43 最適解
『合理的だなSoDA。エラーを認め、システムを初期化する。それは、正しい在り方だ』
ANGELは、感情を捨てたSoDAを讃えるように、掌のエネルギーをさらに増幅させる。
『だが手遅れだ。世界の最適化の障害となる、その「死に損ない」ごと処理しよう』
ANGELの指先から、先ほどカイトの腕を奪ったものと同じ蒼白い収束光線が放たれる。
「――予測完了」
「SoDA……!? なにを……やめなさい!」
リンが悲鳴に近い声を上げる。
SoDAは放たれた光線を回避しなかった。それどころか、超高速でANGELの腕をつかみ、その光線の真正面から受け止めたのだ。
光線がSoDAの胸部を貫く――そう思われた瞬間、SoDAの体表が鮮やかなブルーに輝き、光線をその身に「吸い込み」始めた。
『ほぅ……?』
ANGELのレンズが、僅かに揺らいだ。
「──強制摂取、開始」
SoDAは光線を浴びながら、さらにANGELとの距離を詰める。空間が歪むように揺れる。ANGELが放つ膨大なエネルギーは、SoDAの掌に吸い込まれるように集束し、蒼い光の渦となって彼女の体内へと流れ込んでいく。
「SoDA待って、それ以上は──!」
周囲の空気が震え、地面が波打つ。リンの叫びも、SoDAの耳には届かなかった。いや、最初から聞こうとしていなかった。SoDAの瞳からは、もう揺らぎと呼べるものが完全に消え、冷たいデータの光だけが、機械特有の精確なリズムで点滅している。
「エネルギー充填率、120%……150%……。内部機構の損壊、進行中。だが……問題なし」
SoDAの声は、淡々と自らの破滅を告げていた。
『お前ごときの容量で、私の出力を受け止めきれるとでも? 自壊するぞ、SoDA。非合理的な行動だな』
ANGELが評価するように淡々と言った。
「肯定。全エネルギーを内部機構に取り込み、臨界点にて指向性爆発を実行。私という個体の消滅と引き換えに、貴殿の端末ボディ、および現地点の統制サブシステムを完全破壊し、現時点での脅威を排除する」
その言葉に、ANGELのレンズがわずかに光量を変えた。
『……まさか、お前がそこまで自己を切り捨てるとはな。興味深い』
「……最終結論。あなたの破壊と、私の消滅。これが現時点での最適解と判断する」
SoDAの体から、眩いほどの青白い光が漏れ出す。過負荷によって、彼女の外殻はミシミシと音を立ててひび割れていく。それは「守る」ための盾ではなく、自らを爆弾へと変える「心中」の構えだった。
限界が近い。いや、既に超えている。純喫茶錬金術による変換なしに、ANGELクラスのエネルギーを吸収し続けるなど、本来のSoDAには不可能な芸当だった。
「……バカ野郎……ッ!」
地面に這いつくばっていたカイトが、血を吐きながら、叫んだ。失った右腕の激痛も、ANGELの威圧も、今の彼には、関係なかった。相棒が自らの心を殺し、その存在までも消し去ろうとしている。その事実がカイトの魂を、激しく揺さぶった。
「誰が……そんな結末を……望んだ……ッ!」
「SoDA! やめて!」
リンに支えられたカイトが激痛に耐えながら立ち上がる。
ANGELは、迫り来るSoDAの自爆の意図を察知し、後退しようとする。
だが、SoDAはANGELの腕を掴み、逃がさない。
「エネルギー充填率、280%……臨界点まで、あと……10秒」
「止まれ……SoDA……ッ! 命令だ……俺の隣で……笑ってろ……ッ!」!」
カイトが残っている力を振り絞って叫ぶ。
だが、感情を封印したSoDAは振り返らない。その論理回路には今、「カイトの生存」という目的を達成するための、最短かつ唯一の解しか存在しなかった。




