる。

昨夜のピッツェリアでのシーンを振り返る。


「昨日は楽しかったのね。」

エナが呟く。


「あぁ、とっても。」

「良いお店だった?」


「うん。

感じのいいお店だった。

店主も、従業員も、感じが良くてね。」


「感じがいい、かぁ。

曖昧だけど、高い評価よね。

それって。」


「うん。」


ハリーはスマートフォンを見る。

昨夜の写真を開く。

皆で共有した写真。

エナに見せる。


「あら、いい写真ね。

賑やかな雰囲気。」


エナは次々と写真をめくる。


「これ、美味しそう。

こっちの写真はユニークだわ。

あ、この娘、前に一緒にランチした娘ね。」


ルカの写真。

ピッツァをくわえながら振り向いてカメラ目線。


「•••モデル見たいね。」

「ハハハ。

そうそう、なりきってたっけ。」


エナは写真をじっくり見る。


「ふーん、本当に雰囲気のいいお店ね。

なんて名前のお店なの?

今度私も連れて行って。」

「あぁ、もちろん。

•••えーと、名前は『Pizzeria(ピッツェリア) ROCKAKDO(ロッカクドウ)』だよ。」


雰囲気のいい店。

感じのいい店。


「流行る店•••。」


ハリーは生成AIのアプリを開く。

ログインする。


ハッとなる。


「•••。」

「どうかしたの?」

「あ、あいつら•••。」


すでに、チーム『男闘児(おとこ)』のチャットは始まっていた。


⸻


マサルが画像をアップロード。


マサル | この写真どう?いい感じだよね。>YUYU

YUYU | はい!これはすごく刺さる写真ですよ!この女性、かわいい!

アラン | 確かに。

マサル | おれ、写真の才能に目覚めたかも!(笑)

YUYU | 才能有りですね、マサルさん。

アラン | おいおい。あん時、ショータがルカさんをモデルにしてたろ。お前はオマケだった。>マサル

マサル | うう。まぁ、そうだけどさ。

YUYU | 良い画を見つけたら、その瞬間を逃さない。それもカメラマンの才能ですよ。

マサル | そうか。そうだよね。ありがとう。>YUYU

YUYU | この写真、視線が微妙に別のとこ見てるのが良いです。それとピッツァが美味しそう。

アラン | 美味しそうに食べてる感じがリアリティ高いよな。

マサル | ピッツァ持っていない方の右手も掌が上向いてるのがかわいいよな。

アラン | まぁ、ちょっとあざとい気もするけど。

YUYU | あざとい(笑)。でもこの写真、本当にいい写真って思います。唇や首筋も女性らしさが出てるし。

アラン | ソコ!そうソコ!ソコ狙ってたのバレバレ!>マサル

マサル | ま、まぁ確かに、シャッター押した時、色っぽさを感じてた気がする。

YUYU | それは素晴らしいです!その感性が実に良く現れていますよ。

マサル | この写真、採用されるかな。

アラン | んー。どうだろう。思いっきり本人特定できるからなぁ。

YUYU | どういう利用方法なんですか?


ハリーがチャットに参加する。


ハリー | おはよう。休日なのに、朝からチャットしてるとは思わなかったよ。>アラン&マサル

アラン | おはようございます。>ハリー

マサル | おはようございます。昨日はお疲れさまでした。>ハリー

ハリー | 写真、いい感じだね。>マサル

マサル | ありがとうございます!

ハリー | 写真、採用されたら会社が買い取って、このお店の宣伝に使ってもらう予定だよ。>YUYU

YUYU | なるほど!それはお店にとって良い宣材になりますね!ですが、この女性の承諾が必要ですよね。


YUYUは問題点を挙げた上で提案する。


ハリー | トリミング、ね。

YUYU | はい!この写真、女性の顔を下半分にして、口元の印象を強くすると良さそうです。

マサル | ちょっとやってみます。

YUYU | あと、良かったら試してみてほしいんですが•••。

ハリー | 何?>YUYU

YUYU | ピッツァと唇をカラーにして赤を強調。周りをモノクロやセピアにしてみてください。

アラン | なんかイメージ湧くわ。それめちゃアートだ。

YUYU | お店の壁にアートポスターを貼るのも良いかも知れませんよね。

ハリー | あ!それ良さそうだね!SNSだけじゃなくて、他にもいろんな使い方ができるって。

マサル | お店に行くと、顔全部の写真が見れるとかは?来店の動機付けになりませんか?

ハリー | おぉ!それも面白いアイデア!>マサル

アラン | いい写真だから、ノーカットで全部見てほしいってか。まぁ気持ちはわかる。>マサル

YUYU | そうですね。やっぱりこの視線、素敵ですからね。

ハリー | 気持ちが伝わってくるよね。楽しいって気持ちが。


マサルは写真を加工する。

アップロードする。


皆で論じ合う。

写真の利用方法。


提案書が作られて行く。


⸻


月曜日。


チーム『男闘児(おとこ)』はルカに交渉する。


写真の使用について。


ルカは快諾する。


そして、サブローとジョーへ提案。


写真と共に提案書が採用される。


チーム『男闘児(おとこ)』とルカに報奨金の授与が決定する。


『Pizzeria ROCKAKDO』に提案書が渡る。


⸻


火曜日。


写真10点を選定。


使用に関する具体的な契約が決まる。


『Pizzeria ROCKAKDO』は、即日、使用開始。


店の自社サイトに掲載。


グルメ情報サイトにも掲載。


SNSでも配信。


⸻


水曜日。


『Pizzeria ROCKAKDO』のリピーターが反応する。


| この店、本当にこんな感じなんだよね。


| あー、また行きたくなった!


| ココ私のお気に入り!美味しいし、感じ良いお店!


SNSで配信された写真が拡散される。


⸻


「そうだ。

今週末、行ってみよう。

ピッツェリアに。」


ハリーはエナを誘う。

エナは嬉しそうに笑う。

予約の電話を掛ける。


「あぁ、ハリーさんですね。

お世話になっております。

ですが•••。

すみません、今週は予約でいっぱいになってしまいまして。」


電話の先は店主の声。

申し訳なさそうな様子。

しかし、明るい口調が印象に残る。


「あぁ、そうなんですね。

残念です。

また次回にします。」


「実は来週も、埋まってしまいそうで。

できればお早めのご予約をおすすめします。」


「そ、そうですか。

•••宣伝、効果あったようですか?」


「えぇ。

本当におかげさまで。

頂いた写真へのコメント、良かったら読んでみてください。」


電話の後。

SNSを確認する。


リピーターからの言葉。

お店への評価が強調されている。


ハリーは写真を見て思い出す。


店主と女性給仕の顔、仕草。

店内の内装。

メニューブックの文字。

店内の香り。

ピッツァの味。


仲間の笑顔。

楽しい会話。

そして、スパークリングワインの泡。


煌めき、弾ける。

泡。


| あれは、喜びの味。そのものだった。


ハリーは、SNSの写真に言葉を添える。

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