7ー17 遠方より侍来る
―1―
瓦版作成の指示を出してから、少し経った時のコトだった。
「マスター、ユエがマスターを呼んでいるようです」
自室でくつろいでいると14型がやって来た。うむ、14型さん、その姿に合った仕事ぶりだな。よし、では会議室に向かうか。
にしても、どういった用件なんだろうか。もしかして頼んでいた妖精の鐘の場所が分かったとかなのかなぁ。楽しみ、るんるんなんだぜー。
14型と共に会議室へ向かうとユエはすでにその中に居た。
「あ、ランさま。お呼び立てして申し訳ありません」
ユエが頭を下げる。よい、よいのじゃよー。で、どういう用件かね。
俺は自分専用のマッサージチェアのような椅子に座り、ユエの言葉を待つ。
「ランさま、非常に申し上げにくい頼み事なのですが……」
む? 何かね。
「実は、迷宮都市の支社と急ぎやりとりをしなければならない用件が……」
あー、なるほど。俺の《転移》スキルが必要ってワケか。俺の《転移》スキルは安くないんだぜー。って、まぁ、俺の商会のコトだし、ユエの頼みだからお安いご用だけどさ。でも、このままだと――俺頼りだとさ、不便だよなぁ。
『ユエ、一瞬で他の場所に移動するような魔法やスキルは無いのか?』
俺の天啓にユエが首を横に振る。
「私は聞いたことがありません」
むう。確かになぁ、今まで旅をしてきたけどさ、《転移》スキルを使っているのって俺くらいだったもんなぁ。これが無いことが考えられないくらいにとても便利なスキルなんだけどな。
『ふむ。距離の問題は何とかしたいものだな』
俺の天啓にユエが頷く。こう、西の果てから東の果てまでだもんなぁ。ちょっと大変すぎるよね。まぁ、それだけ、俺の商会が大きくなったということだけどさ。
「神国までは道を整備しました。それでも限界はあります……」
そりゃね。どれだけ整備しても距離が短くなるわけじゃないからな。
……。
あ、そうだ。
『神国では飛竜が乗り物として活躍していた。空を渡ることは難しいだろうか?』
ユエが首を横に振る。
「難しいと思います。飛竜は私たち猫人族や犬人族を見ると気性が荒くなるそうです」
そういえば、神国でエミリアに乗車拒否されたな。獣人だと餌だと思っちゃうのかなぁ。
ユエの言葉が続く。
「ただ、タクワンさんから聞いたのですが、ナリンにはルフと呼ばれる人を乗せて飛ぶ巨大な鳥がいるそうです。それを使えば、少しは楽になるかもしれません」
なるほど。でもさ、帝国の属領で便利そうな物があって、それが帝都内で流行ってない時点で無理そうだよなぁ。数が少ないのか、気候にあわないのか、まぁ、とにかく、帝都で使われていないのには何か理由がありそうだよな。
むむむ。
にしても、ここでもナリンかぁ。何だろう、最近、ナリンって単語を良く聞く気がする。そりゃまぁ、ナリン出身のタクワンが居たからだろうけどさ。ま、まぁ、頭の片隅にでも覚えておこう。
『ユエ、とりあえず迷宮都市だな。手荒な移動になるから、気だけはしっかり持っておけよ』
俺の天啓にユエが顔を少し引きつらせながらも頷く。
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い、迷宮都市ノアルジ商会支店の中庭に降り立つ。《転移》スキルのチェックを王城からこっちに移し替えておいたからな。これで無駄に目立つことがないぜ!
何というか、自宅にヘリポートがある感覚だよね!
肩で息をしているユエと優雅に佇んでいる14型、無邪気に飛び回っている羽猫を引き連れて中庭から支社の建物内に入る。
すると何やら騒がしい。何人もの社員があたふたと動き回っている。どうした、どうした? ユエもよく分からず緊張した顔で周囲を覗っている。
「どうしたんです?」
ユエが1人の猫人族を捕まえて聞いていた。
「あ! ユエさん、助かります!」
いや、だから、どうしたんだ。猫人族の青年の言葉は慌てていて要領を得ない。
『14型』
俺は14型に命令して特製のコップを出して貰う。フルールに作って貰った真銀製のコップだぜ! ホント、無駄で贅沢な一品です。
――[アクアポンド]――
真銀製のコップの中に水が作られる。これなら作成可能なんだよなぁ。もしかすると空中で作れないのは属性の関係なのかもな。
『水を飲んで落ち着け』
14型があたふたとしている猫人族を無理矢理押さえつけ水を飲ませる。
「ああ、これはオーナーの水ですね、ま、ま、まさか、オーナーですか!」
水を飲んで落ち着いたな。どうなっているか言うのだ。
「ああ、それが、アリアラ商会の連中がごろつきを雇って嫌がらせに来たんです!」
それを聞いたユエは頭を抱えていた。
「間に合わなかったようです……」
なるほど、よく分からないが、うちに喧嘩を売っている商会があって、ユエはそれを未然に防ぐ――いや、未然に潰すつもりだったんだろうな。
これは仕方ないな。俺が出て、ごろつき連中を一掃してくるか。
いやぁ、久しぶりの荒事だなぁ。魔獣退治で鍛えているから冒険者は強いんだぜー。町のごろつきなんかには負けないんだぜー。これはまた、俺の強い所を見せちゃうなぁ。
『ユエ、14型、エミリオ、行くぞ』
2人と1匹が頷く。
俺たちが支社の外に出ると、そこには……すでに倒れ伏したごろつき連中がいた。
アレ?
アレレ?
そして無数に散らばるごろつきの中央には、眼帯をした猫人族の女侍が刀を手に立っていた。
「お腹空いた……」
その女侍はそう呟くとそのまま倒れた。おいおい、顔面から倒れたぞ。
2020年12月13日誤字修正
俺便りだとさ → 俺頼りだとさ