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3曲を殿下とご一緒し、周りの令嬢や娘を持つ貴族の怒りの眼差しが気まずかったが、議会の見学ができるなんてと喜びが勝る。
議会の様子や運営の状況など、しっかりと見て確認していこう。
そんな色々な考えが顔に出ていたらしく、私を睨みつける人たちからの声が聞こえる。
「殿下と3回もダンスをしてさぞ嬉しかったのでしょうね。ニヤニヤして。」
「クレア様でしたかしら。確かご婚約者がいらっしゃると伺いましたが、他の殿方と踊るだなんて」
「美しいからって調子に乗ってるわ。爵位もないたかが田舎者のくせに」
などなど。
ニヤニヤはしていたかもしれないが、王太子殿下とのダンスによるものでは断じてない。議会への見学が許され、私の議会の設置に解決の希望の光がさしたことによる嬉しさなのだ。
尻軽と思われるのはまぁ無理もない。誘われて断るのも相手は王太子殿下ですから1曲は応じますわよ。いつもはせいぜい2回まででお断りしてますけど、話が盛り上がってしまったのだもの。
などと心で反論する。
言い返したりはしない。
悪意のある人には何を言っても無駄だ。
笑顔で当たり障りなく対応するに限る。
ダンス以降は針の筵と化したパーティーであったが、今日は出席して本当に良かったと思う。
客間に通され、部屋着へ着替えた。
しばらくくつろいでいると、ノックされ、入ってきたのはマーティン殿下だ。
「未婚の女性のお部屋へ夜に訪問するのはいかがなものでしょう?」
とたしなめると、
「何もせぬ。何もというのは違うか?話をしたくてな。そなたとゆっくり話しをしたことがないであろう?」
「そうですね。私も殿下とゆっくりお話ししたいと思っておりました。」
そう言って微笑むと、殿下は目を逸らした。
「そなたは本当に自分のことをわかっておらぬな。たとえ部屋着であってもそなたの美しさの前にはドレスのように華やいでいる。そなたが笑えば光がさすようだ。声を聞けばどんな音楽よりも心地よい。それでいて本人はそれを自覚していない。その口から出てくる言葉は愛の囁きではなく政治についてであるし、そなたの表情からは感情を読み取れぬ。まるで彫刻のように整ったその姿に感情は隠れ、そなたの本質が見えぬ。」
ベタ褒めというのはこういうことなのだろう。
確かに自分のことを美しいと思ったことはない。
そのように言ってくださるのも殿下だけだ。
「殿下、もったいないお言葉ですが、それは女性を口説くための作法なのですか?確かに私は感情を外に出すというのは下手です。隠しているつもりはないのです。単に不器用なのです。年頃の令嬢のようにオシャレをしたり、楽しく過ごす生活と無縁でしたから。私の役割を、私の使命を果たすことに精一杯なのです。」
そう言うと殿下はため息を吐いた。
「そなたはまだ15と聞いている。もっと自分のことも大切にして楽しんで良いのだ。私は今22だが、15の時分には剣術の稽古に夢中で勉強をせぬとよく怒られておったものだ。」
殿下が子どものように怒られているところを想像して笑ってしまった。
「笑ったな。もっとその顔を、その表情を出すと良い。私はその顔を肖像画にして持ち歩きたいくらい美しいと思っておるぞ。」
殿下といると自己肯定感が高まる。
いつも何かしらを褒めてくれ、嫌味なく認めてくださるような、包み込んでくださるような、そんな言葉をくださる。




