6-39 サンドワーム
―1―
『エミリオ、ここは任せても大丈夫か?』
「にゃ!」
俺が天啓を飛ばすと、羽猫は任せろと言わんばかりに羽を大きく羽ばたかせた。
『誰かサンドワームの居場所まで案内してくれないか?』
俺が天啓を飛ばすと4人は全員が下を向いた。
「あんた、俺たちを見捨てるのか」
そして普人族の男性が顔を上げ、そう言った。いやいや、見捨てないってば。
『現状、君たちを上に上げる方法が無い』
俺は《飛翔》スキルで戻れるけどね。
「そ、そんな!」
猫人族の男性が絶望の声を上げる。いやいや、待ってちょうだいな。
『しかしだ、迷宮都市の兵士と冒険者たちがすでにこちらへと向かっている。後は到着を待つだけだ!』
俺の天啓に、全員が安堵の息を吐く。だから、心配する必要は無いってばさ。それまでの安全も羽猫が守ってくれるからさ。頼んだぜ、エミリオ。
「わかった……よ、それなら俺が案内する」
普人族の男性が立ち上がる。一番臆病そうなのに大丈夫かよ。
「うが、が」
大きな巨体の男性が心配そうに普人族の男性を見ていた。
「だ、大丈夫だよ。見て、帰って、それだけだよ」
仲が良いのか?
「すいません、任せました!」
羊角のお姉さんは現場監督だから、動けないか。全員で行動するならまだしも、今回は違うしな。それに迷宮都市からの救助隊が来た時に説明できる人が居ないとダメだろうしなぁ。
『では、案内を頼む』
―2―
普人族の男性と採掘場を歩いて行く。にしても、意外と若いのか? と、何処かで見かけた覚えがある気がするんだよなぁ。何処だったかな、うーん。
「す、すいません、明かりを、明かりを付けても大丈夫で?」
大丈夫です。
『構わぬ』
俺が天啓を飛ばすとホッとしたように普人族の男性が手に持ったランタンに明かりを付け始めた。
「え、あの、この商会のオーナー様で?」
そうです。
『ああ』
「いや、でも、魔獣の姿にしか、いやいや、すいません」
普人族の男性は慌てて首を振る。それこそ、首が千切れ飛びそうな勢いだ。いやいや、別にそんなことで怒らないからね。
『構わぬよ』
「俺は、俺は、体の病気だったんですが、治りまして、治ったので、仕事を、と、そしたらすぐに雇って貰えて、ありがとうございます」
う、うーん、俺の商会だけど、俺が雇ったわけじゃないから感謝されても、なぁ。
「あ、こっちを右で」
あ、はい。
しばらく薄暗い採掘場を歩いているとチロチロと水が流れる音が聞こえてきた。そして、更に歩くと採掘場内に鍾乳石のようなモノが見え始めた。ほー、凄いな。
天井のつららのような石から水滴が落ちてくる。水か。って、ここなら水魔法が使えるんじゃないか? なら水天一碧の弓は収納しても大丈夫か。
――《スイッチ2》――
水天一碧の弓を亜空間に収納し、サイドアーム・アマラに真紅妃を持たせる。コレで俺の小さな両手は自由だぜ。
そして水の滴る鍾乳洞を改めて見回す。
『凄いな』
「は、はい、この採掘場の一番の資源、水で、す」
へ? 鉱石の採掘場じゃないのか? 水を得るための採掘場だったのか? え? えーっと、そういうのもあるのか。も、もしかしてミラン商会は、この水でのし上がったのかなぁ。まぁ、今はノアルジ商会の採掘場だけどさ。
「も、もうすぐで」
水の滴る鍾乳洞を進み続けると道が開け、大きな広間のような場所に出る。そして、その場所――俺の目の前に巨大なぶよぶよが見えてきた。そいつは、水を吸い、大きく体を膨らませている。結構、大きいな。俺の三十倍くらいか? 広間の半分くらいはあるぞ。水に釣られてやって来たのか?
