第308話 読むのはあの本
「どういう人間だ?」
「真面目だな。あと指示が的確という印象だった。やり手だ」
能力はありそうだ。
まあ、ジーンの支部長を任せられるくらいだからそうか。
辺境のウチの天下り支部長とは違う。
もっとも、俺にとってはそっちの方が良いが。
「ふーむ……」
しかし、なんとなくわかってきたな。
「どうした?」
「いや、なんでもない。これを聞くかは悩んだんだが、聞いてみる。ジーンの元リート支部の奴らもいただろ。どんな感じだ?」
「あー……それね。結論から言えば知らない」
知らないか。
「まあ、そこまでわからないか」
「いや、お前がリートに行ったこともリートの事情も知っていたから調べようとは思ったんだ」
俺のためか、レオノーラのためか。
まあ、どっちでもいいか。
「調べなかったのか?」
「あそこはその辺がタブーになってた」
「タブー? なんでだ?」
「あそこにいる錬金術師の8割が引き抜かれた奴らだからだよ。そして、その大半は故郷を捨てた奴らだ。思うところはある」
捨てたって……
「いや、良いところに異動しただけだろ」
転職ですらない。
引き抜きとはいえ、所属は錬金術師協会であり、ただの人事異動だ。
「連中はそう思ってないってことだ。後ろめたさがあるんだろ。錬金術師協会は少し異質だ。人事希望がほぼ通るんだよ。俺がジーンに行きたいって言ったらジーンに行ける。さすがに支部から本部は無理だが、支部にはどこからでも行ける。こんなところは他にないぞ」
確かにないな。
「俺がジーンに行きたいって言ったら行けるしな」
向こうが受け入れてくれるかは知らない。
「あ、いや、俺もだが、さすがに一門は本部長が止めるけどな。でも、普通に異動希望自体はほぼ通るんだ。これは各支部が争い、高め合っているからだ」
競争。
良い言葉だ。
勝者と敗者がおり、俺が勝者だ……った。
今は違う。
もう争いの場には立たない。
「良いことだと思うぞ。ジーンに行った奴らも正解だ。己を評価してくれるところに行くべきだ」
せっかく最難関の国家錬金術師になったわけだし、上を目指すべきだ。
もちろん、収入も良いだろうし、当たり前のことである。
「連中もそう思って、ジーンに行った。でも、中にはリートみたいなことが起きた支部もある。そして何より、連中の心の中にはいつまでジーンにいられるだろうという不安もある」
マリアンネが言ってたことか。
「錬金術師ならどこでも行けるだろうに……」
国家錬金術師に受かり、引き抜かれるだけの能力があるなら職に困るということはない。
むしろ、仕事ができる人間という証明だし、人手不足のこの業界では引く手あまたじゃないか?
「それがタブーなんだ。要は皆、地元に帰りたいんだよ。和気あいあいとしているし、仕事も充実している。ただ、交流会とか懇親会なんかの飲みの席で地元の話題になると、皆、暗くなる」
ふーん……
「今日、隣だった隣町のマリアンネが戻ってくるとしても、どの面下げて戻ってくるのかって言ってたな」
自分のことを棚に上げて……
「それが怖いんだろ。王都出身の俺達にはわかりづらいけどな」
ふーむ……
もし、リート組がウチに戻ってきたとしたら、エーリカとレオノーラは思うところがあるだろうが、歓迎するだろうな。
アデーレは愚痴ってきそうだ。
「戻ってきて、上手くやれるだろうか……リート支部って明確に俺がトップだぞ。支部長は軍人上がりだし、錬金術師は3人共、弟子だ」
「さあな……でも、リートの連中は戻りづらいんじゃないか?」
「ふーむ……」
ちらっとテレーゼとコリンナ先輩を見てみる。
「私がその立場だったらちょっと嫌かな……」
「私も……それこそ近くのネピアに行きそう。里帰りしやすいし」
テレーゼもコリンナ先輩もそう思うらしい。
「支部は新築され、別物になっているな」
「知ってる。ハイデマリーさんとゾフィーちゃんがジーク城って言ってた」
「俺も聞いた」
こういう時だけ結託するクズ2人……
「まあいい。その時になったら考える。じゃあ、俺は帰る」
「用事でもあるのか?」
