5-99 キング襲来
―1―
「やあやあ、今日はご飯を頼めるかな?」
前回と同じ迷宮都市にある酒場のマスターに料理を注文する。
「え、えーっと、お嬢ちゃんよ。いや、坊主だったかな、今はそんな場合じゃないと思うんだが」
いやぁ、でもさ、前回、ご飯を食べられなかったからさ、今日こそは食べようと思ってさ。
「ノアルジー嬢ちゃんもよ、冒険者なんだよな? いいのかよ?」
「かまわん、かまわん。確かAランクの冒険者のバーンとか言うのが行ってるんでしょ。大丈夫、大丈夫」
そうそう、たぶん大丈夫だよね。
「まぁよ、紫炎のバーンがやられるようなら、この迷宮都市もやばいだろうが」
ということで料理を、俺にご飯を、ご飯を!
「ま、まぁ、用意していたのがあるから、料理はすぐに出せるが」
はいはい、ちゃちゃっと出してくださいな。
ステーキと真っ白でふわふわなパンがカウンターの上に置かれる。おー、コレコレ、前回食べられなかったんだよなぁ。
もしゃもしゃ。
うん、うまい。こっちは以外と薄味なんだね。塩と胡椒ぽい風味のステーキソースが美味しいね。
もしゃもしゃ。
俺が食事を楽しんでいると鷲鼻を持った特徴的な姿の冒険者が酒場に駆け込んできた。
「紫炎のバーンの旦那がやばそうでやす!」
え、って、おい。バーンって、あの偉そうにしていた、あのバーンだよな? Aランクで偉そうにしていた、さっき酒場のマスターと話題にしていた、あのバーンだよな? 結局だめだったのかよ。
「バーンはどうなっているんだ?」
俺が鷲鼻に問いかけると、鷲鼻は首を振った。
「ゴブリンキングの軍勢相手に孤軍奮闘、キングの元にたどり着くも苦戦中でやす」
へー、ほー、はー。まったくAランクって言うんだったら、こういう時こそ役に立って欲しいよなぁ。ま、今更遅いかもしれないけどさ、俺も行きますか!
もしゃもしゃ。
ステーキとパンをかっこむ。ごちそうさま。
「マスター、美味しかったよ。じゃ、遅いかもしれないけど、俺も行ってくる」
俺はカウンターに小金貨を1枚置く。お釣りはいらないぜ。
「お、おい、あんた、今から行っても」
さーって、戦況はどうなっているかな?
―2―
《飛翔》スキルを使い迷宮都市の外へと飛ぶ。おー、おー、うじゃうじゃ居るな。ゴブリン、ゴブリン、そしてゴブリンって感じだね。
小迷宮『子鬼の宴』から発生したと思われるゴブリンキングの軍団が、この迷宮都市を攻め落とすために行軍を開始しているという情報が入ったのが6時間前。迷宮都市の冒険者たちがAランクのバーンを筆頭にレイドを組んで出撃したのが2時間前。そして現在、交戦中か。
――《浮遊》――
俺は空中から戦況を眺める。ゴブリン軍団の数が多いなぁ。陣形とかはなく、数に任せて攻め込んでいる形だ。前衛は盾と剣を持ったゴブリン、その中に数は少ないがオーガの姿も見えるな。で、その奥には投石機を引っ張っているゴブリンと魔法を飛ばしているゴブリンシャーマンか。で、一番奥に王冠をかぶった一回り大きなサイズのゴブリンに、なぜか周囲を完全武装したエリートそうなゴブリンも含めて一人で頑張っている紫炎のバーン君、と。なんで、あいつは一人で突っ込んで、周囲全部を相手にして戦ってるんだ? ま、まぁ、あれはもう少し持ちそうだから無視して、と。やばそうなのは?
うーん、前線で戦っている冒険者たちがやばそうだな。ゴブリン相手に遅れはとっていないようだけど、奥から飛んでくる魔法や投石に苦戦しているようだ。まずは奥の守られている遠距離部隊を潰すべきか。本当はアイスストームとかの大魔法で一気に吹き飛ばしたいんだけど、その場所にさ、微妙に他の冒険者の姿も見えるんだよなぁ。そこまで攻め込めるくらい優秀ってことなんだろうけどさ、ホント、邪魔だなぁ。居なければ一気に殲滅出来るのにさ。
じゃ、まぁ《変身》スキルの効果時間も考えないといけないし、ちゃっちゃっとやっちゃいますかッ!
俺は真紅妃を握る。そして、そのまま遠距離部隊の元へと投げ放つ。いけえぇぇッ!
