7-77 二つの塔で苦労も二倍だった
―1―
非常に重そうな14型が羽虎にぶら下がる。一気に重くなったようだ。それでも羽虎が高度を保とうと必死に羽ばたいている。あー、これ、みんなで仲良く落下パターンじゃないか?
などと俺が考えていると、下の方で、しゅわしゅわしていた液体が固まり始めた。龍を倒したから、か?
やがて液体は完全に固まり、コンクリートのような地面へと変わった。そして、その固まった液体の先の壁が開き始めた。おー、よく分からないが、先に進める感じだな。
透明な壁に隔てられた向こう側でも、壁の一部が開き、先に進む通路が現れているようだ。さて、どうしたものか?
最初に14型が掴んでいた手を離し固まった床へと降り立つ。そして、床を軽く叩いて強度を確認していた。14型さんの馬鹿力でもビクともしないってことは、かなり固いみたいだな。何で、急に固まったんだろうな?
俺がそんなことを考えていると、羽虎が口を開けた。
「にゃう」
えーっと、羽虎さん、口を開けて鳴かれると、俺が、その、お前、さっきまで、俺を咥えていましたよね?
俺の体が落下する。
ぎにゃああああー。
そして、俺を14型が受け止めた。あ、14型さん、すいません。いやね、俺も《軽業》スキルや《飛翔》スキル、《浮遊》スキル、せめて《魔法糸》なんてモノが使えれば、1人でも大丈夫だったと思うんですよ。ホント、すいません。
危なげなく俺をキャッチした14型は、そのまま、俺を担ぎ上げ、歩いて行く。その後を小さく、羽猫の姿に戻ったエミリオがついてくる。あー、このまま進むんだな。
よ、よーし、この先に何があるか、だな。これで迷宮は終わりなのか? 今回は何が手に入るんだろうか?
―2―
新しく出来た通路の先は下り階段になっており、その先に少し広めの部屋があった。部屋に入った瞬間、俺の中に何かが戻るような感覚とともに視界が広がった。おー、この部屋はスキルが使えるんだな。よかった、よかったぜ!
『14型、降ろせ』
14型に担がれていた俺は、その肩から降り、室内を見回す。
部屋の奥、その左右両端に水晶の刺さった円形の球体があり、その謎の装置に挟まれるように白いローブを着込んだ骸骨が浮かんでいた。ま、まさか、こいつが、この八大迷宮『二つの塔』の主か? さっきので終わりじゃないのかよッ!
「ちっ。こういうことかよ」
俺たちが降りてきた階段の隣にも、階段があり、そこからバーン君たちが現れた。なるほど、こういう感じで繋がっているのか。
『どうやら、正面のアレが、この迷宮の主のようだな』
俺の天啓を受け、バーンたちが頷く。さあ、最後の戦いだぜー。
俺が張り切って戦おうとした所でバーンが足を止めた。
「ちっ、遅れて悪かったな」
まったく、バーン君達が現れないから、俺が約束の時間を間違えたかと思ったぜ。
「いや、ホント、すまないなぁ。そっちの塔を出る時に巨大な虫に襲われて……」
レーンさんがため息を吐いていた。
「おい、レーン。ちっ、それは、こいつらに関係無いだろ」
あー、そういえば、バーン君たち、傷だらけで乗り込んできていたな。何かあったのかと思ったけど、何かあったのか。
「あれは酷いんだぜー。でも、バーンの言うとおり、あそこで爆裂石を使わなくて正解だったんだぜ」
ウリュアスが短剣をくるくると回しながら、うんうんと頷いていた。爆裂石? あの、さっきの龍に投げつけていた、卑怯な道具かッ!
「急いでいたから、あの魔獣の素材もそのままなんだぜー。酷い話だよ」
『爆裂石とは何だ?』
「上級の魔法と同等の破壊力を秘めた魔封石なんだぜー。投げあてれば炸裂して凄い破壊力だ、なんだぜー」
ウリュアスが教えてくれた。へー、凄いな。そんな便利な物があるなら、俺も用意しておきたいな。
「市場に出回らないから、貴重で、お高いんだぜー」
あ、なるほど、奥の手って感じなのか。もしかして、バーン君、結構、奮発した? まぁ、でもさ、元から、その爆裂石とやらは使うつもりだったんだろう? じゃないと2人ずつの二手に別れて、攻略なんて無謀としか思えないからな。それを計算に入れていたんだろう。ホント、用意周到だな。
――[ヒールレイン]――
俺は、とりあえずバーン君たちに癒やしの雨を降らせておいた。いや、だって、傷だらけだもんな。話をするまえに使っておくべきだったよ。
「ちっ、要らないことを。その分のMPを温存しておけ」
バーン君が舌打ちをしていた。
「バーン、素直じゃないんだぜ。芋虫ちゃん、ありがとうなんだぜー」
「ありがたい」
「ありがと」
他の3人は素直なのになぁ。それに、この程度の消費なんて、俺からしたら誤差みたいなもんだしさ。
じゃ、戦いますかッ!
