第4話:魔族領への侵攻作戦ーレイドー★
【エデン境界付近:エデンの長城】
「カマエルさん。この先が『ゲヘナ』なんですよね?」
「そうだぞ、コウヘイ! 悪しき魔物たちの土地『ゲヘナ』だ。奴らを叩き潰すのが我々の目的だ。」
馬車の荷台に隣り合って座る、俺と聖騎士団第一軍指揮官のカマエル。
俺たちを乗せた馬車は目的地である『魔物たちの土地』へと突き進んでいく。
俺たち二人だけではない。
騎士団と共にレイドに参加する有志たち。
壁にあいた巨大な門を通って、全ての人員を乗せた長大な馬車の車列は、目的地である『魔物たちの土地魔物たちの土地』へと進軍を続けていく。
「コウヘイ。お前の仕事を言ってみろ。」
「バフ魔法を用いた味方への支援ですよね? 戦闘指揮等もできそうですが、他はやらなくてもいいのですか?」
「ああ、やる必要はない。魔物共相手に高度な作戦は不要だ。だが、万一ということがある。その時は、お前のバフ魔法が切り札だ。いざというときのために、魔力は温存するんだぞ。」
「わかりました。」
今回の作戦では、短期決戦で魔物の街を陥落させる。
短期決戦で終わらせることによって、補給の手間を省くことを目的としているそうだ。
聖騎士団は精鋭である第一軍団を主力とし、有志の市民たちも強い人たちを選抜している。
初のレイドで知らない上官と一緒になるのは苦ではあったが、幸い短期決戦で終わるようなので少しの辛抱だろう。
俺は自分にそう言い聞かせていた。
「目的地まで休むといい。コウヘイ。」
「そうします。カマエルさん。」
(この人、何か偉そうで好きになれないや。)
カマエルの申し出通り、俺は少し眠ることにした。
【ゲヘナ:サレムの街】
魔物の支配領域
その外周付近にある奴らの街『サレム』
そこを叩きのめすのが、このレイドの作戦目標だ。
馬車から降りたエデンの軍勢が攻撃用の陣形を組み始めた。
その少し後ろで、俺はカマエルの隣で待機していた。
カマエルは俺に念押しのために、何度も話してきた指示を再度出した。
「いいか、我が軍が敵軍の最前列を切り崩したらバフを一旦止めろ。俺の指示で必要に応じてバフを掛けろ。いつでも切り札を使えるように、魔力を温存しとけよ。」
(しつこいなこの人。何度も言わなくてもわかってるよ。)
思わずそう思ってしまう。
表情にその考えを出さないように気をつけて、俺は返事をした。
「わかっていますって。いつでも強化できるように、全員を『指揮下の戦力』に入れておきますね。」
俺は二つのウィンドウを開いて、全ての味方兵士を強化できるように準備を行った。
「いつでもいけますよ。カマエルさん。」
「物理攻撃強化と魔法攻撃強化を掛けろ。魔力を温存するためにそれ以外のバフは使うな。」
同士討ちを避けるために弱めに調整したうえで、味方にバフを掛けていく。
俺が味方部隊にバフを掛け終えたのを確認し、カマエルは命令を下した。
「全軍突撃! 真っ正面から奴らを叩きのめせ!」
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「我らエデンの軍に敗北の二文字無し!」
「「「素晴らしき理想郷に勝利を! 邪悪な魔物の地に敗北を!」」」
「いくぞ! ウラーーーーー!」
「「「ウラーーーー!!」」」
前線指揮官の鼓舞の声。
それに呼応して、プロパガンダを叫ぶ配下の兵士たち。
俺の手によって物理・魔法攻撃の両方を大きく強化された最前線の部隊は、敵陣へと切り込んでいく。
「喰らえ!」
「「グギャ!」」
最初に切り込んだ戦士のたった一回の斬撃で、十数体ものゴブリンが切り伏せられる。
「俺が狙ったのは一匹だぞ。ありえないほど強化されてる!」
バフの効果を実感している戦士の隣から、一人の騎士が敵陣に切り込む。
