5-76 深淵の入口
―1―
これ何だったんだろうね。魔石は無いし、もうね、もうね。素材も無いじゃん。なーんにもなりません。ステータスプレート(金)を確認したら、経験値も増えてません。経験値0のスケルトンも魔石を持っていたから、まだ許せた。
しかし、しかし!
これは、これは……許せん!
戦うだけ損って感じだよなぁ。でも、魔石を持っていないんだったら伸びた線が魔獣ってなってるのはおかしく無いか? 俺はてっきり魔石を持っているから魔獣、経験値が入るから魔獣、って認識でいたんだけどなぁ。もしかして、何か前提から間違っていたのだろうか?
ま、考えても仕方ないか。とりあえず進もう。
しばらく進むとまた線が見えてきた。今度は線の先に名前が見える。えーっと、表示名は深淵犬になっているな。うん? 深淵? もしかして、ここって俺の家の地下室と同じように14型の言っていた地下世界に通じているのか?
うーん、それなら14型を連れてくるべきだったかなぁ。ま、進めるだけ進んでみて、それから考えよう。まずは目の前の深淵犬を倒すか!
俺が真紅妃を構えた所で、さらに奥から深淵犬の名前が見える。もう一体追加かよ! うん? さらに線が見えるぞ……。
って、ちょっと待て。ちょっと待って。
1、2、3、……8、って、8体もいるじゃん!
な、な、な、何だコレ! さっき倒した1体は、それほど強くなかったけどさ、こんなのに8体も襲いかかられたらたまったもんじゃないぞ!
おいおい、コレは……。どうする、どうする?
室内でアイスストームの魔法を使ったら駄目かなぁ? 俺まで巻き込まれて危険なことになりそうだけど、アイスストームで一掃したいな。
深淵犬達が地を蹴り、壁を蹴り、こちらへと飛びかかってくる。
――[アイスランス]――
俺の手から生まれた鋭く尖った、まるで木の枝のような氷の槍が深淵犬を貫いていく。しかし、4匹ほどが氷の槍を躱し、飛び越え、こちらへ迫る。仕留めきれなかったか!
――[アイスウォール]――
とっさに氷の壁を作り、犬の侵入を防ぐ。が、2匹が氷の壁を飛び越え、俺の目の前に……!
――《W百花繚乱》――
氷に覆われた真銀の槍と赤と紫の軌跡を描く真紅妃が動く。穂先も見えぬほどの高速の突きが飛びかかってきた、顎など存在しないかのように大きく口を開けた深淵犬を貫いていく。
深淵犬が液体のように飛び散り、形を崩していく。何なんだ、コレ。ホント、何なんだ?
氷の壁に穴が開き、そこから触手が飛び出る。うお、危な! 油断も隙も無い。氷の壁から伸びた触手がうにゅうにゅと蠢いている。そして、それに合わせて氷の壁が光となって霧散した。
壊れた氷の壁の向こうには形を崩しながらもこちらへと触手を伸ばそうとしている6体の深淵犬が居た。あー、うー。
俺はとっさに天井の高さを確認する。この高さでもいけるか? いや、多分、大丈夫だろう。
――《魔法糸》――
魔法糸を地面に飛ばし、その反動で空へと舞う。
――《スピアバースト》――
飛び上がった俺の――その手に握られている真紅妃が赤い光に包まれ、そのまま地面に突き刺さる。その瞬間、纏っていた赤い光が周囲へと弾け飛ぶ。赤い光によって、周囲の深淵犬が液体のように弾け、飛び散る。
よし、全ての深淵犬って書かれた線が消えたな。ふぃー、しかし、何なんだ、この魔獣?
と、そこで俺の背後を狙うかのような赤い線が走る。後ろ?
俺がとっさに振り返ると、そこには金属の地面から黒い液体がにじみ出ている所だった。な、何だと? そこから触手が生まれ、こちらへと巻き付くように襲いかかってくる。
――《飛翔》――
俺はとっさに《飛翔》スキルを使い逃げる。何なんだ、アレ!
―2―
《飛翔》スキルを使い小迷宮を奥へ、奥へと進む。何時、何処から、液体のように深淵犬がにじみ出てきて襲いかかってくるか分からない。とにかく、前へ、前に進むしかない。
こ、これがCランク相当の迷宮か。確かに恐ろしいな。しかもうま味が無いってのが恐ろしい……。
《飛翔》スキルで扉を通り過ぎる。小部屋かな? うーん、部屋は危険そうだ。後回しだ。
《飛翔》スキルの効果が切れた後も迷宮を奥へと駆ける。すると右手側に上と下へ続く階段が見えてきた。まだ奥には進めるが……どうしよう?
とりあえず下に。下へと進むのが迷宮の深部に行く方法だろうし、降りますか!
階段を下へと降りていく。何だろうね、団地とかにあるような階段だ。ある程度降りると左手側に通路へと進む道が現れた。うーん、まだ下に降りられるんだけど左の通路にも進めるのか……。
ま、とりあえず降りよう!
さらに下に降りると行き止まりに突き当たった。へ? 行き止まり? 何も無し? 行き止まりならせめて宝箱くらいは置いといて欲しいなぁ。
……。
仕方ない、来た道を戻るか。と、俺が振り返ったトコロで天井から線が伸びていることに気付いた。何だ、何だ?
線の先の名前は……、『スイッチ2』か。
あれ? もしかして、コレって?
俺は来た道を戻ることにする。
――《魔法糸》――
魔法糸を飛ばし飛び跳ねながら階段を上っていく。この体だと階段は降りられても上るのは大変だからね。魔法糸でぴょーんと上るのです。
先程、通路が見えていた場所まで戻ると、今度はその天井に『スイッチ4』と書かれた線が見えた。おー、これ、俺が行き止まりでたまたま逆走したから気付いたけどさ、気付きにくい場所にスイッチを作っているなぁ。
で、ここは4か。これ、どう考えても順番に押せってコトだよね!
一番最初の通路が見える場所まで階段を上がると、その天井には『スイッチ1』と書かれている線が伸びていた。ここがスタート地点か。
じゃ、スイッチを押しますか!
俺がスイッチを押そうとした瞬間だった。目の前の通路に黒い液体と、そこから深淵犬と書かれた線が伸びる。ひっ! 何だよ、コイツ! 何処にでも現れやがる!
――《飛翔》――
《飛翔》スキルを使い、体当たり気味にスイッチ1を押し、そのまま急転回して階段を滑るように飛び降りる。逃げろ、逃げろ。
一番下まで降りてスイッチ2を、最初の通路より上に上がってスイッチ3を――そこが最上階で、やはりその先にも通路が延びていたが今回は無視することにした――そして最後にスイッチ4を押す。
さあ、これでどうなった?