5-131 一時の別れ
―1―
「ラン、また!」
ジョアンが王者の盾を高く、高く、掲げる。
『ああ。ジョアンも神国で頑張れ』
俺は真銀の槍を掲げ、応える。
「ラン、またなのじゃー」
姫さまが貝殻で作られたブローチを掲げる。おー、アレは。ちゃんと持っていてくれたんだな。
俺は夜のクロークに付けている貝殻のブローチをサイドアーム・ナラカで引っ張り姫さまに見せる。俺もちゃんと付けてるぜ。
赤騎士がこちらへと手を振り、青騎士がお辞儀をする。ああ、当たり前だけど、2人も国に帰るんだな。
「セシリア姫が国に帰る……か。はっはっはっはっは!」
獅子頭のヤズ卿が俺の前に出る。そして、何故か俺の頭の上に手を置き、羽猫をなでる。
「にゃ!」
何で、羽猫をなでてるの、この人。
「これでやっと神国と交易再開だね」
聖騎士長さんも俺の横に立つ。そして、何故か獅子頭のヤズ卿と同じように羽猫をなでる。
「にゃにゃ!」
だから、なんで、羽猫をなでるんだよ。
「そう言えば、風の噂で聞いたのだがね。故郷のナリンに赤竜素材を渡して支援してくれたノアルジーという帝国貴族が居たみたいなんだがね」
聖騎士長さんが独り言のように呟く。ほうほう、それはまたなんとも豪儀な人が居たものだ。
「そこの芋虫冒険者、もしノアルジーという帝国貴族に会ったら、聖騎士シメオンが感謝をしていた。私で出来ることなら力になろう、と言っていた――と伝えて貰えるかね」
聖騎士長さんが羽猫をなでながらそんなことを言う。
『何故、自分に?』
俺の天啓を受け、聖騎士長さんが俺の首元に下げた指輪を見る。
「芋虫冒険者、君は帝国貴族だろう? 会う機会があれば、と思ったのだよ。自分で言えたら一番なんだがね。帝国貴族とは絡みにくいのだよ」
あー、なるほど。そういうことか。それならいいよ、いいよ。ノアルジーね。確かに俺がお礼を伝えておくよ。
『了解した』
はい、伝えた。今、伝えた。ちゃんと、伝えたよ。いやあ、俺ってば、ちゃんと約束を守る偉い子ちゃんだからね。
「そうか、そうか」
にしても、これでジョアンや姫さまと一時、お別れか。次に再会する時は、ジョアンはもっと凄い聖騎士になってるかな。ま、俺も、もっともっと強くなってるだろうけど、な! いやぁ、強くなることが目的だったわけじゃ無いのになぁ。困っちゃうなぁ。HAHAHA
―2―
――《転移》――
ジョアンや姫さまたちの見送りが済み、《転移》スキルを使い自宅へ戻る。
さあて、いつものように食堂の裏から中に入り、自分専用の椅子に座る。ふぅ、今日は見送りだけだったはずなのに疲れたな。まさか、ジョアンと戦うことになるとは思わなかったしなぁ。しかも、ジョアンのヤツ、無茶苦茶硬い、硬い。何というか、ホント、あそこまで鉄壁だと盾としての安心感が違うよなぁ。
「マスター、お帰りなさいませ」
俺が椅子に座りくつろいでいると、いつの間にか背後に14型が居た。うぉ、びっくりした。相変わらず突然現れるなぁ。扉を開けた気配が無かったぞ。何だろう、テレポート的な力で、俺の背後に現れているんだろうか……。
「おう、オーナー帰ってきたのか? 飯にするか?」
ポンちゃんもやってくる。おー、ご飯を頼むぜ。
「ふあぁ、フルールのご飯も頼みますわぁ」
扉を開けて、フルールもやってくる。何だか、眠そうだな。もうお昼過ぎだぜ? と、そうだ。
『フルール、14型用に何か武器を作ってくれないか?』
「あら? 裏オーナーも何か必要なんですの?」
俺の言葉を受けてか、14型がお辞儀をする。俺の背後からでも分かる優雅さだね。こういうとこや外見だけは優れたメイドぽいんだけどなぁ。でも、ポンコツ。
『手甲的な、力強く殴りつけるような凶悪な武器が欲しい』
「分かりましたわぁ。ちょうど狼系の素材が沢山手に入ったので、それで試してみますわぁ……ふあぁ」
その狼系の素材は俺がクニエさんに渡したモノじゃ無いのかね。間違いないよね。
『自分用の防具も頼む』
「ふぁい、わかりましたわぁ」
はい、頼んだんだぜ。
「マスター、また迷宮にて私の力が必要になるのですね」
14型が横から俺をのぞき込み喋る。いや、当分、俺1人で十分かなぁ。明日は1階層から直通階段を使って7階層に行く予定だしね。
「オーナー、それにフルール、ご飯を持ってきたぞ」
ポンちゃんが俺たちのご飯を運んでくる。料理、料理。おー、待ってたぜ。
さ、まずはご飯、ご飯。