第319話 ツェッテル一門です
その後も話をしながらチェックしていくと、最後のページに赤入れを終えたので論文をテーブルに置く。
「こんなものですね」
「はいよ。提出は近いうちにしておく。権利はどうする?」
「陛下で」
訳:俺は優秀な錬金術師だから魔術師として戦地に送るのはNGですよ。
「わかった。では、飯を食ったらその陛下のところに行くか。カルステン、お前はどうする?」
「行かない。空の散歩にでも行く」
そうだろうな。
「ヘレンは行くよなー?」
「もちろんです」
やっぱり鳥より猫だな。
「昼食はどうします?」
「適当なところでいいだろ。お前、知ってるか?」
「テレーゼから教えてもらった近くの定食屋なら」
「それでいい。行くぞ」
俺達は本部長室を出ると、1階に下りる。
本部長が受付に城に行くことを伝え、本部を出た。
そして、カルステンを空に放してやると、定食屋に向かう。
「本部長って昼食はいつもどうしているんですか?」
「弁当。今日みたいに出る日は適当なところで食べる」
んー?
「弁当なんか作ってましたっけ?」
自炊はしていたが、弁当を作っているところを見たことがない。
「最近始めた。まあ、健康とかにも気を遣う年齢になったんだよ」
へー……殴られそうだから深く突っ込むのはやめておこう。
「サプリメントとかありますよ」
「いらない。怖い」
毒なんか盛らないってのに。
俺達は定食屋にやってくると、席につき、日替わり定食を頼む。
「陛下とのお茶会っていつも何を話すんですか?」
「色々だな。協会のこと、政治のこと、他国の情勢のこと。8割は愚痴だが……」
愚痴ばっかりだな。
「よく付き合いますね」
「さすがに呼ばれたら行かないといけないからな。陛下も私には話しやすいんだろう。私は貴族じゃないから」
ウチの支部長が言ってたな。
本部長はどれだけ権力を握ろうと、平民だから一代限りだと。
まあ、クリスが引き継ぎそうだけど。
「愛人みたいですね」
「んなわけないだろ」
そりゃそうだ。
「王妃様とは会ったことがあるんですか?」
「あるぞ。というか、王妃様の方が多いくらいだ。多分、陛下とのお茶会のあとに王妃様とのお茶会もある。お前、どうする?」
行きたくないね。
「断れるなら断ってください」
「そうしてやる。陛下以上に実りのない話ばっかりだぞ。マジで政治を知らない人だからな」
ジーンの問題にもまったく関わっていないって話だからな。
「時間の無駄としか思いませんね」
「まったくだ。本部長になってからそういう時間が増えた、増えた。たまには新型飛空艇の開発とかそういう仕事をしたいもんだ」
本部長っていう役職も大変だな。
「それこそ早めに引退して、誰かに譲れば?」
「それも悪くないな。どっかの港町でゆっくりするかな」
やめて。
「本部長は足を止めたらダメだと思います」
「はいはい……ん? ゾフィーと……リーゼロッテか?」
本部長が入口の方を見たので振り向くと、確かにチビ2人がいた。
「ゾフィー、リーゼロッテ」
名前を呼ぶと、2人がこちらにやってくる。
「ジークと本部長じゃないですか。珍しいですね」
「こんにちはー」
リーゼロッテがぺこりと頭を下げた。
「これから城に行くんだよ」
「ゾフィー、お前も来るか?」
おどおどするんだろうけど。
「嫌です」
「そうかい。まあ、座れ」
周りを見ると、もういっぱいだった。
「ありがとうございます」
「失礼します」
2人も席につき、日替わり定食を頼む。
「今日も2人か? テレーゼはどうした?」
「テレーゼ様は打ち合わせ中です。なので、仲の良いゾフィーさんと来ました」
「うん……友達、です」
人のことを言えないが、ゾフィーも悲しきモンスターだな。
「そうかい。リーゼロッテ、試験はどうだった?」
「受かったと思います。想定以上にできましたし、自信があります」
優秀らしいし、8級なら受かるか。
「お前は?」
一応、ゾフィーにも聞いてみる。
「誰かが不正でもしてくれない限り、無理ね」
誰もお前の試験を改ざんしないと思う。
俺もしない。
「ゾフィー、今は飛空艇製作チームに慣れることを優先しろ」
本部長が師匠らしいことを言う。
「そのつもりです」
早くしろよ。
チームリーダーのコリンナ先輩の旦那さんが心配してたぞ。
「あのー、本部長さん。テレーゼ様に言うなって言われてたんですけど、テレーゼ様も自信がありそうな感じでした」
リーゼロッテがおずおずと告げ口をする。
「テレーゼが?」
「はい。無理をするなという言葉を無視して、勉強してた気がします」
「あー……クヌートが入って、余裕ができたからか」
「だと思います。あの長期休暇以降、基本的には残業なしの早上がりでしたし」
あいつも真面目だからなー。
「ハァ……まあいい。結果を見てからあいつと話す」
「お願いします。テレーゼ様も皆さんと同じく、根本は人の話を聞かない人ですんで」
こいつ、本当にナチュラルに毒を吐くよな。
「私はちゃんと聞くわよ。他の連中と一緒にしないで」
は?
「あはは。ジークさん、マルタさんがアデーレさんに会いたいって言ってましたよ」
すごい。
ゾフィーが軽く流された。
「わかった。伝えておく。ちなみに、マルタはどうだ?」
「今日、共同アトリエに入ってきて、開口一番に落ちたって言ってましたね。コリンナさんと次の試験に向けて、スケジュールを組んでました。一応、あそこも師弟なんで。微妙ですけど」
微妙な師弟関係って何だろ?
「アデーレとの差が開くな……気まずくないだろうか?」
ヴォルフは知らんが、エルヴィーラとも差が開きそう。
しかし、俺にはわからない機微だ。
人間性が60点は必要だろう。
「ジークさんの同期は大丈夫だと思いますよ。誰も自慢しないし、嫉妬もしません。あなたがいますんで」
「必要悪ね!」
嬉しそうだな、ゾフィー……
「言っておくが、お前にも同期はいるし、お前も20歳で5級だから必要悪だぞ」
「ゾフィーさん、そういうところですよ」
「ごめんなさい……」
いや……リーゼロッテもなんだが?
お前に至ってはまだ10代だろ。
知ってたけど、こいつ、自分のことを棚に上げるところがあるよな。
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