クヌートが聞いてくる。
「別にない」
「じゃあ、手伝えよ。お前、試験を受けないだろ」
ふむ……別にいいか。
「わかった。お前らが一週間かけてやる仕事を半日で終わらせてやる」
「ジーク君、すごーい」
「コリンナさん、こいつはマジでやるんで面倒な仕事をやらせましょう」
「ちょっと待ってね……いや、面倒な仕事ばかりね」
大変だな、ここ。
その後、仕事を手伝っていく。
リートでやっているような仕事とはまるで違う質の高いものだったが、正直、俺にはどれも一緒なので普通にこなしていった。
そして、ある程度、片付けると、時刻が17時を回ったので立ち上がる。
「こんなところだろ。俺はもう帰るからな」
「ジーク君、ありがとうね」
「本当に一週間分をやってしまうんだ……そりゃ飛空艇製作チームにいた時も協力しないわよね……」
旦那さんから色々と聞いているっぽい。
「ジーク、助かった」
クヌートが礼を言ってきた。
「お前らは一応、試験を受けるんだから明日、休めよ」
どうせ落ちるけど。
一夜漬けでどうにかなるものじゃない。
ましてや、テレーゼが3級でクヌートが5級試験を受ける。
無理だ。
「2人共、いいよ」
コリンナ先輩が頷く。
「じゃあ、私はリーゼちゃんとマルタちゃんを誘って、一緒に勉強します」
「そうしてあげて」
クヌートはクリスとかな?
まあ、何でもいいか。
仕事が終わったので本部を出る。
もちろん、サシャにはちゃんと声をかけた。
そして、ホテルに戻ると、受付に向かった。
「すまん。ちょっといいか?」
受付にいる女性に声をかける。
「いかがしましたか?」
「明日の昼にレオノーラ達3人が王都に来て、チェックインすると思う。その時に伝言を頼む。予定が変わったから部屋にいる、と」
「かしこまりました。お伝えしておきます」
「頼む。それと夕食を部屋で食べるから持ってきてくれ」
「はい。すぐにお持ちします」
女性が頷いたので部屋に戻り、一息つく。
そして、夕食が来たのでヘレンと一緒に食べ、その後はやることもないのでウィスキーを飲みながら本を読んでいった。
いつもお読み頂き、ありがとうございます。
本作の第4巻が明日発売となります。(地域によってはすでに書店に並んでいるかもしれません)
また、電子は0時から読めます。(↓にリンク)
それと購入特典が決まりましたのでお知らせいたします。
初回出荷限定特典※
【囲い込み】
登場人物:エーリカ
エーリカが母校に行き、先生と話すSSです。
※帯にアクセス用のQRコードが付いており、それを読み込めば読めます。(しおりではないです)
紙の書籍限定となり、紙の書籍ならば他の書店特典と重複しても読めます。(2つ読めてお得)
BookWalker 様(電子書籍)
【仲良しコンビ】
登場人物:テレーゼ、ハイデマリー
二人がシーサイドホテルの部屋で話をしているSSです。
ゲーマーズ様
【やきとりパーティー】
登場人物:アデーレ、レオノーラ
ジークとエーリカがシーサイドホテルに行っている間に二人がやきとりでバーベキューをしているSSです。
メロンブックス様
【アデーレとの夜】
登場人物:ジーク、アデーレ、ヘレン
合格発表の前日に寝られないアデーレがジークの部屋に行った話の続きのSSです。
受注店特典様
【家ディナー】
登場人物:エーリカ、レオノーラ
ジークとアデーレがシーサイドホテルに行っている間に二人が家でご飯を食べながら話をしているSSです。
※受注店は↓にある画像をクリックするとカドカワBOOKSホームページに行くのでそちらに記載されています。
カクヨムのメール※
【皆で釣り】
登場人物:ジーク、ヘレン、エーリカ、レオノーラ、アデーレ
4巻最後の続きで翌日の休日に皆で海で魚釣りをするSSです。
※こちらはカクヨムにおける本作品のフォロワーに送られるSSです。
カクヨムの方の本作をフォローしていると、発売日ぐらいにメールでSSが届きます。
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