――《真紅妃召喚》――
遠距離部隊の上空で真紅妃が巨大な蜘蛛の姿に転じ降り立つ。そして蹂躙を始める。
――[ウィンドボイス]――
「その蜘蛛、真紅妃は俺が召喚した魔獣――味方だッ!」
風の声を戦っている冒険者たちへと届ける。ま、これで全員に聞こえたでしょ。
真紅妃が、遠距離部隊まで進み、それらと戦っている冒険者を上手く避けて、ゴブリンたちを挽き潰していく。うん、あっちは真紅妃でなんとかなりそうだ。遠距離攻撃部隊が片付いたら前線で戦っている冒険者も持ち直すだろうし、そうなれば、迷宮都市に来るようなレベルの高い冒険者がゴブリンに負けるはずがないし、うん、大丈夫そうだ。
さあて、後はエリートとキングか。
―3―
俺はキングやエリートと戦っている紫炎のバーンの横に降り立つ。空からぴょーんと飛んでいけるのは、やっぱ卑怯なくらいに便利だよなぁ。
「誰だ、おまえは!」
肩で息をしているバーンが叫ぶ。おうおう、空元気ですなぁ。
「ノアルジだ。他の仲間はどうした?」
確か、このバーン君、他にも仲間が居たよね。
「ふん、レーンたちのことなら、俺についてこれないから置いてきた」
おいおい、パーティメンバーを置いてきたらだめだろうがよ。
「仕方ない、俺も手伝うよ」
俺の言葉にバーンが嘲笑する。
「はん、お前のランクは?」
「Dランクだ」
ま、まだDだからね、仕方ないね。俺の言葉にバーンが嫌そうな顔をする。そんな顔をしなくても……。
「雑魚は怪我する前に下がってろ!」
雑魚って酷いな。お前、ぼろぼろじゃん。傷だらけで、しかも肩で息をしているような状態なのに強がっちゃってさ。
――[ヒールレイン]――
バーンの上に癒やしの雨を降らせる。まぁ、Aランク様だから上級魔法にする必要はないよね。
「ちっ。治癒術士か。俺の陰に隠れて回復魔法だけ使ってろ」
いやいや、俺も戦うからね。
バーンの背後から迫っていたエリートの剣を真銀の槍でたたき折り、そのままエリートを切り裂く。
「背後をとられるとは情けないな」
ひゃっはー、バーンさんよ、後ろが、がら空きだぜー。
「ちっ。邪魔をするな」
バーン君は素直じゃないようだ。助けたのに、なんて反応だ。
――[エルアイスウェポン]――
真銀の槍が巨大な一本の氷の剣へと生まれ変わっていく。念願のアイスソードだぜッ!
両手でアイスソードを持ち、そして、そのまま周囲のエリートとキングを薙ぎ払う。さらにッ!
――[エルアイスウォール]――
こちらに被害が出ないよう、俺とバーンの前に、キングとを隔てる氷の壁を作る。
――[アイスストーム]――
ゴブリンキングを氷の嵐が襲う。さすがに、この近距離だと、いくら氷の壁を作っていても、こちらに被害が出そうだらね、上級を使うのは危険だからね、仕方ないね。ま、通常版でもアイスストームは充分すぎるくらいに強力だからね!
さあ、これでどうだ。バーン君、これが私の真の実力ってヤツだよ、ふぁふぁふぁ。
「ちっ。どうやらAランクに近い実力はあるようだな」
ちょっと、負け惜しみですか。
「少しばかり出来るから勘違いしているようだが、よく見てみろ」
バーンが氷の嵐によって粉々になったキングと真っ二つになっているエリートたちを指さす。へ?
キングの体から筋繊維の触手が伸び、体をつなぎ合わせ再生させていく。周囲に散らばっているエリートたちも同じように体をつなぎ合わせ再生していく。ど、ど、ど、どうなっているんですか、これ。
「奴ら、無限に再生しやがる!」
バーンが叫び、それと同時に手を、再生しようとしているキングたちへと伸ばす。
「すべてを焼き尽くす紫炎の火球よ、降り注ぎ、目の前の敵を焼き尽くせ! メテオフォール!」
バーンが伸ばした手の先――キングたちの頭上に巨大な紫色の火の玉が生まれ、降り注ぐ。
そして、キングとエリートは一瞬にして消し炭と化した。へ? バーン、や、や、やるじゃん。
しかし、キングたちの消し炭が震え、集まり、またも再生していく。
「ちっ。これでも駄目かよ!」
おいおい、これ、どうなってるんだよ。ここまでしても再生するとかおかしいだろ。ごめんよ、バーン君、俺、君の実力を疑っていたよ。君が弱いんじゃなくて、こいつらが異常すぎるのか。
―4―
「見ての通りだ。雑魚のお前は逃げろ」
いやさ、逃げろって言うけどさ。逃げても、こんなんどうしようもないだろ。
「何か手はないのか?」
俺の言葉にバーンが口の端をつり上げて皮肉気に笑う。
「あったら、すでにやっている。見て気づいただろう。やつらには魔石がない。どうせ、魔族の実験よ」
どこか遠くに魔石があって、遠隔操作しているとか、そんな感じなのか? となれば、その魔族を見つければ?
