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#1.序章

始まりましたイミテーションズ!

バイオレンスとエロと笑えない笑いとマニアックなネタ多めでお送りします。

連載処女作なので、お手柔らかに。

月1くらいで更新出来るのを心掛けます!

感想宜しくです

走る、はしる、ハシル。

闇を跳び、光を浴び、息を切らしながら。

追う、迫る、追い詰める。

足元の配管をなぎ倒し、行く手を遮る看板をぶち抜き、ニヤニヤと嗤いながら。

追う『もの』と逃げる『モノ』。ネオンサインの光と、その合間の闇とを縫う様に、追跡劇…いや、追撃戦は進んでいった。

追われる影は三十半ばか、遊び人風の真っ赤なスーツに身を包んだ若い男だった。

軽薄そうな優男顔にいつも浮かべているであろう営業スマイルはどこかに消し飛び、恐怖と焦りの二つを張り付けた緊張感にすっかり支配されていた。

歓楽街のビルの屋上を戦場に、二つの影は駆け抜ける。BGMは乾いた、しかし重々しい破裂音。

ドン!…ドン!と散発的ながら腹に響く音も、歓楽街の歓声にすっかりとかき消される。

頭上の殺し合いなどまるで意に介さないかの様に、屋上と下界は切り離されていた。

「ハァ…ハァ…ハァ…ハァ……糞ッ!」

追われる優男が振り返ると、追撃者は後方約50mにピッタリと追従していた。

顔はよく見えず、体格と「ニオイ」から相手が男だとは判断出来た。手には大きな鉄塊、恐らくはアサルトライフルを抱えている。

「ほらほらぁ!もっと逃げろよぉっ!!」

まるで遊んでいるかの様な追撃者の叫び声…意外と若い。

またも重い破裂音が響くと、男の足元や、すぐ横の看板に大穴が穿たれる。音や穴から判断するに、追撃者のライフルはかなりの大口径。

当たれば確実に即死であろう…人間ならば。

「走れや走れ~っと!!」

はやし立てる様に追撃者は撃ち続ける。放たれた銃弾は殆ど優男から外れるか、スーツの端を焦がすだけ。

が、それだけで充分優男にプレッシャーを与えていた。

遊ばれている…こちらが必死になって逃げてるというのに、相手は遊んでいる!

