5-113 魔獣の情報
―1―
自宅へと戻り、そこらを歩いている他の冒険者たちを横目に自宅の裏へ向かう。さあ、魔法の練習をして、ご飯にして、寝ますか!
「マスター、お帰りなさいませ」
俺が自宅裏へ向かっていると14型が現れた。ホント、急に現れるなぁ。まぁ、気にせず、そのまま自宅裏に行きますけどね。と、ちょっと待て。そう言えば、俺ってば、ヤズ卿にはご飯をプレゼントしたけどさ、結局、自分のご飯を食べてないじゃ無いか? そうだよな? 2階層の魔獣のショックで忘れていたけど、飯、食べてないじゃん!
じゃ、まずは、ご飯にしますか!
『14型、ポン殿にご飯の用意を頼めるだろうか?』
俺の天啓を受け、14型が優雅にお辞儀し、そのまま消えた。ホント、パッと消えるね、パッとさ。
じゃ、俺はご飯を食べに行きますか。
自宅の裏から部屋へと入り、専用の椅子に座って待つ。しばらく待っているとポンちゃんがやって来た。
「オーナー、飯かい?」
おうさ。ご飯を頼みます。
『頼む』
俺が天啓を飛ばすと、ポンちゃんは片手を上げて食堂へと戻っていった。さあ、ご飯、ご飯。
俺は椅子に座り、じーっと待ち続ける。数十分ほど待ったトコロでポンちゃんが戻ってきた。その手には皿に乗った食べ物が! 今日は何かな? 何かな?
ポンちゃんが俺の前に置いたのは、昨日散々作ったお好み焼きモドキだった。えーっと、いや、あのー、そのー。
「材料が余っているからよ。オーナーにも協力してもらうからよ」
あ、はい。そうですよね、ですよねー。
まぁ、食べますか……。
もしゃもしゃ。
あれ? 昨日みたいにもさもさしていないぞ? もっちりふわふわしていて美味しい。タレも、もっと風味が増している。
「あれからよ、帝都で流通しているイモを入れてみたのよ」
な、なるほど。芋を入れただけで、こんなに変わるのか。こっちをヤズ卿に渡していたら、もうちょっとリアクションが良かったかもなぁ。
『そうそう、ポン殿が作ってくれた料理だが、ヤズ卿は喜んで食べてくれたぞ』
俺が天啓を飛ばすとポンちゃんは照れたのか下を向いた。
「そうかよ、へへ、良かったな」
おうさ。まぁ、フルールの短剣が一番喜ばれたけど、ヤズ卿の為に、一緒にさ、一番頑張ったのはポンちゃんだからなぁ。まぁ、後で、ちゃんとフルールも褒めに行くけどさ。
―2―
翌日、フルールを適当に褒める。余り褒めすぎると調子に乗りそうで、素直に褒められないのが――辛いッ!
――[アクアポンド]――
さ、定期の池も作ったから、迷宮都市に行きますか!
――《転移》――
そのまま《転移》スキルを使い、迷宮都市の城に向かう。さあ、庭に着地してっと。と、ホント、こっち側の庭には誰も居ないな。前回、紫炎のなんちゃらさんが居たのが嘘のようだ。ホント、アレは偶々だったんだね。うーん、それとも《飛翔》スキルだったから、なのかなぁ? ま、気にしない、気にしない。
さあてと、本当は、すぐにでも『名も無き王の墳墓』に向かいたいんだけどさ、その前に冒険者ギルドによって情報を聞いておこう。
城の中を抜け、東側の庭に出る。と、今日は他の冒険者たちの姿が見えないな。このまま冒険者ギルドに入ろう。
冒険者ギルドに入ると、カウンターの向こうでは、おっさんが肩肘をついて寝ていた。えーっと、ここの冒険者ギルドって凄い暇なのか? こ、これ、声をかけていいのか?
『すまぬが』
俺が天啓を飛ばすと、おっさんがゆっくりと目を開けた。
「何だ、噂の下水の芋虫か」
いや、おっさん、これで会ったの2度目だよな? 初対面じゃないよな?
「で、用件は2階層の魔獣かな?」
おっさんが、こちらを見てニヤリと笑う。そうそう、それだよ、そいつに付いての情報が欲しかったんだよ。
「にしても、随分と時間がかかったな。普通の冒険者は初日に慌てて聞きにくるって訳よ」
あ、そうなんだ。いやまぁ、俺、随分とゆっくりしていたからなぁ。ヤズ卿の為に料理してたりとか、食材を集めたりとかさ!
『ああ、そうだ。教えて欲しい』
俺が天啓を飛ばすとおっさんが片目を閉じる。えーっと、ウィンクした? おっさんのウィンクとか見たくないです。
「やつの名前はネザーブレイド。音と光に反応する魔獣って訳よ」
ふむふむ。アレで普通の魔獣なのか。
「ただ、下の階層に降りるだけなら、これだな」
おっさんがカウンターの下から何か小さな丸い塊を取り出す。石ころ?
「光の石だ。叩き付けると一瞬だけ、小さな光を発する石だな。コイツを投げて、そちらに注意をひかせながら、急いで駆け抜けるって訳よ」
なるほど。そんな便利な物があるのか。
「ちなみに1個10,240円(銀貨2枚)な」
高ッ! 高いよ! って、多分、これぼってるよな? 足下を見て高い値段にしてるよな?
「Cランクに上がっているような冒険者なら余裕で買える値段って訳よ」
いや、まぁ、そうかもしれないけどさ。そんな高いのは要りません。
「何だ、買わないのか?」
買いませんよ。
『ちなみにネザーブレイドからは、何の素材がとれるのだ?』
そうそう素材の方が重要だよね。
「そりゃ、魔石と持っている武器だな。持っている武器は自身の骨から作っている剣だぜ。こいつは結構な金になる」
ふむふむ。確かに、口にシャムシールみたいな武器を咥えていたな。アレって骨から作っているんだ。
「が、持っている袋の方は開けるんじゃねえぞ。見たら後悔するぞ」
いや、そう言われたら見たくなっちゃうじゃん。何が入っているんだ? 教えて下さいよー。
「しかし、あれだ。下水の芋虫は倒す方向で考えてるのか」
おっさんが腕を組み、こちらを睨むように見つめてくる。ああ、一応、倒せるなら倒したいじゃん。
「最初によ、普通の冒険者は初日に聞きに来るって言ったよな?」
あ、ああ。確かに言ったな。
「Cランクに上がったことで実力を勘違いした馬鹿は大抵ソコでやられる。慎重な普通の冒険者は、俺のとこに聞きに来る。そして、更に上のランクに上がっていくようなヤツは、そこでヤツを倒してしまうって訳よ。お前はどうなんだろうな」
俺か、俺は――倒すよな、倒す方向だよな!
ま、そこまでの強敵に感じられなかったからな。確かにさ、森ゴブリンとかで驚いてた頃なら、どう頑張っても勝てない魔獣だと思うけどさ。俺も結構、強くなってるんだぜ。
頑張って、倒すさ!