―3―
まずは先制、鑑定だ。
【名前:水無月巴】
【種族:エルダーリッチ】
は、
はは、
また和風な感じの名前かよ。何だ? 俺みたいな境遇なのか? でも、あの骸骨に何かの意志があるようには見えないんだよな……。
ただ、和風な名前があるだけなのか?
それとも……?
まさか、俺と同じように異世界からやってきた転移者? を人体実験して、魔獣に作り替えているとか、そんな感じなのか? 確かに、それなら名前が和風な感じなのも納得出来るけどさ。そんなことが起こりうるのか?
俺が鑑定を行ったことで、こちらの存在に気付いたのか、骸骨の瞳に白い炎が灯る。骸骨が骨の手をローブの中に入れ、そこから何か木の棒のような物を取り出す。木の杖? いや、大幣かッ! そして、もう片方の手が長方形のカードのような物を広げる。
「ちっ。やるしかないようだぜ。ラン、お前は後方からセッカと共に魔法で援護してろ」
そう言うが早いかバーンは剣に紫炎を灯らせ、駆けていく。
「あの者にはマスターに対する礼儀を教え込む必要があるようです」
そして、それを追いかけるように14型も駆け出す。
と、その瞬間、俺の前に上から下へと落ちるような赤い線が走った。《危険感知》かッ!
俺はとっさに、その場から飛び離れる。
目の前の骸骨が大幣を振るう。その瞬間、先程、俺が居た場所に白い稲妻が落ちていた。な、何で俺を狙ったーッ! じゃなくて、あんな一瞬で攻撃が降ってきたら回避出来ないぞ。俺は、《危険感知》スキルがあるから、何とか出来るけどさ、バーンたちは持ってないだろ?
またも俺の頭上から下へ落ちるような赤い線が走る。また、俺かよッ! 俺は発生する白い稲妻を回避する。何故か、骸骨は俺を目の敵にするかのように白い稲妻を降らせ続ける。嫌がらせかッ!
骸骨は片方の手で大幣をふり続け、そして、もう片方の手に持った数枚の長方形のカードを投げ放つ。投げ放たれた複数のカードが、骸骨の元へと駆けていたバーンと14型に迫る。
バーンが迫るカードを紫炎を纏った剣で切る。その瞬間、カードが爆発した。
バーンが、すぐさま、何か紫の盾のような物を生み出しながら、後方へと飛ぶ。
「ちっ。厄介な」
爆発に巻き込まれたようだが、バーンは無事のようだ。
――[ヒールレイン]――
白い稲妻を回避しながら、バーンに癒やしの雨を降らせる。
「ちっ。余計なお世話だ!」
14型が迫るカードを回避する。しかし、カードはすぐに軌道を変え、14型へと迫る。
と、そこでカードが爆散した。
次々と空を舞うカードが爆散していく。見れば、狩人のレーンが、その手に持った大弓で次々と矢を放っていた。不規則な動きをする複数のカードを、器用に射貫いていく。
「バーン!」
魔法使いの少女が叫ぶ。
「どっちだ!」
それにバーンが叫び返す。
「大きいの!」
それを聞いたバーンが一つ舌打ちして、大きく、後方へと跳ぶ。14型も何か感じ取ったのか、骸骨から距離を取る。
そして、骸骨の足下から渦巻く青い水の本流が生まれる。激しい水が骸骨をうねり引き裂く。
「セッカは世にも珍しいダブルだから、これで決まったかもなぁ」
レーンさんがのぞき込むように手を掲げ、そんなことを言っていた。へー、大魔法って感じか? 俺のアイスストームとそっくりだな。
と、そこで骸骨が手に持っている大幣を掲げた。その瞬間、右側の水晶が光り、魔法が消えた。そして、俺にも何かが失われたような喪失感が走る。
ま、まさか。
俺は何か魔法を使ってみようと頑張ってみるが、何も起こらない。
「ちっ。魔法が」
バーンは舌打ちしながらも再度駆け出す。ま、魔法が使えないのならッ!
