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2.儚くて軽薄で甘ったれな青年

 シャツの下には、決して丈夫そうではない筋肉の少ない細身の身体。だが、アバラが浮いているなど、いかにも痩せ細って病弱⋯⋯というほどでもない。

 日焼け跡や傷や荒れもない滑らかでキメの細かい肌も、青白いわけではなく、透き通るような綺麗な白色をしている。

 修一郎しゅういちろうには、一時的にバスタオルを肩から羽織っておいてもらい、ゴム手袋をした鳴実なるみは湯に浸しておいたタオルをギュッ⋯⋯と、しっかり絞った。


「失礼します⋯⋯」


 鳴実は素手になると、ひと言断りを入れてから修一郎の素肌の肩に触れ、充分に温め固く絞った小さなタオルで背中を拭き始める。


「熱くありませんか?」

「うん⋯⋯大丈夫。気持ちいい。もうちょい力入れてもいいかも」

「わかりました」

「鳴実くんの手は、いつも温かいよねぇ」

「⋯⋯一応、触れる前に温めてはいます」

「ヒヤッて、しないように気遣いってことか。なるほど」



 夕方から夜にかけての介助のバイト。場所は壱波(いなみ)家 自宅。仕事内容は、骨折をしている修一郎の日常生活の動作の手助け。トイレや浴室といった部屋移動の歩行介助。

 入浴はギプスをビニール等で保護したシャワー浴。もしくは、体調が優れない場合や修一郎本人の希望で、身体を拭くケア ── 清拭(せいしき)を行う。



「鳴実くんが来る日だから、今日はシャワーでも良かったんだけど⋯⋯こうやって、身体拭いてもらうのも好きなんだ」

「今日の検温では平熱だったので、どちらでも。拭くの⋯⋯手の届きづらい箇所以外は自分でやってもらいますよ。尊厳とか、そういうのもあるので⋯⋯」

「鳴実くんが全部やってくれたって、おれは全然構わないのに。本人がOK出してるなら、それはいいんじゃない?」

「修一郎さんは全く動けないわけじゃないでしょう。利き手も使えるんですから」

「そっけないなぁ」


 淡々と身体を拭いている鳴実に話しかけ続ける修一郎は、つれない態度をとられても、なお嬉しそうに笑っている。


「お世話される人の為でもあるので。過剰に手伝ったらホントは良くないんです。俺の役割は、あくまでサポート⋯⋯」

「鳴実くんは真面目だねぇ。

どっかの会社から派遣で来てるわけじゃないんだから。おれしかいないんだし、そんなガチガチのルールじゃなくて、緩くでいいよ」

「⋯⋯だから 俺が困ってるんですけど」

 

 鳴実が修一郎に対して感じた〝はかない〟という雰囲気は、正に第一印象のみで見た目だけだった。日数が経ち、慣れも出てくると徐々に態度が変化していく。容姿は薄幸の美青年じみているが、中身は軽薄。性格は どちらかというと、おちゃらけていることが、この2週間で判明した。


 日中勤務の家政婦が作っておいた夕食を部屋まで運び、必要であれば食事の介助もしている。

 修一郎から「あ〜ん して食べさせて?」と冗談か本気か、よくわからない事を ふられたりする。すると鳴実は一瞬眉をひそめながらも、立場上致し方なく⋯⋯という面持ちで、それをきちんと遂行する。



「バイトの募集かけてたけどさ⋯⋯こうやって時間も夜遅いし、内容の詳細も きちんと書いてないんじゃ警戒されるに決まってるよね。あとは、せっかくきた応募も母が断ってたっぽいんだよな〜⋯⋯多分、女性っていう点が気に入らなくて」


 そう話す修一郎を見ながら、この彼の世話が仕事だと前もってわかっていたら、もっと多くの女性から応募がきていたのではないか、と鳴実は思う。


「俺は、決められたあと初日に軽く面談しただけですけど。近所の人だったからかな⋯⋯」

「近場の人で安心ていうのもあったかもしれないけど、気に入られて合格したからじゃない? 真面目そうな青年(・・)に好感を持った、とか」

「⋯⋯俺は、真面目なんかじゃないです」

「おれは、来てくれたのが鳴実くんで良かった。

何だかんだ言って、甘えさせてくれる⋯⋯」

「! ⋯⋯」


 修一郎の(こぼ)れ落ちそうな黒い大きな瞳に、俯いて手を止めた鳴実が映り込む。


「母は、おれを他の人に触らせるのが嫌だったのかなぁ。あの人、変なところは過保護なくせに、おれのこと何も知らないんだけどね⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯  じゃあ俺、とっくにクビですね」




元から雇う側と雇われる側で立場が弱い


和み系っぽいくせに やけに色気のある声で

聞こえの良い甘い言葉を俺に浴びせてくる


この人に対しての苦手なんじゃなくて

⋯⋯今は悪い気が しなくなってる自分自身が苦手だ

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