5-112 闇の中にて
―1―
さて、どうする、どうする? 戦うか? それとも逃げるか? にしてもさ、徘徊している強力な魔獣が居る、って聞いていたからさ、もっと、こう、何というかだね、違う感じだと思っていたよ。迷宮を巡回する、『異界の呼び声』で出会った鎧みたいなのを想像していたのにさ、全然違うじゃん。巡回ルートを避けて進むみたいなのを想像していたら、まさかのホラー展開ですよ。いや、でも見た目だけで弱いって可能性も――あるのか?
しかし、こうも暗いとさ、どう進むか困るよなぁ。ちょっと先に見える柱は大理石ぽい作りだからなのか、この暗闇でもうっすらとは見えるんだけどな。柱を頼りに進んでいくか? っと、まだ、ふしゅー、ふしゅーっと荒い吐息が聞こえるのが怖いな。うーん、目の部分に包帯を巻いていたから、目は見えないんだよな? 音で判断していると思っていいよな? でもさ、いくら目隠しされているとしても、さすがに光は不味いよな。さすがにバレるよなぁ。
うーん、どうしよう。
よっし! 魔獣って線は見えているから――大体の位置は掴めるからさ、とりあえず弓で射ってみるか! 物は試し、物は試し。
背中の水天一碧の弓を取り、黒金の矢を番える。暗闇の中、線の先を狙う感じだから、何処に当たるかは分からないけど、まぁ、一発やってみますか!
――《集中》――
集中して、っと。せっかくだから強力な弓技を叩き込もうぜー。先制攻撃だしね。
――《ファイナルアロー》――
矢に光が集まっていく。いや、これ、相手にバレバレなんじゃないか? ヤバイ、ヤバイぞ。技の発動をキャンセルするか? って、動けん。サイドアーム・ナラカを伝って体にまでびりびりと振動が伝わる。いやいや、これ、スキルを発動させたら動けないんですけど。チャージアローはやろうと思えば移動しながら溜めたりも出来るけど、これ、移動できない。固定砲台かよッ! しかも光るし、振動するし、凄い目立つじゃん。ヤバイ、スキルの選択を間違えた。無難にチャージアローにしておけば良かった。
目の前の魔獣という線が縦横無尽に動きながらこちらへと近寄ってきている。柱や天井を飛び跳ねているのか? これ、気付かれているか? 気付かれているよな? ヤバイ、ヤバイ。荒い吐息だけではなく、びたんびたんと何かを叩き付けているような音が大きくなっていく。
ヤバイ、ヤバイ。
溜まったか? 技が発動出来るか? 撃つぞ、撃つぞッ!
音が、線が、名前が、近くにッ!
矢を放つ――、
放たれた矢が、目の前に迫っていた、魔獣の顔に――大きく開けた口へと吸い込まれる。うひぃ、ヤツのよだれが顔に、俺の顔に。もう目の前で迫っていたじゃん、ヤバイ、ヤバイ。
暗闇に何か大きな物が吹き飛んだ音と、何かに衝突した音が響き渡る。やったか?
しかし、すぐに魔獣という線が動き、天井へと動いていく。さ、さすがに一撃は、無いか……。って、ここまで来たら明かりだ、明かり。暗闇で戦えるかッ!
サイドアーム・ナラカを使って頭の上の羽猫に明かりを催促する。
「にゃ!」
しかし、サイドアーム・ナラカが撥ね除けられる。へ? 反抗された? いや、もしかして、連続でスキルを発動出来ないのか?
羽猫の鳴き声で、こちらの居場所に気付いたのか、魔獣とかかれた線がこちらへと飛んでくる。ヤバイ、ヤバイぞ。どうする、どうする?
ここはッ!
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
――[アイスウォール]――
とっさに氷の壁を3枚張る。そして、すぐに氷が砕け散る音が響く。これは逃げるべきか? とりあえず後ろに、第1階層に戻ろう。さすがに、そっちまでは追いかけてこないだろう。戦うにしても明かり無しの状態は無理過ぎる。一旦仕切り直しが必要だ。
柱の位置を頼りに、暗闇の中、階段へと戻る。
――[アイスウォール]――
逃げながら氷の壁を張る。氷の壁が砕け散る音を聞きながら、一段、一段、階段を上っていく。追っては来ない……か? ふぅ、逃げ切ったか。
階段を上がるにつれ周囲が少しずつ明るくなっていく。はぁ、第1階層は明かりがあるのに、次は無いって酷いよね。しかも徘徊している魔獣が居るから、明かりを灯すのも危険って、それってどういうことよ。ちょっと酷いよね、罠だよね。
はぁ、今日はもう自宅に帰るか。もう探索する気分じゃ無くなったんだぜー。
明日、ちゃんと明かりを持って、徘徊する魔獣を倒すかな。戦ってみた感じ、勝てそうな気がするからね。もの凄く危険ってコトは無いな。強さで言えば、レッドドラゴンの方がまだ強いな。もちろん魔族なんて、もっともっと上だ。それらと比べたら、充分、戦える範囲だな。たださ、弓技の最強スキルであるファイナルアローを当てても倒せなかったのが、なぁ。最強技なんだから、一発で死んでくれてもいいじゃん、いいじゃんさッ! 俺はがっかりだよッ!
―2―
『名も無き王の墳墓』から出ると、さっきの冒険者たちが食事をしていた。お前ら、俺が戦っている間も料理していたのかよ。ちょっとのんびりし過ぎじゃないか?
「下水の芋虫が戻ってきたようだぞ」
「うが、おかず?」
だから、おかずじゃねえよ。そこの巨人、朝から、ずっと俺を食べようと狙ってばかりじゃねえかよ。って、下水の芋虫って呼び方――こいつら、俺の事を知ってるじゃん。知ってて、朝の対応なのかよ。性格悪いなぁ。もうね、早く飯食って、『名も無き王の墳墓』に挑戦してください。俺は帰りますから!
俺は冒険者たちを無視して王城に入る。そして、そのまま西の庭に出る。さあ、自宅に帰ろう。ちょっと、早いけど、まぁ、今日はもう帰る気分だからね。にしても、今日はジョアンや姫さまと会わなかったなぁ。ま、そういう日もあるよね。姫さまたちは、まだ城に留まっているみたいだから、会う機会はいくらでもあるからね。
さあ、帰ろう。
今日は、もう家に帰って、自宅の裏で魔法の練習でもして過ごしましょう、そうしましょう。はぁ、散々な目にあった。せっかく用意した料理よりもフルールの短剣の方が高評価だったり、他の冒険者たちにおかず扱いをされたり、毒針が脳天に突き刺さったり、暗闇で徘徊する魔獣と戦ったり――いや、最後は自業自得だな。安易で愚かな行動だったよ。はぁ、反省することばかりだなぁ。ま、帰ろう。
――《転移》――




