5.平熱ではない証拠
氷(✴)の数にも注目してみて下さい。
✵ ✵ ✵ ✵ ✵
「あの月⋯⋯」
鳴実が見上げた先には、少しだけ欠けた上弦の月。壱波家での初仕事の日にも同じ形の月が空に輝いていた。銀の星と混ざり合った金の月光が夜道を照らす。しかし、到着する前に雲が かかって、その光は霞んでしまった。
出勤初日にした面談で、注意点として修一郎は、よく熱を出すという話を聞いている。訪問したら、まず最初に検温をして、ノートに記録。約1カ月で微熱は6回、平熱は やや低めなことがわかった。
鳴実が体温計とノートを持って部屋へ行くと、いつも座って待っている修一郎がベッドで、うつぶせになっている。何か違和感を感じ、側にひざまづいて名前を呼ぶと、手を握られた。目を閉じているが、眠っているわけではないようだ。
「待って 下さい。 修一郎さん、熱ありますよね?」
「⋯⋯ないよ 全然」
「手⋯⋯ いつも こんなに温かくない」
「測る前にそれだけで、わかるんだ⋯⋯」
「やっぱり⋯⋯あるんですね」
普段よりも紅潮している白い頬。長いまつ毛を伏せた瞼がそっと開いて、笑みを浮かべながら熱で潤んだ眼差しを鳴実へと向けた。
「あぁ〜⋯⋯自白しちゃった。鳴実くんて、 おれのこと案外さぁ⋯⋯ フフッ」
修一郎がベッドの中で、くすくすと声を潜めながら笑っていると、気まずそうにした鳴実は、耳まで赤くして口を尖らせる。
「なんですか⋯⋯」
「何でもないよ〜」
普段の熱は、あっても37°C前半程度、世間一般では微熱と呼べるもので、そこまで問題はない。体温計に表示された数字は38.1℃だった。
「⋯⋯微熱、ではないですね。とりあえず今日はシャワー浴は中止にして⋯⋯」
「えー⋯⋯ そっか、残念⋯⋯」
楽しみが減ってしまい、がっかりして口角を下がり気味にする修一郎に対し、鳴実が問いかけた。
「⋯⋯いつから?」
「朝は なかったよ。夕方くらいじゃないのかなぁ⋯⋯」
「家政婦さんには伝えなかったんですか。熱っぽいって。修一郎さん 平熱低めなんだから、38℃なんて相当辛いはず⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
案じるような声色で尋ねる鳴実の質問に修一郎は何も答えず、うつぶせの姿勢のまま壁の方へ首を向けて黙り続ける。
「どうしようかな⋯⋯ 先に壱波さんに連絡を⋯⋯」
体温計を片手に立ち上がった鳴実を、後ろへ引っ張られる感覚が襲った。振り返ると修一郎の伸ばした手がエプロンの裾をギュッと掴んでいる。
「⋯⋯何でしょうか?」
「鳴実くん⋯⋯ワガママ言っていい?」
「割と、いつも言ってる気がしますけど⋯⋯ 一応、聞いておきます」
「連絡 しないでほしい」