……。
さすがに今からは無理か。どうする、どうする。
俺が考えている間にもキングとエリートたちは再生し、こちらへと襲いかかってくる。俺の目の前にゴブリンキングの剣が迫る。はっ、やっべ。考え事に夢中になりすぎた。というか、剣も再生するのかよ。これもキングの体の一部なのか?
その瞬間、俺の目の前に巨大な木の枝が生まれ、キングを吹き飛ばしていた。
「戦闘中にぼぅっとするなっ!」
バーンが叫ぶ。あ、すいません。見れば、バーンが腰にぶら下げていたポーチから何かの小瓶を取り出し、飲んでいた。もしかしてMP回復ポーションですか。いやまぁ、この木の魔法ってば、かなり強そうな魔法だもんな。バーン君、MPの量も凄いんだね。いや、ホント、実力を疑ってごめんね。だってさ、君、凄くかませぽい性格していたんだもん。あんな小物臭がする言葉を使う人がさ、本当に実力があるとは思わないじゃん。
って、木の魔法? そ、そうだ。一応、聞いてみるか。
「バーン、相手を眠らせるような魔法は覚えているか?」
バーンが胡散臭そうな顔でこちらをみる。
「木の中級魔法に単体を眠りに誘う魔法がある。それが?」
よっしゃ。これは、もしかして、もしかしたら、いけるんじゃないか?
「バーンは使えるのか?」
「ちっ。バーン、バーンとDランク風情が、この紫炎のバーン様を呼び捨てにしてっ! 使えたらどうだって言うんだ!」
いける、いけるぞ。
「ゴブリンキングを眠らせてくれ」
まずは厄介なキングからだよな。
「俺に命令するなっ!」
バーンが、そう叫びながらも魔法を発動させる。キングの足下から木の枝が伸び、そこから一筋の雫がこぼれ落ちる。雫を受けたキングが倒れ、そのまま眠り始める。おー、スリープの魔法ってこんな感じなんだ。じゃ、やりますかッ!
――[ナイトメア]――
ゴブリンキングの魔石を掴んだ感触。おー、これ、魔石が離れたところにあっても関係ないのか。さすがは必ず殺す魔法。
そして、そのまま、その魔石を握りつぶす。
キングが一声、うめき声を上げ、そのまま動かなくなった。やった、やったよ!
「おい、何をした!」
「闇属性の魔法、ナイトメアだ」
「ちっ。聞いたことが無い魔法だ。が、これで勝てる、か」
ふぁふぁふぁ。覚えていてよかった闇魔法。
「バーン、MPは大丈夫か?」
「お前は、俺を呼び捨てに! ちっ。舐めるなよ!」
バーンが腰のポーチから次々と小瓶を取り出し飲み干す。
「ちっ。これで完全に赤字かよ!」
MP回復ポーションって高いらしいからね。それだけ沢山、持ってるってのはやっぱりAランクなんだなぁ。儲かってるんですね、正直、うらやましいです。
「バーン、眠りの魔法を頼む」
「ちっ。だから俺様を呼び捨てにするな! Dランクのくせに偉そうなヤツだ!」
はいはい。
―5―
「これで復活するキングとエリートは片付いたな」
「ちっ」
そこ、舌打ちしない。
「おい、ガキ。お前の名前は?」
俺はガキじゃないし、すでに名乗ってますー。もう、なんなの、こいつ。
「ノアルジだ」
「ちっ。ノアルジーか。覚えたぞ、お前、俺のクランに入れ」
何言い出すの、この人。こんな俺様なヤツのクランになんか入らないってばよ。入ったら何されるか分からないじゃん。と、やっべ。それどころじゃない。もうすぐタイムリミットだ。うーん、まだまだ長時間って言えるほどは変身出来ないなぁ。
ま、バーンは置いて、とっとと帰ろう。
「バーン、さらばだ」
「お、おい!」
おさらばなのだー。
「真紅妃ッ!」
蹂躙を繰り広げていた真紅妃を呼び寄せる。俺の元へと駆けてきた真紅妃の背中に乗り、そのまま《転移》スキルを発動させる。
――《転移》――
もちろん《転移》先は試練の迷宮前です。そこに羽猫を待たせているからね。ま、後は残った冒険者たちで大丈夫でしょ。
誰も居ない試練の迷宮前に降り立ったところで《変身》スキルの効果が切れる。あー、ホント、ギリだったじゃん。
試練の迷宮前でうろうろしていた羽猫もこちらへと駆けてくる。さ、じゃあ、今日はもう帰りますか。
にしても一週間、下水道でスライムを刈り続けていたら、ゴブリンキングが襲撃とか、ホント、忙しいなぁ。ちょうど《変身》が使えるタイミングで良かったと言うべきか、何というか。狙ったかのようなタイミングだったよなぁ。
まぁ、今日はもう自宅に帰りましょう。もう疲れたもん。
【[シャドーボール]の魔法が発現しました】
って、へ? このタイミングで魔法を覚えるのかよ……。




