5-23 我が家探索
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と、フルールの問題も片付いたので、これでやっと我が家の見学が出来るな。自分の家を見学するっていうのもおかしな話だけど、ま、気にしたら負けだよね!
俺は一歩真銀のプレートの上に足を踏み出してみる。その瞬間、足下のプレートが光り、体中の汚れが落ちた気がした。いや、効果があるのは靴だけなのかな? しかしまぁ、このクリーンの魔法って何を基準にして綺麗にしているんだろうか? だってさ、何を汚れとしているのかが分からないじゃん。怖いよね、怖いよね。俺自身が汚れだって認識されて消されるんじゃないか、なんて考えちゃうよね。この世界だと疑問に思わないくらいに当たり前なんだろうけどさ。
俺の体格を考慮して低めの段差にはしたけどさ、靴を脱がないならちょっと必要無かったかなぁ。
「マスター、どうしたのです? その段差が乗り越えられないのですか? 確かにマスターは小さな、それこそ短足と呼んでもおかしく無いほどの足ですから仕方ないと思うのです」
いや、14型さん、一言多いよ。
何故か14型が嬉しそうに俺を持ち上げようとしている。いやいや、大丈夫だからね。
『しかし、このように便利な物を置くなら段差は要らなかったかもしれないな』
そうなんだよな。意外とこれ、便利だよね。これなら家に入りやすいように段差をなくしても良かったよね。
「いや、コレは結構良い考えだと思うんだぜ」
え? そう? というか、キョウのおっちゃん、まだ居たの?
「誰でもこの家に上がる時は段差を考えて一歩、このプレートの上に足を置いてしまうんだぜ。これは帝都で広める価値があると思うんだぜ」
あー、なるほど。段差があれば、必ず一歩目は段差の上に足を置いちゃうもんね。必ずクリーンの効果を受けるってコトか。これが段差が無い状態だと、そのまま気付かずに家の中に入っちゃうかもしれないもんね。おー、良い考えじゃん。コレはアイディア料を貰いたいくらいだよ。
「じゃ、旦那、俺にも家を見せて欲しいんだぜ」
あ、そうなるのね。というか、キョウのおっちゃんよ、今日は何しに来たのよ。
『フルール、案内を頼む』
もう住んでいるフルールに案内を頼むか。
「はい、ラン様、任されましたわぁ」
フルールは右の扉を抜け小さな部屋が連なっている廊下を歩いて行く。ふむ、途中に3部屋、奥にちょっと大きな部屋か。
「こちらがフルールの部屋ですわぁ」
って、いや、いきなりお前の部屋かよ。あー、でもこっちの通路って部屋が多いし客室として使えそうだな。その為の家具を揃えないとなぁ。フルールって、家具とか作れるのかな。
フルールの部屋に興味はないのでエントランスへと戻る。
「この左側は食堂ぽくなっていますわぁ」
エントランスにある、左の扉の先は食堂だった。かなり広いな。すでにテーブルや椅子が用意されているんだけど、これは親方のオマケ?
「暇だったので食堂ぽく見えるように家具を作って置いてましたわぁ」
あ、そうなんだ。じゃ、その調子で他の部屋の家具もお願いします。
「ほう」
キョウのおっちゃんがちょっと感心したように食堂を見ている。どったの?
「家具の造り――悪くないんだぜ。さすがはランの旦那が選んだ鍛冶士なんだぜ」
へ? いやいや、家具も鍛冶の扱いなのか? 違う気がするんだけどなぁ。まぁ、でもさ、確かにフルールもさ、性格に問題があってもこういう豪華ぽいモノとか装飾は得意そうだし腕は悪くないんだよな。
『なかなか広いな』
「ですわぁ、1人で寂しくご飯を食べていましたわぁ」
あー、うん。俺、完全にフルールを放置してたもんな。まぁ、でもさ、今後は鍛冶士の先生も来るし、売り子の人も来るし、クソ餓鬼どもも居るし、寂しくないよね。
あ! でも、食費が大変か。えーっと、食費は俺が出した方が良いのかな? あー、そうか、こういうことを聞かないから俺は駄目なのか。でもさ、スイロウの里だと余り聞くのは良くないって言われていたからなぁ。うーん、それが尾を引いている気がする。
『食費は自分が出した方が良いのだろうか?』
俺の天啓にフルールが嬉しそうに耳をぱたぱたしている。
「いや、そこは鍛冶士たち持ちなんだぜ。近くに食事場を用意する契約者も居るんだぜ。まぁ、食事を振る舞うような契約者なら鍛冶士たちは大喜びだとは思うんだぜ」
はぁ、そっか。まぁ、最初は俺がお金を払うか。
俺はフルールに金貨を1枚渡す。30万円だからね、ちゃんと考えて使ってよ。
「こ、これわぁ」
『無駄遣いするな、ここに来る予定の人たちと皆で考えて使え』
フルールが耳をぱたぱた、ローブ下から見えている尻尾をふりふりしている。
『無駄遣いしても次はないからな』
ないんだからね!
あー、この食堂からフルールの鍛冶場に抜けられそうだな。1人でここを往復していたのか、そりゃ気持ちも腐ってくるか。
エントランスに戻り、今度は2階へ。
2階に上がって右側に2部屋、左側に1部屋、ぐるーっと一周って感じか。
「左側がラン様の部屋になる予定で考えてましたわぁ」
へぇ、そうなの。
「一応最低限の家具を揃えていますわぁ」
ほうほう。
左の部屋へと戻り中を確認する。無駄に広い部屋の中央には布団の乗っていないベッドのようなモノがあり、その横に何に使うのか分からない机と椅子があった。ふむ。今度、布団をゲットしておくか。
にしても、ちゃんと、一番広い部屋を俺の部屋にしてあるんだな。
『ところで地下室への入り口は?』
「エントランスにある階段の裏ですわぁ」
そっかー。目立たない所にしたんだな。
ふーむ、これで一通り見て回ったかな。
「旦那、ランの旦那の家が見れて楽しかったんだぜ。と、参考になったんだぜ」
参考? ああ、我が家の改造計画か。しかしまぁ、そうなると我が家って感じじゃないよなぁ。会社と自分の家が一緒になっている感じだよ。
「じゃ、俺はさっそく話を通しに行ってくるんだぜ」
キョウのおっちゃんが帰る時も真銀のプレートに足を乗せ、光らせクリーンの魔法を発動させてから帰って行く。おー、助かるんだぜ、ということでお願いします。
あ、そうだ!
『自分の真銀の槍にも永続的な魔法の付与は可能か?』
フルールが嬉しそうに牙を覗かせながら頷く。
「もちろんですわぁ。魔法具店にて好きな魔法が付与できますわぁ」
おー、そうか! って、ことなら臨時収入があったことだし、さっそく魔法の付与に行ってきますか! あ、でも帝都だと知り合いの魔法具店なんてないな。知っている人に聞こうにもキョウのおっちゃんも帰った所だしなぁ。
よし、スイロウの里に行ってみるか。
2015年12月12日修正
誤字修正
2021年5月10日修正
ぐるーっと一週 → ぐるーっと一周