サンドワームはごきゅごきゅと異音を立てながら体をくねらせ脈動している。顔はなく、口だけがついた先端が何かを求めて震えている。結構、グロいね。コレに食べられるとか、ちょっと考えたくないなぁ。洒落にならないよ。
『ここで大丈夫だ』
俺が天啓を授けると普人族の男はホッとしたように大きく息を吐き、そのまま大きく後ろに下がった。
さあて、戦闘開始だぜ。
―3―
さすがに洞窟内でアイスストームは――ダメだよなぁ。となると接近戦か? いや、待てよ、ここから弓で攻撃をし続けるとかどうだろう?
うーん。あの口が危険だからさ、口から逃げるように近寄った方が逆に安全な気がする。となればッ!
――《集中》――
――《飛翔》――
《集中》し巨大なサンドワームへと飛ぶ。そこからのッ!
――《Wスパイラルチャージ》――
二つの槍が螺旋を描き、サンドワームの蠢く肉を抉り――蠢く肉が弾け飛ぶ。うわ、汚い。
体の一部を失ったサンドワームがこちらに気付き、体をうねらせ蠢く。そして、こちらへと振り返り、大きく息を吸う。うげ、凄い吸引力だ。
俺はとっさにスターダストを地面に突き刺す。そしてッ!
――[アイスランス]――
俺の手から鋭く尖った木の枝のような氷の槍が二重に絡み合いながら生まれ、そのままサンドワームの口内へと広がり内部から体を貫いていく。
サンドワームが暴れ、大きく息を吸い込みながら上体を起こしのたうち回る。
……い、意外と弱いのか? 体は大きいけど、脆いし、そんな怖い攻撃も無さそうだ。って、やべっ。
サンドワームが暴れ回り、体をそこら中に叩き付ける。油断すると叩き潰されそうだ。危ない、危ない。余裕だからって油断はするべきじゃないな。
サンドワームが疲れたからか動きを止め――そのまま、もぞもぞと這って逃げようとする。逃がすかよッ!
――《W百花繚乱》――
サンドワームの元へと駆け、高速の突きを放つ。真紅妃と槍形態のスターダストがサンドワームを突き刺し、穴だらけに、斬り裂き、粉々にしていく。何故か、普段の倍以上の速度で突きが放たれているようだ。って、もしかして《二重》スキルの効果か?
やがてサンドワームは動きを止めた。うーん、《二重》スキルの効果が凄いな。アイスランスは槍の数が倍に、《百花繚乱》も手数が倍になっているし、もしかして《スパイラルチャージ》も威力が倍になっているのか? てっきりスターダストが凄いのかと思ったけどさ、《二重》スキルの恩恵だったのか……。
迷宮攻略ボーナスなスキルだけはあるってコトか。そういえば換装のスキルツリーは途中で止めていたよな。よし、これも上げてしまうか。
俺がそんなことを考えている時だった。俺の背後、普人族の男性が逃げた方から拍手の音が聞こえてきた。お? もしかしてさっきの男性が俺を称賛してくれているのか?
「魔獣モドキに手駒を壊されてしまうとは困ったことですね」
そして現れたのは神官服姿の男だった。って、だ、誰だよ!
神官服の男は手に持っている、引き摺っていた何かをこちらへと投げてきた。それは、先程、逃げたはずの普人族の男性だった。お、おいッ! 何しやがる。
慌てて駆け寄り、息を確認する。息は……ある。い、生きているな。
――[キュアライト]――
癒やしの光が作業服の男性に降り注ぐ。こ、コレで、大丈夫だよな。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルを発動させる。俺を中心に波が広がり、神官服の男を通り抜けていった。な、なんだと。
な、ならば鑑定だ。
【鑑定に失敗しました】
まさか、この男、魔族かッ!