5-74 スカイの件
―1―
「えーっと、あのー、そのー、チャンプさ、報酬を受け取った時にステータスプレート、確認した?」
いや、してないけど、どうしたの? 報酬って何時のこと?
「いや、あの帝国からの報酬の件……」
キョウのおっちゃんから指輪をもらった件?
「実は……、その……」
犬頭のスカイが口籠もる。だから、どうしたんだよ。はっきり喋って欲しいぜ。
「チャンプ、ごめんよ。実はGPを付け忘れていた!」
犬頭のスカイが大きく頭を下げる。へ? あー、そうなの? アレってGPがもらえるようなクエストだったんだ。キョウのおっちゃんから直接受けたクエストだったから、気にもしていなかった。そっかー、そうだったのか。
「で、チャンプ、俺とチャンプの仲じゃん。本部には黙っていて欲しいんだよ。もしバレたら首にされかねないし……」
へー。というか、GPって手動で付けていたんだね。俺はてっきり不思議装置で勝手に付くモノだと思っていたよ。って、コトは冒険者ギルドの職員を抱き込めばGPを増やし放題だというのか?
「それにさ、ここで雇って貰えるって時に、ここのオーナーに俺がそんなうっかり屋だとバレたら、他の職員にしてくれって言われそうだしさ……」
ん?
んん?
「ということでお願い!」
スカイが頭を下げ、手を合わせお願いをする。
んんん?
「あ、チャンプ、俺にも食べ物ください」
そして、顔を上げたスカイが物欲しそうに俺の焼き肉を見ていた。いや、あげないからね。
『ちなみに、あくまで興味で聞くのだが、GPはギルド職員が数値を決めて付けているのか?』
俺の天啓にスカイが慌てて首を振る。
「まさか、まさか。俺らが出来るのは本部からのデータをステータスプレートに移し込むだけだよ」
あー、なるほど。出来るのは付与するか、しないか、だけなのか。って、スカイさんよー、俺に対して何してくれちゃってるわけー、とか言っちゃうよー。言っちゃうよー。
『スカイはここのオーナーが誰か知らないのか?』
「あ、ああ。ここに住んでいる神国風の女がオーナーじゃないかって噂されているけど、そうそう、そのチャンプの後ろに居るような……ひっ!」
スカイが俺の後ろに控えていた14型を見て悲鳴を上げる。おー、耳がぺたんとして、いや、なんというか、犬人族は耳を器用に動かすなぁ。
「えーっと、ここのオーナーさんですか? もしかして聞いてました?」
スカイが恐る恐るという感じで14型に話しかける。あれ? スカイと14型って初対面? いやいや、違うよね。以前、俺が14型を連れ歩いているのは見ていたはずだから――うん? よく見えてないのか、それとも以前は気にもしていなかったのか。
「あー、ラン様、こちらでしたか。冒険者ギルドの職員が今……うん?」
と、そこでユエもやって来た。その後ろには何故か欠伸をしているフルールの姿も見える。
「あ! ユエちゃん! 今、ここのオーナーに」
スカイがユエに馴れ馴れしく話しかけている。知り合いなのか?
「ラン様が?」
「え?」
ユエとスカイが二人で首を傾げている。
「ここのオーナーは、ここで一番偉いのはラン様ですよ……」
「ラン様ってチャンプのこと? へ? え? は?」
「そうです、ラン様です……」
ユエの言葉に、スカイが口をぱくぱくと動かしながらこちらを見る。
「そして、ラン様は帝国の貴族でもあります」
「いや、でも、チャンプは、チャンプで、冒険者で、え? どどどど、どういう」
俺はサイドアーム・ナラカを使い、首から提げている指輪をスカイに見えるように持ち上げる。
「いやいや、冗談ですよね?」
「ラン様はここのトップですわぁ」
何も考えてなさそうなフルールが答える。いや、フルールさんよ、お前も最初、俺に対して結構、適当な態度取ってたよね? 取ってたよね?
「すんませんした」
何故かスカイが土下座した。あー、こっちでも土下座スタイルあるんだ。
『構わない。ところでGPに関してはどうすればいい?』
「えーっと、このまま自分が派遣されてても良いんでしょうか? 今から他の人をとか言わないんでしょうか?」
いや、もう、慣れてるからスカイでいいよ。知らない人が来るよりはマシだよ。
「ランさま、スカイはうっかり屋ですが、私が注意して見ますので……」
『構わないよ』
俺の天啓にユエとスカイが大きく息を吐く。で、貰えるはずだったGPはどうすればいいの?
「まだ、こっちには道具が入ってないんで、以前の冒険者ギルドに来て貰えると助かります……。ちゃ、……ラン様お願いします」
まぁ、別にチャンプでも何でもいいけどさ。ま、どれくらいのGPが貰えるか分からないけど、後で行きますか。
「ポンちゃんー、フルールのお昼ご飯頼みますわぁ」
俺たちのやり取りを無視してフルールがご飯を頼んでいた。あら? そう言えばクソ餓鬼連中が居ないな? フルールだけか?
「あー、ランさん、あの子らは昼からはうちの食堂を手伝って貰ってるのよ。最初にまかないを食べさせてからよ。だから、今はフルールの所で仕事してるってわけよ」
ポンさんがフルールとスカイの前に料理を並べながら教えてくれる。へー、こっちでも働いているのか。あのクソ餓鬼連中、意外と働き者だな。
『スカイ、今日は自分の奢りだ。食べるといい』
「ホントっすか! ありがてぇありがてぇ」
スカイが涙でも流しそうな勢いで肉に齧り付く。
『おかわりもいいぞ』
さてと。
『14型』
「マスター、後のことは了解したのです」
「ま、俺は、そろそろお昼の準備に入るからよ。ランさん、またな」
ポンさんがカウンター裏に戻っていく。
しかしまぁ、冒険者ギルドから派遣される人員は、予想通りというか、スカイだったか。
―2―
――《転移》――
《転移》スキルを使い荒野に降り立つ。
降り立った荒野に生えている背の小さな枝ばかりの木の幹に小さな一匹の芋虫が居た。おー、こんな所にも芋虫が。いやあ、でも虫ってリアルで見ると結構グロいなぁ。
しかしまぁ、急にソロになったよな。最近は、色々な人と一緒に旅することが多かったからなぁ。うーん、荷物持ちとして14型を連れてきても良かったかな。
「にゃあ?」
頭の上から小さな鳴き声が一つ。はいはい、そんな所で自己主張しなくてもお前が居ることは知っているからな。
はぁ。
さ、今日も北上しますか。昨日、ウェイストズースは倒したし、味も分かったから、今日は見かけても無視するかな。他の冒険者の為に残しとかないとね!
――[ハイスピード]――
風の衣を纏い北上していく。
やがて岩の多い地形に当たり、そこをさらに進むと地面に大きな穴が開いていた。も、もしかしてコレが小迷宮『異界の呼び声』かな。
暗くなっていて底が見えないな。ちょっと、近くの石を落としてみよう。
手頃な石を穴の中に投げ入れてみる。
……。
……。
しかし、音は聞こえなかった。えーっと、こういう時って音で深さを測ったりするんじゃないの?
うーん、これを降りていくのか。