「ふざけんなクソッ!」

優男は苛立ちながらスーツのポケットを弄ると、包み紙にくるまれた飴玉を取り出し、徐にそれを口に含み噛み砕いた。

これで負けない…クリアになる思考と、身体に漲る力を感じながら、優男は跳んだ。

「ありゃ…『キャンディ』キメちゃったか…メンドクセ」

軽々と10mは跳躍した優男の変化に追撃者はボヤいた、あくまで楽しそうな口調で。

<目標、変異。遊び過ぎよロクロウ>

追撃者・ロクロウの耳の中で声が響く。冷静だが優しい女性の声、ロクロウには聞き慣れた声だ。

「へいへい。しかし当たんねえな.50口径」

<当てる気無いなら当然でしょ?自分で事態を面倒臭くしないの>

半ば呆れた口調がロクロウに突き刺さる。

普段は優しい癖にこういう時は容赦ない…はっきり言ってツラい。

そう思いつつ、ロクロウはライフルのセレクタをセミからフルに切り替えた。

優男との距離は約120m。だいぶ離れたが問題ない。

走ったまま、ロクロウはライフルの銃床を肩に当て構える。

ライフルに備えたセンサーと同調した照準が、彼の眼鏡型ディスプレイを通した拡張現実として視界に投影された。

<怒ってるのは分かってる。だから早く、終わらせましょう?>

長い付き合いだ、すっかり見透かされていた。

ロクロウの脳裏に、先程の凄惨な光景が蘇る。

血まみれの部屋で、赤と青の飴玉の山で、喰い散らかされ、犯された少年少女…だった肉塊の数々。

頭や手足、胸や尻といったパーツ単位でバラバラな、人間だったもの。

むせる程の血の臭いと、甘ったるいドラッグの臭いと、糞尿や精液の混ざった臭い。そんな地獄の中で、あの優男は嘲笑っていた。

馬鹿なガキだと、クスリでハイになって余計に何も分からない馬鹿なガキだと、だけども生意気に締まりは良かったと。

優男がまた跳躍する。

チャンスだ。

人間の尊厳や希望や未来を、自分の快楽と引き換えにまとめて噛み砕いた獣。

ロクロウの顔から一瞬だけ嗤いが消えた。

「……墜ちろ」

空中にあるその獣に向け、ロクロウはトリガーを引いた。ドドドド…まるで削岩機の如き轟音が闇夜に響く。

「グガァァァッ!!」

着弾した優男の身体に、ピンポン球大の穴が幾つも穿たれていく。

片手片足が千切れ、全身を穴だらけにした優男は落下していった。

戦車に搭載される重機関銃にも使用される12.7mm弾を、フルオートで10発。時間にして1秒程度の斉射だったが、大口径弾の生み出した殺人的な反動をまるで意に介さず、ロクロウは全弾を優男に命中させた。

