5-21 ゆにこーん
―1―
――《魔法糸》――
俺は魔法糸を使って作った紐を指輪に通す。そして、そのまま首からぶら下げる。うーん、ステータスプレート(金)に指輪とゴチャゴチャしてきたなぁ。でも、この指輪が見える位置にあれば東側でも舐められることがないんだよね。まぁ、キョウのおっちゃんの気持ちだからね、ありがたく貰っておきましょう。
「チャンプ、クエストは受けないのか?」
いやね、スカイさんよ、俺も受けられるなら受けたいんだけどさ、今は迷宮都市に向かってる途中だからね。俺もさ、本当なら早くS級とかになってさ、周りの冒険者に驚かれるとかしたいワケよ。ま、まぁ、S級とかがあればの話だけどさ。
『では、また』
俺はスカイに挨拶をして西側の冒険者ギルドを後にする。そのまま14型と共に路地裏へ入り、人が居ないのを確認する。頭の上の羽猫もキョロキョロと周囲を見回しているようだ。安全確認でもしているつもりか? お前がキョロキョロしても無駄だと思うんだけどなぁ。ぺちぺち当たる尻尾が鬱陶しい。まぁ、いいか、戻ろう。
――《転移》――
《転移》スキルを使い我が家へと戻る。ぴょーんとな。
幽霊でも出そうな――周囲に、帝都に溶け込んでいない洋館チックな我が家へと戻る。さあ、報酬も貰ったし、我が家の探索開始だ!
俺が我が家に入ろうとすると、フルールが作業場から恐ろしい勢いで飛び出してきた。
「ランさん!」
ん? どったの?
「フルールは怒っていますわぁ」
フルールが両手をだだっ子のように振り回している。え? いや、マジでどったの?
「ランさんが探してきたのですから、見所があるんでしょうが、フルールは言ったと思うんですわぁ」
はい?
「売り子を探して欲しいって」
うん、言っていたよね。
「子どもは売り子になりませんわぁ」
あ! そっかー。やっぱり駄目だったかー。良い考えだと思ったんだけどなぁ。
「これから教え込むにしても時間がかかりますわぁ」
あ、でも教え込んだらモノにはなりそうなの? じゃ、お願いします。
『では、頼む』
「もう!」
俺の天啓を受けてフルールは狼頭を大きく横に振っている。
「わかりましたわぁ。とりあえずフルールの手伝いとして雇いますわ。確かに鍛冶仕事に人手があるのは助かりますわ。今でも武具の手入れなどの仕事はしてま……」
なら、いいじゃん。と、そうか、武具の手入れみたいな仕事はしているのか。てことはここまでお客さんが来ているのか? へぇ。場所的にも武具販売なんてちょっと無理じゃねとか思ったんだけど意外とやっていけそうなのか? あ、でもさ、俺の家の横でお客さんとうるさくやられるのはちょっとなぁ。
「ランさん、聞いてますのん!」
俺の態度が気にくわなかったのかフルールは言葉を途中で止め、俺に指を差して何やらわあわあ言っている。
「とにかく! しっかりとした売り子を頼みますわぁ」
えー、でもさ、そこまで言うなら自分で納得が行く人を探した方が早くない? 何だろう、人見知りとかそんな感じなのかなぁ――いや、親方とはすぐに仲良くなっていたな。うーん、うーん。ま、考えても仕方ないか。
じゃ、我が家に入りますか!
「あ、芋虫だ」
「ほんとだー」
「あ!」
「……ほんとぅ?」
クソ餓鬼どもがフルールの作業場から顔だけ覗かせてくる。あ、そこに居たんだ。てっきり追い返したのかと思ったよ。
「こら! 頼んだ仕事をやりきるんですわぁ」
フルールが目を三角にして怒っている。そうしていると赤ずきんを食べちゃう狼みたいだね。
「ランさん、今何か失礼なことを考えてへん?」
いえいえ、滅相もない。にしても意外としっかり仕事を教えているぽいなぁ。じゃ、まぁ、改めて販売要員を探してきますか。にしてもフルールは、俺がこの帝都で顔が広いと思って頼んでいるのかもしれないけどさ、知っているツテなんてキョウのおっちゃんとジョアンくらいなんだけどなぁ。
ま、それは置いといて改めて我が家に入りますか!
―2―
俺が我が家に入ると、何故かフルールもついて来た。
「久しぶりに帰ってきたランさんの為に、フルールが案内しますわぁ」
ふぇ、フルールが案内してくれるのか。ま、まぁ、俺が迷宮都市へと旅に出ている間も家を見てくれていたのはフルールだもんな。
入ってすぐは俺の要望通り一段高くなっており、そこからすぐに2階へと上がる階段が見える広いエントランスになっていた。左右に扉も見えるな。以前の造りとそっくりだ。
フルールがそのまま家の中へと入ろうとする。
『ちょっと待ったッ!』
俺は慌てて天啓を授ける。待った、待った、待ったー!
「どうしたんですぅ?」
土足厳禁! 何のために玄関を作って貰ったのか分からないじゃん。
『ここで靴を脱いであがるのだ』
土足厳禁!
「はぁ? 何で、そない無駄なことを?」
いやいや、せっかくの家が汚れるでしょ。駄目だって。よし、こうなったら俺はこの世界に靴を脱いで家に上がる習慣を広めてやる。文化として根付かせてやる!
『床が汚れるだろう?』
俺の天啓を受けても意味が分からなかったのか、フルールがそのまま土足で家の中に入る。うがー、だからー!
と、その時だった。フルールの足下が一瞬だけ光った。ん? 何々?
「ああ! ランさんの要望はフルールも聞きましたわぁ。なので、無駄を省いて余った真銀を使ってクリーンの魔法を封じましたわぁ」
へ? どういうこと?
「ここを見て欲しいですわあ」
フルールが足を置いた場所を見る。一段高くなった、そこには真銀を使った金属の板がくっついてた。
「真銀の特性である魔法付与ですわぁ。ここに足を置くとクリーンの魔法が発動しますわ」
へ? そ、そうなの? でも魔法付与ってすっごい高かったような……。
「魔法付与は高いですけど、フルールも住む家ですから惜しくはないですわぁ」
へ? ど、どういうこと?
俺が呆然と話を聞いていると、フルールは口の端から牙を覗かせながら、
「こちらがフルールの部屋ですわぁ」
なんてのんきに喋っていた。
おい、ちょっと待て。俺はお前が住むことを許可した覚えがないんですけど。何、勝手に住んでるの? ここ、俺の家だよね、そうだよね。家の持ち主より先に住んでいるとかどういうこと?
これって我が家のネトラレですかね。