6-48 襲撃者暗殺者
―1―
地下世界の門の前に仮説のテントをいくつか作り、ノアルジ商会の幹部は、そこで休むことになった。近隣の住民たちは階段に布を敷き、その上で座り込むように休んでいるようだ。
俺はテントから出て食事の用意をする。用意するといっても、魔法のウェストポーチXLから食料を取り出していくだけなんだけどね。
ユエを代表とした商会の人間が、階段の先の人々にも――皆に食料を配っている。こういう時は助け合いなんだな。ふむ……。
では、俺も食事にするか。
サイドアーム・ナラカに持たせた小麦パンをもしゃもしゃとかじる。いや、これは、もしゃもしゃじゃない、もさもさだ。
うーん、あんまり美味しくないなぁ。保存を優先しているから味は二の次なんだろうな。
迷宮の中ってコトも有り、火が使えないから、干し魚も齧るだけだし……凄く微妙。美味しいご飯を楽しめないってのは辛いなぁ。
干し魚の塩分を味わいながらもさもさの小麦パンを食べる、齧る、もさるッ!
なんというか、この場に居るのが普通に飽きてきました。スキルも魔法も使えないから熟練度上げも出来ないしさ。暇すぎる。
でさ、一つ気になることがあるんだよな。この地下世界って魔素が濃かったじゃん。魔素が色のついた靄として見える俺には、今も魔素が漂っているのが見えるんだよな。
何で魔法やスキルの元になっている魔素があるのに使えないんだ? ステータスプレートも機能しないしさ。おかしいよな。
魔素が消えるから使えないんです、なら分かるんだよ。それこそ、この世界の人や物も実は魔素で作られているんです、みたいな世界だったらさ、今の現状も分かるんだよ。女神の休息日に外に居たら人が消えるってのも、そういうことだからってことになるしさ。
でも、現状は違うんだよな。魔素は溢れている。特に、この地下世界は魔素が濃いから、凄い目立つよ。なのに使えない。
そもそも女神の休息日って何なんだ。あー、答えが分からない、教えてくれる人も居ない謎ってのはもやもやするなぁ。
と、俺が食事をしながら考え込んでいる、その時だった。
「マスター!」
14型が俺の前に手を伸ばす。へ?
俺の目の前、14型の伸ばした手に短剣が刺さっていた。何処かから、投げられた? 何で、危険感知スキルが――って、今はスキルが発動しないのかッ!
何処だ?
俺を攻撃してきたのは、どこのどいつだ? クソッ! 《剣の瞳》スキルでも使えたら、もしかしたら色で分かったかもしれないのに……。
「マスター、毒が塗ってあるようです」
14型が短剣を引き抜き、投げ捨てる。いやいや、お前、毒が塗られた短剣を投げ捨てるなよ。
『14型、犯人は分かるか?』
俺の天啓を受け、14型が首を横に振る。そ、そうか。まぁ、階段に人がひしめき合っているような状態だもんな。
いくら俺たち、ノアルジ商会の幹部連中が(一番良い場所の)門の前を陣取っているといっても、すぐ近くに色々な人がいる状態だからなぁ。人の中に隠れられてしまうと見つけるのは難しいか……。
「どうしたんですのぉ」
騒ぎを聞きつけたのか、奥で休んでいた犬頭のフルールがやってくる。
「どうしたんです?」
クニエさんもやってきた。
『どうも命を狙われたようだ』
俺が天啓を飛ばすと2人は驚き、そして頷いた。
「ラン様は奥で休むといいですわぁ」
そうかい、じゃあ、俺はそうすることにするよ。
俺が一番の奥のテントに入ると羽猫と14型が、俺を守るように入り口に立った。
―2―
――[サモンアクア]――
そして、4日目の朝、毎朝試しに使っていたサモンアクアの魔法が発動した。そうか、魔法が発動したということは、終わったのか。
『14型』
俺は側に控えていた14型に天啓を授ける。
「はい、マスター。マスターの命を狙う輩は見えません」
『女神の休息日が終わったようだ。皆に伝えてくれ』
俺の天啓に14型が頷き、消える。ホント、パッと居なくなるなぁ。
にしても、これで女神の休息日も終わりか。襲撃があったのは、最初の一回だけで、それ以降、俺が襲われることはなかったけどさ、アレ、何だったんだろうな?
うーん、俺、そんな恨みを買うようなことした覚えがないんだけどなぁ。
そういえば捕まえた暗殺者? がどうなったか聞いていないな。この地下世界に連れてきていないということは……そういうことなのか?
「ラン様、女神の休息日が終わったと聞きました。上に人をやり、試させます……」
ユエがやって来て、そんなことを言った。試すって、まさか、人を……。って、そんなワケは無いか。何か、物を投げて確かめるんだろうな。と、そうだ、せっかくだから、例の暗殺者がどうなったか聞いておくか。
『ユエ、以前、暗殺者を捉えたと思うが、どうなったのだ?』
俺の天啓に、ユエが少し驚く。
「ラン様、ご存じないのですか?」
へ?
『いや、知らぬが』
知らないですよ。
「フエさんが……伝えておくと、いえ、私の勘違いかも……、でも、伝達が……」
ユエが猫尻尾を叩き付けながら考え込んでいる。
『どうしたのだ?』
「すいません、私のミスです。ラン様に伝えたつもりになっていました……」
そ、そうか。
「例の暗殺者は、何もせず、そのまま送り主に返しています」
へ? な、なんで。
「相手は八常侍の1人、今の私たちが逆らえる相手ではありませんでした……」
は? なんだよ、それ。あいつら、俺を帝城に誘って宴会した、その帰りに襲撃者を寄こしてきたのかよッ!
なんなんだよッ!
しかも、相手の方が立場が上だから、泣き寝入りだと。俺は命を狙われたんだぜ。なんだよ、それ。
『ユエ、次は相談してくれ』
「はい、申し訳ありません。私が、私自身の口でラン様にお伝えします……」
むぅ。
まぁ、過ぎたことをとやかく言うのは良くないよな。
にしても、八常侍か。今回の件も、ヤツらかもしれないな。ヤツらは俺をどうしたいんだ? 俺を暗殺して、誰かを代わりに立てて、ノアルジ商会を乗っ取ろうとか、そんな感じなのか?
どうする、どうする?
そうだな、こういうのは帝国に詳しい人間に相談するのが一番だ。となるとキョウのおっちゃんだな。
くそう、やられっぱなしにはしないぜ。