「今度は俺の番だ! おりゃああ!!」
「「「グギャア!」」」
その戦士は、最大限の力を込めた横薙ぎで衝撃波を生み出した。
空気の刃と化した衝撃波を受けて、またしても数十体の敵が切り裂かれていく。
「すげえ、本当に衝撃波が出やがった! バフを掛けた程度でここまで強くなれんのかよ!!」
百人近い数の騎士団所属の兵と、それを指揮する少数の騎士。
それらに加えて、これまた百人近い数のこのレイドに参加した有志たち。
所属の異なる合計二百人ほどの軍勢が、最初に切り込んだ二人の後に続いた。
あっという間に無茶苦茶になる敵陣前列。
まだ無傷の敵陣の中列と後列に、味方魔道士たちが攻撃魔法を撃ち込んでいく。
「浄化の炎!」
「荒れ狂う暴風!」
火炎魔法が敵の防衛用のバリケードごと敵兵を焼き尽くしていく。
別の位置に布陣していた敵部隊にも風魔法による暴風が襲いかかり、彼らを吹き飛ばす。
圧倒的な火力で、エデンの軍勢は敵を蹴散らしていった。
もちろん敵も黙っていない。
メイジゴブリンが攻撃魔法を放ち、別の位置にいるゴブリンたちがボウガンの矢を浴びせてくる。
だが、敵の必死の反撃は意味をなさなかった。
「効かねえよ、そんな攻撃!」
「無駄な抵抗だぜ!」
エデンで作られた特別製の鎧やローブ。
その高い防御力により、魔物による全ての攻撃が大幅に減衰させられてしまう。
ある程度のダメージは受けるものの、歴戦の兵士であるエデンの軍勢は止まらない。
こうして、『戦い』だったはずの光景は『虐殺』へと変貌していった。
~~~~
「味方部隊、無茶苦茶強くないですか?」
「正直かなり驚いている。精鋭揃いとはいえ普段はここまで強くない。」
「やっぱり異常ですよね。」
「その通りだ。コウヘイ。お前の支援魔法は素晴らしいな! 次回もこの調子で頼むよ。」
(おいおい、次回も参加するなんて言ってねえぞ。でも、褒めてくれるのは滅茶苦茶うれしいけどな。)
作戦の成功と俺の反応を見て、カマエルはとてもうれしそうな顔をしていた。
「コウヘイ。もうバフは消していいぞ。」
「わかりました。一旦消しますね。」
そう答えると同時に、魔力の流れを切って魔法を止めた。
(あまりにも一方的すぎる......夢でも見てるみたいだ。)
通常の戦闘では、勝利した側にもある程度の数の犠牲は必ず出る。
それが常識だ。
だが、目の前の光景はその常識から大きく外れている。
エデン側の犠牲が全く出ていないからだ。
それから20分ほどが経過した。
ふと、俺は戦術ウィンドウを眺めた。
相変わらずこちらは圧倒的に優勢だ。
敵を示す赤のシンボルはその数をどんどん減らしている。
(勝ったな......いや、ちょっと待て! 味方の背後に赤いシンボルがいくつかある!)
『敵の別働隊が戦場を迂回して接近してきている』
そのことに気づいた俺は、カマエルにそのことを伝えようとした。
彼の方も気づいたようだ。
カマエルは俺に向かって叫ぶ。
「コウヘイ! 今すぐ部隊の後列に物理防御強化と魔法攻撃強化を掛けろ! 火炎魔法で敵の爆弾を破壊して、撃ち漏らしを防御強化のバフ魔法でなんとかさせるんだ!!」
彼の叫びを聞いて、俺は反射的に戦場へと目を向ける。
敵の正面は完全に崩壊しているし、掃討しきるのは時間の問題だ。
だが、味方部隊の背後に15個の巨大な樽を押す魔物たちの姿があった。
「あれは一体!?」
カマエルが即答した。
「黒色火薬を満載した爆弾だ! めったに使ってこないから油断していた! 直撃したら洒落にならない!」
狙いは、後列に布陣する30人の魔道士と、それを護衛する40人の戦士たちのようだ。
あと少しで、ターゲットにされた70人の味方に攻撃が始まってしまう。
(カマエルさんの指示では多分うまくいかない......だったら、俺がやってやる!)
