5-133 名も無き王の墳墓7階層
―1―
円形の高台の端に設置された吊り橋を渡っていく。コレ、なんで作られているんだろうな? 凄く丈夫そうだけど、うーむ。ちょっとやそっとじゃあ、切れそうにない感じだね。でも、油断したら振り落とされそうだ。ゆっくり慎重に渡ろう。
にしても、いくらうっすら明るいって言ってもさ、さすがに吊り橋の先までは見えないなぁ。先行した冒険者チームはもっと先に進んでいるのかな。
吊り橋を渡った先も円形の高台になっていた。この高台からは3方向に吊り橋が架かっている。1つは、今来た吊り橋。そして左右に2つ。さあ、右と左、どっちに行くかな。
まずは右かな。
右の吊り橋を渡っていると前方から魔獣が現れた。巨大な棍棒を引き摺り、ただれた体をもう片方の手で掻き毟りながら生きた死骸が歩いてくる。アンデッド?
動く死体が声の出ない穴の開いた喉を震わせ咆哮する。そのまま、こちらへと駆けてくる。来るかッ!
――[アシッドウェポン]――
俺は真銀の槍を構え、酸液を纏わせる。さあ、行くぜッ!
動く死体が巨大な棍棒を振り回す。狭い吊り橋の上で、右へ左へと回避し、酸液を纏わせた真銀の槍を突き刺す。真銀の槍が動く死体の体を貫く。さすがは死体だけあって脆いなッ!
そこで赤い線が横へと走る。へ? 気付いた時には動く死体がもった棍棒に吹き飛ばされていた。動く死体の体から真銀の槍が抜け、そのまま俺の体が宙へと舞う。あ?
やばっ、やば……くないッ!
空中で体勢を変え、下を見る。下には無数のミイラたちが居た。俺はすぐさま真銀の槍を下へと向ける。
――《スピアバースト》――
酸液に覆われた真銀の槍が黄色い光に包まれ地面へと刺さる。そのまま光が周囲へと走り、無数の蠢くミイラたちを吹き飛ばしていく。あちゃー、下に落ちてしまったか。
棍棒で殴られたけど、そんなに痛くないな。まぁ、でもさ、念の為にヒールレインを使っておくか。
――[ヒールレイン]――
俺の体の上に癒やしの雨を降らせる。はぁ、生き返るわぁ、って感じだね。にしても、下に落ちちゃったか。まぁ、《飛翔》スキルを使えば、何時でも上に戻れるから、とりあえずここから探索してみるか。せっかくだからね!
地面は砂地? うん、砂地ぽいな。さすがに、ここだと天井からの明かりが届かないのか薄暗いな。もうちょっと明かりが欲しいかな。よし、羽猫、頼む。
――《ライト》――
羽猫が光り、周囲を照らしていく。
―2―
やはり地面は砂地だな。じゃりじゃりとした感触がフェザーブーツ越しに伝わってくる。さすがに俺の体が沈むとかは無いか。にしても、ところどころに高台があるようだけどさ、コレ、上と下で階層が違うとか無いよな? この下の部分も含めて7階層だよな?
《スピアバースト》のスキルで吹き飛ばしたからか、周囲にミイラの姿は見えなくなっていた。ふむ、ミイラ魔獣は意外と雑魚なのかもしれないなぁ。
よし、まぁ、適当に探索するか。
砂地の上を歩いていると、地面が盛り上がり、ミイラが現れた。うお、そういう登場をするのかよ!
俺は、ミイラの出現にすぐさま反応し、サイドアーム・ナラカに持たせた真銀の槍で突き刺す。するとミイラは砂のように粉となり地面へと消えた。へ? 一撃? でも、これは素材や魔石が手に入らないパターンぽいなぁ。
俺がそんなことを考えていると、またも地面が盛り上がり、ミイラが現れる。さらに次々と周囲の地面が盛り上がりミイラが現れていく。うおぅ、団体様のお出ましか。
「にゃにゃ!」
羽猫が叫ぶ。気付くと周囲には大量のミイラがいた。後ろに居たミイラが手から包帯を伸ばし、襲いかかって来る。伸びた包帯を右へと避ける。うお、囲まれた。完全に囲まれたぜ! ならばッ!
――《ウォーターカッター》――
――《ウォーターカッター》――
右と左に高圧縮した水のレーザーを飛ばし、俺はすぐさま、そのまま一回転する。周囲にワラワラと沸いていたミイラはウォーターカッターによって真っ二つになり、そのまま砂となって地面へと消えた。う、うーむ。これ、無限沸きするパターンじゃないか?
―3―
砂地から伸びている高台を頼りに探索を進めていく。結構、等間隔に高台が立っているようだな。これ、普通は上を探索するんだろうなぁ。下に落ちたら無限沸きのミイラに殺される――そんな感じかな。
4つ目の高台を超えた所で壁に行き当たった。ふむ、ここが終わりか。今度は、この壁を頼りに右か左に進むか。と、そこで、またもミイラが沸いてきていた。面倒だなぁ。
――[アクアランス]――
水の槍を飛ばし、沸いてきたミイラを打ち抜く。うーん、やっぱり、この魔法よりもウォーターカッターの方が使い勝手が良い気がするなぁ。ウォーターカッターならなぎ払えるし、消費MPも少ないし……アクアランスの優れている点って何だ?
まぁ、そういう魔法もあるってコトで考えるだけ無駄か。うん、強い方を使えばいいよね。
壁沿いに右へと歩いて行く。
しばらく歩くと高台が完全に消え、砂地と壁が続くだけになった。この辺は下に降りないと進めない場所って感じだね。
更に歩いていると、右前方の砂地が渦を巻き始めた。何だ、何だ? 流砂か?
砂が動く。
そして渦の中心から巨大な筒が現れた。筒型の魔獣は牙だらけの大きな口を開け、こちらへと向き直る。何だ、何だ、サンドワームとか、そんな感じの魔獣か? って、デカいぞ。高台くらいのサイズがある。地面から覗かせている部分だけでも俺の背丈の3倍以上だ。うひぃ、俺なんて簡単に丸呑みされそうだな。