第267話 三度電話
廃品場をあとにすると、支部に戻った。
そして、共同アトリエでコーヒーを淹れている支部長がいたので依頼のことを説明する。
「ふむ……鍛冶屋はそれで凌ぐつもりなわけだ」
支部長が頷いた。
「焼け石に水のような気もしますが、何もしないよりかはマシといった感じですかね?」
「それまでに回復すればいいのだが、厳しいか」
すぐに状況が治まるとは思えんな。
「おそらくは……」
「銀やアルミも緊急依頼だから進めるべきだが、そっちもやった方が良いな。できることはしてやれ」
「ええ。ただ、単純に人手が足りていません。来月に試験を控えていますし、できたら残業は避けたいです」
「仕事を優先して欲しいとは思うが……」
それはそうだ。
「3人共、受かる可能性が高いです。残りひと月の頑張りですし、できたらそちらを優先したいですね」
ここまでやってきた二ヶ月を無駄にしたくはない。
「うーむ……王都から応援は呼べんか? よくお前の一門が来てただろ」
クリスも来たし、テレーゼ、ハイデマリー、ゾフィー……確かによく来てるわ。
「本部長に頼んでもいいですが、本部も激務ですのでちょうどいい人間がいるかはわかりませんよ。仕事をしてないであろうマルティナくらいは来られるかもしれませんが……」
あいつはまだ実務をやらせてもらえる段階じゃないし、見学と練習、それに勉強だろう。
「マルティナはその仕事ができるか?」
「鉄を取り出す作業はそう難しい技術ではありませんし、教えればできるようになると思います。ただ、あいつはハイデマリーの弟子なのでハイデマリーがどう判断するかですね」
もしかしたら座学を強化中の可能性がある。
「うーむ……わかった。ひとまずは本部長に相談してみろ。ダメなら仕方がない。ウチでできるだけのことをやれ。その辺は任せる」
「わかりました」
頷くと、電話を取り、本部にかける。
すると、すぐに呼び出し音がやんだ。
『はい、錬金術師協会本部です』
サシャだ。
サシャか……
こいつ、ちょっと来ないかな?
「リート支部のジークだ」
『あ、ジーク先輩。最近、よくかけてきますね』
ホントだわ。
「まあな。お前、来月の試験に向けてはどうだ?」
『勉強中です。でもやっぱり、実技が厳しいですね。家で自主練しかないですし。アデーレ先輩は本当にすごいですよ』
ふむふむ。
「そうか、そうか。まあ、頑張ってくれ。すまんが、本部長に繋いでくれ」
『わかりました』
保留音に変わった。
「エーリカ、レオノーラ、俺を受付嬢好きとは思わないよな?」
「猫が好きな人だと思ってます」
「そだね。ヘレンちゃんラブ」
ふむ……よしよし。
肩にいるヘレンを撫でると、保留音がやむ。
『ジークかー? お前がこんなに電話をかけてくるなんて珍しいな。私はもうすぐ死ぬのか?』
憎まれっ子世に憚るという言葉を知らないのかな?
口には出さないけど。
だって、ここにいる全員が苦笑いを浮かべ、本部長は『じゃあ、お前は長生きだな』って言うから。
「色々とありましてね。今回はちょっとご相談です」
『…………ガキでもできたか?』
何を言ってんだ、こいつ。
「できてないし、できたとしてもあんたには相談せん」
本部長に育てられたガキは見事に左遷させられるような35点になったわ。
『そうかい。それで相談って何だ?』
「実は例の鉄や銅が不足している問題なんですが、今日、鍛冶屋から仕事を受けましてね。集めた廃品から鉄を抽出するという仕事です」
『あー、なるほど。再利用しようってことだな。良い考えだと思う。頑張れ』
俺も発想自体は悪くないと思っている。
エコってやつだな。
「ええ。頑張るは頑張るんですが、どうしても人が足りません。何人か出張扱いで送ってくれません?」
『そう言われてもな……期間は?』
「1、2週間ってところです」
それくらいの期間を手伝ってくれたら目途が立つ。
『それくらいならまあ……誰が良い?』
「優秀な人間が良いですが、無理は言いません。今、考えているのはマルティナですね」
『あー、良いんじゃないか。地元の人間だし、そろそろ故郷が懐かしくなる時期だろう。ちょっと帰るだけだし、ハイデマリーも文句は言わないんじゃないか? 役に立つかは知らんが』
それはまあ、ね……
「ハイデマリーに聞いてみます。それとサシャを借りていいですか? もちろん、本人が頷けばの話ですけど」
『はいはい。受付嬢ね。好きだねー』
違うっての。
「さっき軽く話をしたんですが、来月の10級試験に向けて勉強しているそうですが、やはり受付業務なので実技が不安のようです。ちょうどいいなと……」
『ふむ……そっちにはアデーレもいるし、上手くやれるか』
「魔法学校の後輩なんですよ。一応、俺もですけど……」
本当に一応ね。
『まあ、いいぞ。本人に聞け』
「わかりました。他にいませんかね? クリスかテレーゼが良いんですけど」
無難な2人。
『さすがにそいつらは無理だな。クリスはチームリーダーだし、ちょっとこっちの仕事を手伝ってもらっている』
例のジーンか。
貴族のクリスを使っているわけだ。
「じゃあ、あいつは無理ですね。テレーゼは……無理ですかね?」
『魔導石製作チームはなー……クヌートを入れたから楽になってはいるはずだが、テレーゼに抜けられるとマズいわな』
さすがに無理か。
あいつがエースだしな。
「そうですか……」
『ゾフィーでも送ってやろうか?』
んー?
「子犬?」
『ゾフィーだ』
あいつか……
「相性が悪いんですけど……」
『お前ら、クズ3人は仲良しだろ』
あんたも入れて4人だよ。
「うーん……ちなみになんですけど、仕事は大丈夫なんですか? 飛空艇製作チームに異動になったんですよね?」
『1、2週間だろ? 問題ない。それに飛空艇製作チームはちょっと落ち着いているんだ。コリンナの旦那がコリンナを手伝っているくらいにはな』
チームリーダーじゃん。
「あー、ジーンが飛空艇製作業務を受注したからですか」
『そういうことだな。そういうわけであいつなら持っていっていいぞ。もちろん、本人が頷けばだがな……』
うーん……今はきゃんきゃん吠える子犬でも必要か。
腕は文句なしなわけだし。
「わかりました。ちょっとそいつらに声をかけてみます。すみませんが、ゾフィーに繋いでもらえます?」
『あいよ。ちょっと待ってろ』
本部長がそう言うと、保留音に切り替わった。
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