6-38 砂漠の採掘場
―1―
しばらく荒野を南西方向に飛び続けると大きな枯れ木が見えてきた。荒野は背の低い木ばかりだから目立つな。
アレがユエの言っていた大木だろうな。にしても、この荒野、枯れ木ばかりじゃん。葉っぱがつかない種類の木なのか。
さらに荒野を進むと、足下が砂混じりになってくる。遠くに見える景色が砂だらけだ。砂漠に到着っと。こっち方面だと思っていたよりも近いな。
少し盛り上がった砂で出来た小山を抜けると採掘場と思われる場所が見えてきた。
砂地に蟻地獄のような螺旋状のすり鉢が作られており、その底の方に洞窟のような横穴が見える。砂だと崩れそうだけど大丈夫なんだろうか。まぁ、何にせよ、ここが採掘場で間違いなさそうだ。砂漠に採掘場があるとか、ホント、異世界だなぁ。
すり鉢状になっている砂地を降りていく。これ、階段もロープもないけどさ、帰りはどうするんだ? 俺は《飛翔》スキルがあるから大丈夫だけどさ、普通の人は困るんじゃないか?
そのまま進み、横穴の中に入る。中は硬い土の層に覆われ簡単には崩れそうにないようだ。ふむ、外の暑さも防げてちょうど良いな。でもさ、これ、外側の砂が落ちてきて入り口を塞いじゃうんじゃないか? 何か上手く、そうならないような仕組みでもあるのかな。
「にゃ!」
ライトを使おうとした羽猫を止め、そのまま一緒に薄暗い横穴を進んでいく。明かりを付けて魔獣に反応されても困るからね。にしても、ここで働いていたであろう人たちの姿が見えないなぁ。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルを発動させるが人の反応が無い。それどころか魔獣の反応すら無い。う、うーん、本当にここであっていたんだろうか?
ま、まぁ、奥に進んでみるか。
―2―
分岐路が多く複雑な採掘場を進んでいく。しばらく進んでいると、何かを削っている音が聞こえてきた。がり、がりっと削っている音が――いや、違う。これは何かを齧っている音だ。
――《スイッチ2》――
自分の手で真紅妃を持ち、サイドアーム・アマラに水天一碧の弓を持たせる。サイドアーム・ナラカに持たせたスターダストも槍形態に変形させる。
――《隠形》――
《隠形》スキルを使いゆっくりと音の方へと近づいていく。エミリオ、お前は、ここで待機な。
「にゃぅ」
羽猫が仕方ないとでも言いそうな顔で小さく鳴く。羽猫は隠形が使えないからな、仕方ない。
――《剣の瞳》――
《剣の瞳》スキルを使うと曲がり角の先に赤い存在が見えた。魔獣か?
土壁に寄り添い、少しだけ顔を覗かせて確認する。
薄手の作業服を着込んだ男がしゃがみ込み何かを漁っているようだった。コイツが赤い反応を示したのか? どうする、どうする? 不意打ちをかけるか?
……うーむ。
今の俺なら(相手の姿を見るに)不意打ちをかけるまでもなく楽勝だろう。となれば、一応、声をかけておくか。
『動くな』
曲がり角から飛び出し、天啓を飛ばす。すると、しゃがみ込んでいた男が振り返った。大きく見開かれた真っ黒な目、異形の相をもった、そいつの――その口からは赤い雫が滴っていた。な、魔獣? いや、アンデッドかッ!
アンデッドが口を大きく開き、こちらを噛みちぎろうと飛びかかってくる。
――《Wスパイラルチャージ》――
真紅妃とスターダストが絡み合う二つの螺旋を描き、アンデッドを削り飛ばした。そう、言葉通りに削り飛ばした。上半身が消し飛んだアンデッドは、そのままべちゃりと地面に転がり動かなくなった。そりゃまぁ、足だけで動いたらホラーだよな。に、にしても何て威力だ。過剰防衛だよ!
動かなくなったアンデッドが齧り付いていたモノを見る。アンデッドと同じような薄手の作業着を着込んだ男の死体だった。内臓が食いちぎられ、見るも無惨な姿だ。が、それよりも気になったのは足が石化しているコトだった。足が石になって動けなくなって逃げ遅れたのか?
石化か……。
もしかして、現れた魔獣ってメデューサとか、そんな感じなのか? 石化っていうと定番だよな。えーっと、俺、鏡の盾なんて持ってないぞ。いや、待てよ、ウォーターミラーの魔法で跳ね返せないかな。どうなんだろうなぁ。余り試したくは無いな。
―3―
《剣の瞳》スキルを使いながら採掘場を探索していると人の反応があった。生きている人だッ! にしても、かなり奥の方に逃げ込んでいるんだな? アンデッド以外の魔獣は居なかったんだからさ、普通に外へと逃げられそうなのに、何でだ?
ま、まぁ、聞いてみれば分かるか。
羽猫とともに人の反応の元へ歩いて行く。
壊れて開かれたままになっている木製の扉のついた休憩室のような個室の中には4人の男女がいた。男、男、女、男だな。猫人族の男性に、普人族の男性、羊角の女性、大きな体躯の男性か。男たちは作業着、女は少しだけ上等な服装をしている。
4人は突如、現れた俺に驚き、怯えているようだ。助けに来たぜー。
『ノアルジ商会のオーナーのランだ』
とりあえず自己紹介です。って、商会のオーナーって名乗ったのは不味かったかなぁ。こういう事態だと、お前の所為でみたいな感じで殴りかかってくるとかありそうじゃないか。
「あなたが……オーナーですか?」
恐る恐るという感じで羊角の女性が喋る。
『ああ。話を聞き、急ぎ駆けつけてきた』
俺がもう一度天啓を授けると、4人は安心したように大きく息を吐いた。
「私はアンリと言います。ここの採掘場の現場監督をやっています。以前はミラン商会で働いていました。ノアルジー商会に吸収された際、失業することになるかと思ったのですが、そのままの地位で雇っていただきありがとうございました」
羊角の女性が立ち上がりお辞儀をする。よく分からんが、そうか。
「これで助かっただ?」
「が、う?」
「道は、道は?」
うーむ。一気に喋られても困るな。
『現状を教えて欲しい。現れた魔獣が分かるようなら、それも教えて欲しい』
アンリと名乗った羊角の女性が頷く。
「採掘場の奥に異常に大きく成長したサンドワームが現れました」
ふむふむ。
「さらに、逃げようと外にでたところをドラゴンに襲撃され……」
ドラゴンだと? でも、外にはドラゴンが居るような気配はなかったけどなぁ。
「採掘場から移動するためのゴンドラを燃やされてしまい、脱出することが出来なくなりました」
なるほど。ゴンドラを使ってすり鉢から上り降りしていたのか。そりゃあ、砂を歩いて上るの無理そうだったもんな。
「俺たち以外は、殆どサンドワームに食べられただ」
うへぇ。きっついなぁ。
うーむ。後は、他に生存者がいるか、って点と彼らの脱出をどうするか、か。脱出は、もう少し待って貰った方がいいかなぁ。下手に脱出させてドラゴンの襲撃を受けたら洒落にならないしさ。もうすぐ冒険者や迷宮都市の兵隊が来るんだから、彼らに任せた方が確実だよな。
となると、ここは羽猫に任せて、俺はサンドワームを退治しに行くべきか。




