第313話 信頼 ★
「打ち合せって何かあるのか?」
そういうのは事前にやっておきたいんだが。
「特にないよ。ただ、あんたは初めてだろう? だから軽く説明する」
善意ね。
「といっても、この採点用紙に書いていけばいいんだろ?」
各項目に100点満点で記入していく。
点数がすべて60点を上回る、かつ、平均で70点を超えていれば合格となる。
「そうだね。今回の10級の実技試験はポーションと鉄鉱石から鉄を抽出し、インゴットの作成になる」
あ、サシャは受かったな。
リートで散々、やらせたやつだ。
マルティナも実技の方では良い線行くかもしれない。
もっとも、どっちも筆記試験次第だが。
「基礎中の基礎だな」
「10級だからね」
まあ、そうだけど。
「私はリーランド支部なんだが、ウチの子達はマズいかもね」
アルノーが苦笑いを浮かべた。
リーランドは王都に近い中都市の町だ。
「そうなのか?」
「ここのところの鉱石不足を考えて、そっち系の試験はないと踏んでいたんだよ。ちゃんとヤマを張らずにやれって言えば良かった」
あー、鉄鉱石を確保できないって踏んだのか。
「それは言うべきだったな。鉄鉱石の錬成もできない10級なんかいらんぞ」
「最近の若い子に強く言えなくてね……私達の代はスパルタだったけど、最近はきゃぴきゃぴした今時の若い女の子が増えたよ」
どうでもいいけど、きゃぴきゃぴはおっさんっぽいな。
おっさんだけど。
「アルノー、それが時代だよ。私らも歳を取ったってことさ」
「そうだね……」
さすがは3級以上のジジババだ。
会話が古臭い。
「何にせよ、ポーションとインゴットの見方はわかる。採点基準も読んでいるから大丈夫だ」
というか、一目見て、わかる。
最初ができない奴は最後までできない。
「そうかい。何かあっても試験中は声を出したらダメだからね。何かあったら紙に書いて、私に渡しな」
「17時までだったか?」
「そうなるね」
「途中退室はダメだよな?」
俺はいつも14時か15時には終わっていた。
途中退室を認められたことはないが、俺が3級を受けたのも結構前になる。
「ダメだよ。トイレによる退室は認めるけど、その際は外にいる運営委員会に伝える。わかったかい?」
変わってないわけね。
「了解」
「それと一応、言っておく。今年から実技に関しては二重チェックになる。あんたらも採点するけど、責任者である私もあんたらの担当の受験者を採点するからね」
ほう?
アウグストの件を受けて、対策をしてきたか。
「それは良いことだな。で? お前の担当は?」
誰が二重チェックをするんだ?
「私を疑っているのかい?」
誰だよ、お前。
「そっくりそのまま返す」
「ふーむ……確かにねぇ……運営委員会にその辺も話した方が良さそうだね。じゃあ、こうしよう。あんたらは私の担当をチェックしな」
まあ、それでいいか。
「ヴァネサさん、評価が分かれた場合はどうするんです?」
アルノーが聞く。
「大きなズレがない限りはメインに担当している者の評価を優先することになっている。ズレがあった場合は平均するらしいよ」
それでいいのかね?
「ふーむ……」
「大丈夫。そこまでズレやしないさ。あと運営委員会もその辺を変えていく途中だからまた次も変わると思うよ」
そうやって良い試験にしてほしいものだ。
「まあ、これまで個人の判断に任せていたところを変えるのは良いことだと思います。確かに複数人で見た方が良いのはそうですから。わかりました」
「じゃあ、そんな感じね。頼むよ」
「わかりました」
「ああ」
俺達は頷き合うと、昼食を食べていった。
◆◇◆
私達は会館を出て、敷地内にあるベンチに腰かけると、昼食のパンを食べる。
「ふう……どうだった?」
エーリカさんとレオノーラに午前中の筆記試験の出来を聞く。
「難しかったですね。でも、なんとかなりそうです」
エーリカさんは大丈夫そうだ。
「私も多分、大丈夫だと思う。ちゃんと勉強して良かったね」
レオノーラも問題なさそうだ。
「アデーレさんはどうですか?」
エーリカさんが聞いてくる。
「大丈夫だと思う……うん、大丈夫」
ちゃんとミスがないかも確認したし、良い感じだったと思う。
正直、前回の8級よりも手ごたえはあった。
「良かったです」
「なんとかなりそうだねー」
「問題は午後からの実技だけどね」
私だけ……
だって、2人共、8級の私より錬金術が上手だし……
「実技も大丈夫だって。あれだけやったんだよ? アデーレなんか二刀流もできるじゃん。試験で見せたら?」
「嫌よ。堅実にやる」
試験で評価されるのはそこだ。
確実性、スピード、品質……ん?
「あ、サシャさんですよ」
「本当だ。サシャだ」
2人が言うようにサシャがこちらに近づいてきていた。
「サシャ」
「アデーレ先輩、お疲れ様です。御二人も」
サシャが笑顔で頷く。
「サシャさん、どうでしたー?」
「過去一でできました。あとは実技をやって、天命を待つだけです」
自信がありそうだ。
「頑張ってください。まあ、私達もなんですけど」
それはそう。
「はい。では、これで。ちょっと気分転換に散歩してきます」
この子も実技がヤマだから緊張しているんだろうな。
「サシャ、自信を持って。ちゃんとジークさんやゾフィーさんに教わったことをやればいいから」
「そうします」
サシャは力強く頷くと、歩いていった。
「やっぱり緊張かしら?」
「10級ですからね。受かった時は嬉しかったですけど、受けた時は緊張しました」
「私もそうだね。10級から9級とは違って、国に錬金術師として認められるかどうかだから」
私も緊張したわね……
それにサシャの実技経験が圧倒的に足りていないという気持ちもよくわかる。
でも、自分を信じてほしい。
サシャは最高の錬金術師に大丈夫と言われたのだから。
そう思うと、自分もそうだなと気付いた。
すると、緊張がすーっとなくなっていった。
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