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「それで、わざわざなんでこんなところで断罪するんだ?」
龍臣は挑発的に言った。
ここには、雪兎と龍臣、そして朱鳥しかいない。
「まぁ、未遂に終わったし、誤解も解けた。…昨日彼女が何か勘違いしているようだと気付きながら説明を後回しにした非は、僕にもある」
雪兎が言う。
「だからこの罪に対する罰は、いつものように貸しにしてもいいくらいなんだけど…」
それを聞いて、朱鳥はほっとした。
罪や罰と聞いて恐ろしく思っていたが、穏便にすみそうだ。
しかし、龍臣の方は違ったようだ。
まるで不可解なものを見たかのように、眉間に皺をよせる。
「けど、なんだよ」
「残った罪の話に移ろうか」
「残った罪?」
それはなんだろうか。
龍臣と同じように朱鳥も首を傾げた。
「そう。お前は、我々の神を連れ出した。それを我々が許してもね」
どきどきしながら話の行方を聞いていた朱鳥の手を雪兎はとった。
「…女性の寝所に押し入って、連れ出したという事実は残るよ?」
「!」
「ごほっ!」
龍臣が噎せた。
「怖かっただろう。かわいそうに。しかも、泣かされた」
「だから、それは…!」
「お前が彼女を神様として扱っていたとしても、彼女は贄のつもりだったと言う。贄のつもりで寝所にいたところに来た恐ろしい顔の男を、彼女はどう思っただろうか?」
「…」
龍臣の顔が強ばった。
口を開けて何かを言いかけ、しかし、言葉にならず項垂れる。
沈黙が続き、絞り出すように龍臣が言った。
「…悪かった。恐い思いをさせた」
「! えっと、あの…」
恐くなかったと言えば嘘になる。
食べられると本気で思ったし、連れ出されたあとは追い出されると覚悟を決めた。
ふぅ、と雪兎が息を吐いた。
「やっと謝ったね。さて、お客様。どうしますか?」
「えっ?」
雪兎は項垂れる龍臣の前に立った。
青菜に塩。先程までの威勢のよさはどこにもなかった。
「もう顔を見たくもないとおっしゃるなら、このまま地下牢に。それも許せぬならば」
雪兎が持っていた扇子を開く。
すると、いつの間にか扇子が小刀に変わっていた。
「ここでおわらせますが?」
何を!?
とは、訊けなかった。
雪兎の小刀は龍臣の首もとに当てられている。しかも、刃の方だ。
気付いていないのか、龍臣は動かない。
「あ、あああの!」
「我らにとって、貴女は大事な存在です。何よりも、かえがたい」
「あっ…」
そこで、朱鳥は自覚した。
本当にわたし、ここでは神様なんだ。
贄ではないし、神様と呼んで都合よく祭り上げるつもりもない。
そう雪兎は言いたいのだろう。
朱鳥が気に食わないと言えば、本当に切るつもりのようだ。それが恐ろしい。
「あの、わたし、は、誰かが傷つくのは、見たくありません。…恐かったけど、勘違いだって分かったし、謝ってくれたので…」
許します。
その言葉は言えなかった。
本当は許していない、と言うわけではない。ただ自分が誰かを許すなんて、そんな偉そうなことを言えなかったのだ。
「だって。寛大な方で良かったね」
雪兎が小刀を龍臣から離すと、くるりと回した。それだけで、小刀は扇子に変わる。
「さて、これで話は本当におしまいだ。帰っていいよ」
雪兎が言うと、枷がひとりでに外れた。
「あ、の」
「はい。なんですか、お客様?」
「朱鳥、です。名前。…朱鳥と呼んでください…」
あのとき、名前に様をつけられて驚いた。それから、このひとは、朱鳥のことを「お客様」と呼ぶようになった。
多分、それではいけない…。
朱鳥は勇気を出して言った。
「…ありがとう」
朱鳥の決意が伝わったのか、雪兎は優しく微笑んだ。
「朱鳥さま」