――《サイドアーム・アマラ》――
サイドアーム・アマラを生み出し、真紅妃を持たせる。そして、俺も骸骨の元へと駆ける。魔法がダメでもスキルなら使える。ならば、直接、攻撃を叩き込むッ!
14型が牙の伸びた凶悪な拳を、バーンが紫に輝く剣の奔流を、骸骨に叩き込む。その瞬間、またも骸骨が大幣を掲げる。すると、今度は左側の水晶が光る。
バーンの剣から紫の光が消え、骸骨の体をすり抜けている。14型の拳は力なく、骸骨に跳ね返されていた。そして、俺は視界が狭くなり、サイドアーム・アマラに持たせていたはずの真紅妃が地面に転がった。今度はスキル禁止かよ。逆に魔法は使えるようになったみだいだけどさ……。
くそ、厄介な。どうする、どうする?
―4―
俺は自分の手で真紅妃を握る。そして、それで骸骨の後ろの水晶を指し示す。
もきゅもきゅ。
あー、声が、天啓が使えない。
――[アイスボール]――
氷の塊を浮かべ、骸骨の後ろの水晶へと飛ばす。しかし、それらは大きく広げた骸骨の手によって全て防がれてしまう。
「マスター、了解です」
14型が駆ける。さすが、14型、分かってくれたか。
14型が骸骨の横を駆け抜け、左の水晶へと迫る。
と、その瞬間、俺の全身に激痛が走った。目の前が真っ白になる。ま、まさか、白い稲妻?
再度、激痛が走る。か、体が燃える。痛い、痛い、痛い、死ぬ。
――[キュアライト]――
俺の体に癒やしの光が広がり、傷を癒やしていく。が、その瞬間にも白い稲妻が走る。
――[キュアライト]――
その場から逃げようと動くが、その先に白い稲妻が走る。
――[キュアライト]――
《危険感知》スキルがないだけで回避出来ないのかよ……。って、うぎゃああああ。再度、激痛が走る。
――[キュアライト]――
「マスター!」
俺の状況に気付いたのか、14型、足を止める。いいから、行け! その奥の水晶を壊せ。
14型に俺の思いが通じたのか、一度、こちらへと頷き、再度、駆け出す。
「ちっ。そういうことかよ」
バーンがもう片方の水晶へと駆け出す。
――[キュアライト]――
そうはさせまいと骸骨が、またもカードを投げ飛ばす。
――[キュアライト]――
狩人のレーンが矢を放ち、カードを撃ち落とそうとするが、スキルを封じられているからか命中精度が悪い。それを補うようにセッカが魔法を放ち、カードを空中で爆散させる。
――[キュアライト]――
「芋虫ちゃん、大丈夫?」
白い稲妻に撃たれ続けている俺を心配するようにウリュアスが声をかけてきた。いや、そういうのいいから、ウリュアスもアレを……ぐぎぎぎぎ。
――[キュアライト]――
大きくなった羽虎が14型の元へ、短剣を逆手に持ったウリュアスがバーンの元へ、2人をフォローするために駆けていく。ぐぎぎぎっぎ。
――[キュアライト]――
だから、何で、俺ばかり狙うんだよッ! あー、痛みで、激痛で、頭がおかしくなりそうだ。きゅぴー。
――[キュアライト]――
14型と羽虎が左の水晶を壊すため、攻撃を続ける。
バーンとウリュアスが右の水晶を壊すため、攻撃を続ける。
そして、それをさせまいと骸骨が放ったカードを魔法使いのセッカと狩人のレーンが爆散させる。
俺は白い稲妻を一手に引き受け、傷を癒やしながら耐え続ける。お、俺の分担がひ、酷い……ぎぎぎぎ。
――[キュアライト]――
永遠とも思えるような激痛の中、ついに水晶にヒビが入り、そして、壊れた。
「マスター!」
よくやった14型。
「ちっ。遅れたが、こっちもだ」
バーン君の方の水晶も壊れる。
二つの水晶が壊れたと同時に白い稲妻が止んだ。
そして、白いローブを纏った骸骨が首筋をかきむしるように手を伸ばし、悲鳴をあげたかのように震える。まさか、左右の水晶が本体だったのか?
最後には骸骨が白いローブだけを残し、粉となって霧散した。
勝った……のか?
うおおおお、やったぜ。
激痛に耐え続けた甲斐があったぜ。しかし、なんという無茶苦茶な敵だ。これ、バーン君達のパーティがいなかったら――俺たちだけだったら、勝てなかっただろうな……。
2016年11月4日修正
俺が、その、さっきまて、 → 俺が、その、お前、さっきまで、