<全弾命中…グッドショット>

「ありがと、眼鏡のおかげかな」

指先で眼鏡の位置を直しながら、ズームアップ機能を使って優男の落下したであろうビルの屋上を見た。

「流石に…まだ生きてるよな?」

足を止め、マガジンを交換しながらロクロウは声の主に聞いてみる。『奴等』は簡単には死なない。

完全に殺すなら正確に頭か心臓をぶち抜く必要がある。加えて、『キャンディ』を既に服用している状態なら、あの程度の斉射では死ねない。

分かりきってはいたが、ベテランである彼女に確認した方が確実だった。

<勿論。首だけでも持ち帰って>

「了解、任せんしゃい」

優しい声からのリクエストに、ロクロウはまた嗤いながら応えた。


「か…はっ…あ…っ…クソッ…たれが…」

コンクリートと血溜まりの上で優男はうつ伏せのままで蠢いていた。

腹や胸に空いた風穴からは赤黒い血が流れ、左足は膝から下が千切れ、右腕に至っては肩ごとえぐり取られていた。

即死して当然の重傷だった。が、優男は生きている…人間らしい姿ではなかったが。

膨れ上がった手足、毛皮の様に厚い体毛、尖った犬歯と耳…まるで狼男の様な姿に優男は変わっていた。

敢えて頭と心臓を外された…。

血溜まりを這いながら狼男はそう考える。

奴の狙いは自分が有する情報…逃げねばならない、何としても。

そして伝えなければならない。

奴が我々の…『トリプルシックス』の敵だと言う事を。

「ん~ん~んんん~♪デゲデゲデゲデッで~でっで~♪」

調子っ外れの鼻歌を歌いながら、彼に重傷を与えた追撃者がやってきた。

「よぉ、色男…まだ生きてる~?」

「ぐっ…!」

狼男の首を思い切り踏みつけ、ライフルの銃口を頭に向ける。

「肺に肝臓…脾臓…腎臓…左足に右腕…ボロボロだねぇ…まぁ治るだろ。傷塞がり始めてるし…もう喋れるよな?」

優男を値踏みしながらもロクロウは軽い口調を崩さない。その言葉通り、優男に空いた風穴はもう殆ど塞がっていた。

「て、テメェ…俺が何者か知ってんのか…?」

「知ってるよ…!」

「ぐはっ!」

荒ぶる狼男の首を、ロクロウは思い切り蹴り上げてフェンスに叩き付けた。ライフルの銃口を向けたまま、男を睨み付ける。

「人間のガキ相手にクスリ捌いてる、獣人種-セリアンスロープ-の売人さんだろ?ついでにロリコンでショタコンで人殺しだーいすきな畜生以下のゴミだ」

嘲る態度を崩さずに徐々に距離を詰める。不意に、低くくぐもった笑い声が狼男から漏れた。

「トリプルシックスに手を出したんだ…テメェ死ぬ…ぎゃぁぁっ!!」

全部を言い終わる前に、狼男は再び地に伏し身を捩る。ロクロウのフルオート射撃により、また風穴が増えた。

「あ?人間モドキ-イミテーション-如きが何抜かしてんだよ。笑えるぜお前」

人狼の脳天に焼けた銃口を押し当て、嘲嗤う。

残った左手で股間を抑えながら男は呻きながら悶える。指の隙間から赤黒い血が止めどなく流れていた。

「ぶっ殺してやる…ぶっ殺してやるゥッ!!」

「タダで去勢してやったんだし、御礼の一つも欲しいねぇ…今まで犯り殺した子達に精一杯詫びろや」

<ロクロウ、情報を聞き出して>

窘める声が熱くなったロクロウの身体に染み渡る。

ふぅ…とため息を吐き出し一時クールダウン。狼男の眼前に彼は何やら袋を突き出した。

中には赤青二色の飴玉が入っていた。

「この『キャンディ』…コイツを捌いた理由は?」

狼男は依然唸り続けたまま。銃口を押し当てる手に更に力が加わる。

「小遣い稼ぎじゃねぇよな…ガキ相手じゃ利が少な過ぎる」

唸り続ける狼男に痺れを切らし、未だ流血し続ける股座を力の限り踏みつけた。

「ギャアァァァッ…!!!」

「吐けよ。何故獣化促進剤をガキ相手に捌いた?テメェ等の頭は…誰だ!?」

ロクロウの怒号が響く。

相変わらずののニヤニヤ嗤いだが、その眼は爛々と怒りに燃えていた。踏みつける足の力は更に強まり、ブチブチと肉を押し潰す音と感触がブーツ越しに足の裏に広がる。噴き出す血でブーツやジーンズが汚れようとお構い無しだ。

「は…話す…話すから…ぐっ…助けてくれ…ぇ…!」

狼男の叫びに応じて足を離す。銃口は依然押し付けたままではあるが。

「嘘は無し、分かってるよな?」

荒い息を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す狼男、ロクロウはそれをニヤニヤと見ていた。

が…。

「う…っ、ああ…俺達トリプルシックスの目的は……ぐぁ…あァァぁぁァぁアア!!!!!」

突然、狼男が吼えた。

目、耳、鼻といった穴という穴から血が吹き出し、頭を抱えのたうち回る姿は、まるで何かに攻撃されている様に見えた。

「おいおい…笑えねぇぞ」

『殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せた殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦え殺せ戦って死ね』

