おしえて、シロネせんせい4
「ふぅ」
シロネは1つ小さなため息を吐き、そして歩き出す。いつものように向かうのは、自分が受け持っている教室だ。今日も今日とて教室に入り授業を始める。
「むふー。本日は、魔法の詠唱とランクについての話になります……っと、あれ?」
シロネが教室の中を見回すが、そこには自分の授業の時にだけ、高確率で居たはずの青髪少女の姿が見えなかった。
「ノアルジーさんの姿が見えないようですが、むふー。どうしたんですか?」
シロネがとりあえず目立つ豪華な服装の少女に声をかける――と、意外な答えが返ってきた。
「ノアルジーさまは最近、授業に出てこられないんです」
「ええ、それで皆も寂しい思いをしているんですの」
「確か、図書館の噂が流れた頃くらいですよね」
図書館の噂? とシロネが疑問に思うと、少女たちが教えてくれた。
「図書館に魔獣が現れるって噂です」
「そうなんです、ノアルジーさまが、その真相を調べると言われてから……」
少女たちの中に悲しみのムードが広がる。
「それでノアルジーさんは、むふー。どうなったんですか?」
豪華な服装の少女が顔を上げる。
「それが、寮のお部屋の方には居られるようですの」
「ええ、お声をかけると、ちゃんと返事はされますもの」
「昨日も入っていますと、ええ、本日も同じように入っていますと」
シロネは腕を組み、考える。少し考え、そして、授業を始めることにした。
「むふー。では、皆さん、今日の授業を始めます」
シロネの言葉に少女たちが口を閉じ、気持ちを切り替える。
「魔法の詠唱とランクですねー。むふー。では、エミリアさん、魔法のランクについてはどの程度、知っていますか?」
シロネの言葉に豪華な服装の少女が頷き、話し始める。
「まずは殆どの人が使うことが出来る初級魔法ですわ。消費するMPも2から8程度ですね」
「むふー。そうですね。魔人族以外の多くの人が初級魔法までは使えるでしょうねー」
「あら? 魔人族は魔法が使えないんですの?」
「初めて聞きました」
少女たちの言葉にシロネが頷く。
「そうですね。むふー、神国では魔人族を見ることはないでしょうから……。私たちと同じような姿をして、素知らぬ顔で社会に紛れ込んで、そして私たちから色々なモノを奪っていくのが魔人族ですねー。むふー、そう、私たちとは本質から違う、別の世界の生き物ですねー」
「まぁ」
「私たちと同じ姿なのに……怖いです」
シロネが話を続ける。
「むふー。話が横にそれました。ランクの話でしたねー。後は中級、上級、そして特級魔法ですね」
「特級魔法!」
「あれですね、紫炎の魔女が使っていたという」
「数百はMPが必要って言われている」
少女たちの勢いに押されながらもシロネが頷く。
「そ、そうですね。むふー。私は紫炎の魔女と祖母から魔法を習いましたが、その時に特級魔法を見せてもら……」
「シロネ先生、紫炎の魔女と会ったことがあるんですか!」
「弟子だったんですか?」
さらに教室内が騒がしくなる。シロネは騒がしくなった教室が静かになるのを辛抱強く待ち、そして、ゆっくりと語り出す。
「出会ったのは、私の故郷のナハン大森林ですねー。むふー。紫炎の魔女は、ええ、彼女は、この神国で――ちょっとやり過ぎてしまったらしく、その罰として……」
シロネの話は続いていく。