狼男に掴み掛かったロクロウの頭の中に、急に叫び声が飛び込んできた。

殺意を帯びた叫び声に頭をシェイクされる感覚が襲う。

「がっ!何だこれ!?」

<指向性超音波…ロクロウ!敵よ!!>

狼男から何とか離れ、叫び声の代わりに緊迫した彼女の声が耳に入る。

「場所は!?どこだ…?」

<周囲のカメラには映ってない…センサーにも引っ掛かってない…索敵不可…敵はステルス能力の可能性大!>

「厄介だなぁ…」

心底面倒そうなボヤきとは裏腹に、既に戦闘態勢と周囲の索敵を行う。

超音波を発した敵も気になるが、今は目の前の狼男が問題だった。

「グォァァァァァァ!!!!!」

ウォークライを上げる狼男。ロクロウが取り落とした『キャンディ』を喰らったのか、身体が元の倍は膨れ上がり更に獣化が進行していた。

「喰ったなこりゃ」

<ドジねえ…もう>

「ごめんなさい頑張ります」

ツッコミに思い切りヘコんだ顔になりながらも、ライフルを構え直し狼男と対峙する。

超音波の敵は攻めてはこない…超音波で狼男を暴走させて自分を始末、済んだらまた超音波で自殺を誘発させて事を治める魂胆か。

「ワァァァァァッ!!!!」

と、思索を巡らせているうちに、痺れを切らした狼男の突撃がロクロウを襲う。

一瞬で鼻先に迫った隻腕の砲弾を、最低限のステップで回避。急所に向けトリガーを引こうとしたその刹那…。

「シヤァッ!!!」

「マジ!?」

千切れた左足で地面を無理矢理蹴り、ほぼ直角に跳ぶと強烈な右の蹴りがロクロウに叩き込まれた。

「うわっ!!」

何度も地面をバウンドしながら、フェンスに衝突する。

片や、冗談の様な動きでロクロウを強襲した狼男も地面に伏していた。

「っ…あぁ、もう…痛ってぇ…」

ライフルを杖代わりに、ロクロウは何とか立ち上がったが、かなりふらついていた。目立った傷は無いものの、彼を襲った衝撃はダメージを与えるには充分なものだった。

<ロクロウ!?>

「大丈夫、生きてっから」

心配そうな彼女に向けて軽口を叩く。

ライフルを構え直すが、機関部からひしゃげており射撃は無理であろう。先ほど咄嗟に盾代わりにしたお陰だ。

状況は芳しくない。

「悪いユキ…頭持って帰れないかも」

彼女-ユキ-に申し訳無さそうに声を掛ける。

ライフルにアドオンされたグレネードランチャーの状態を素早く確認。照準は目測で行う必要があるが問題ない、使いたくは無かったがいける。

トリガーに指をかけると、倒れ伏した狼男にロクロウは狙いを定めた。

「ガァァァ…!!」

「よぉ…色男」

血反吐を撒き散らしながら立ち上がる狼男に、憐れみの様な嘲嗤の様な声を掛けた。

「ウォォォォォァァァァッ!!!!」

再度突撃する狼男。最早意志や理性も無く、ただ全力で。

「往生せいやァッ!!」

ギリギリまで引き付けてトリガーを引く。

ロクロウの叫びは爆発に飲み込まれて、消えた。


<ロクロウ!?ロクロウ!!>

「あいよぉ~。大丈夫、生きてる」

悲痛なユキの声をよそに、ロクロウはとても脳天気な声で応えた。

<良かった…>

「あれ位じゃ死なないよ…あ~あ、ミンチより酷ぇ。ごめんユキ、細切れになっちった」

心配させない様に優しくユキに声を掛け、焦げたロングコートの煤を払いながら立ち上がる。

周囲は肉の焦げた臭いが広がっていた…先程爆散した元・狼男の破片がブスブスと燻り続けいる。

しばらく焼肉は喰えないな…と、内心ロクロウは思った。

<仕方無いわ。貴方が生きてるなら、それで構わない>

「ありがと…取り敢えず回収出来そうな物は回収するよ」

ボキボキと首を鳴らし、周りに飛び散った元・狼男を捜索する。焼け焦げた肉やら、骨やら、服の切れ端だらけの足元を踏まない様にそっと進むと…。

「お、残ってた!」

焼け焦げた肉片の中から獣の首を拾い上げた。顎から下は吹き飛んでいたが、何とか形は留めていた。

<OK。野次馬が集まり始めたわ。下でピックアップするから、帰還して>

「了解~。ついでに財布も燃え残ってた。大収穫だわ」

恐らく過度な装飾の名残であろう、如何にも成金趣味という感じの名残の、表皮が消し炭となった長財布をひっ掴み、ポケットにねじ込む。

「ライフル一丁分の対価になるかしらねぇ?」

<真面目にやってたらもっと簡単だった筈よ?冷静になれないロクロウのミス>

ニヤニヤと勝ち誇ってみたロクロウに、ユキはきっつい釘を刺す。若干イラっとしたが、非は自分にあると素直に認める事にした。

「すみませんごめんなさい調子に乗りました」

破損したライフルを担ぎ上げ平身低頭、ロクロウは素直に謝り倒す。

色々刃向かったら怒られる。

<まぁ、ロクロウらしいから…いっか>

どうやら許してくれたらしい。優しいんだか辛辣なんだか相変わらずよく分からない。

 そんなところもまた可愛いのだが…。

 「ふぅ…厳しくなりそうだなぁ…コリャ」

 またまたボヤきながらフェンスを飛び越えると、塞がった右手で何とか左腕のウェアラブルコンピューターを操作する。

 身体が軽くなったと感じると、派手な追撃戦を繰り広げたロクロウはフワリと夜の闇に身を投げ、消えていった。

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