俺は戦術ウィンドウを開いて後列の部隊に指示を飛ばした。
「魔道士の皆さんは樽爆弾の進路に氷塊を撃ち込んで下さい! 戦士の皆さんはその場を一旦離れてください!」
「コウヘイ? お前に指揮権限を与えていないぞ!」
「一刻を争うんです! 俺ならなんとかやれます!!」
「わかった、お前に任せよう。絶対に失敗するんじゃないぞ!」
カマエルの返事を聞く前に俺はバフによる支援を開始する。
(まずは魔道士たちを支援対象に一括で選択して。)
「魔道士の皆さん! 先ほども言いましたが、魔法攻撃強化を掛けるので氷塊を使用してください! 攻撃箇所はこちらで指定します!」
「戦士の皆さんは敵の左側に移動して、敵の爆弾をやり過ごしてください! 魔道士たちが防ぎきれなかった際の保険です!」
指示を終えた俺は必要なバフを掛けた。
「魔法攻撃強化!」
魔道士たちの周囲に青いオーラが発生したことを確認した。
無事にバフがかかったようだ。
俺は、すぐに攻撃位置を魔道士たちに伝えた。
(これでよしっと。次は戦士たちを対象にバフを掛ければ。)
「身体強化!」
(頼む。うまくいってくれよ。)
~~~~
「なあ、本当にこの場所でいいのか? それに氷塊だと爆弾の誘爆は期待できないぞ。」
コウヘイからの指示を受けた魔道士の一人が疑問を呈する。
「時間がない! 彼を信じるしかない!」
「わかったよ! やればいいんだろ!」
離れていく戦士たち。
こちらに迫ってくる樽爆弾。
その二つの様子を見ながら、魔道士たちは腹を括った。
「「氷塊!」」
((本当に大丈夫なんだよな?))
放たれたいくつもの氷の塊。
本来であればこぶし大の小さな塊しか生成されない。
だが、今は違う。
現実世界での大型トラックほどの氷塊が生成されて、攻撃目標に指定した箇所に突き刺さった。
猛スピードで突入してきたはずの樽爆弾たち。
その全てが即席のバリケードに阻まれて、その場で停止する。
コウヘイからの次の指示が入った。
”魔道士の皆さん。浄化の炎で誘爆させてください!”
指示を受けた魔道士たちが即座に動き出した。
「みんな聞いたな! あの忌々しい爆弾をぶっ壊す!」
「「「浄化の炎」」」
氷の壁に阻まれた15個の樽。
魔道士たちの手により、それらを瞬く間に炎の海に沈めていく。
猛烈な火炎にさらされた樽爆弾は、内部の火薬に引火して轟音とともに吹き飛んでいった。
「戦士の皆さん! 前進してこの位置から攻撃してください! これでとどめを刺せます!」
「承知! 行くぞ。奴らをぶっ潰すぞ。」
「「「ウラーーーー!!」」」
攻撃が失敗したのを確認して、ゴブリンたちは退却を始めた。
その動きを戦術ウィンドウ越しに確認したコウヘイは、その退路を断つ位置に戦士たちを誘導していく。
「「グギャ?ギャギャ!?」」
「なんだよ。こっちの動きに気づいていないのかよ。」
「このまま殲滅する!」
「「ギャギャアー!」」
コウヘイの巧みな指揮と身体能力を向上させた戦士たちの高速移動。
その二つにより、敵の退路を完全に断つことに成功した。
それも、直前まで敵に気づかれることなく。
その後数分のうちに敵別働隊の殲滅に成功する。
こうしてコウヘイは味方の危機を見事に救ってみせた。
~~~~
戦闘が終わり、俺は数人の騎士およびカマエルと一緒に敵の生き残りを捜索していた。
敵を生け捕りにして、エデンへの攻撃計画がないかを調べるためだ。
「なあ、コウヘイ。どこで戦闘指揮のやり方を学んだんだ? あんな見事な指揮は、一般人には到底無理だ。」
俺は答えた。
「昔やりこんでいたゲームで学びました。『大戦略』とか『信長の野望』とかの司令官となって軍隊の指揮を執るゲームです。」
「君がいた世界にはそんな物があるのか。ある程度の経験があることはわかったが、その程度じゃあそこまではやれない。お前、軍師としての才能が絶対にあるぞ!」
「たまたまうまくいっただけです。才能なんてないですよ。」
「そう謙遜するな。ゲームとやらの経験は侮れないのかもな。まあ、単にお前の才能が凄すぎただけだと思うがな。ガハハ。」
上機嫌に答えるカマエル。
彼は話題を変えた。
「お前は戦闘になると雰囲気もずいぶん変わるな。最初会ったときはふざけきった奴だと思っていたが、見直したぞ。やるときはちゃんとやるいい奴だったとはな!」
「普段が少し......いや、かなり......違う、めちゃくちゃ能天気なだけですよ。さすがに戦場に来てまで、そんなふざけた態度を取るわけないですよ。」
「まあ、それもそうだな。生き死にがかかっている場面でも同じ態度だったら、ぶん殴ってやるつもりだった。」
(やっぱり俺、かなり変人として見られているみたいだ。反省......は別にしなくてもいっかな。)
カマエルとの会話が終わった後。
一緒にいたうちの一人の騎士が話しかけてきた。
「感謝しているよ、コウヘイ君。いや、コウヘイ様と呼ぶべきかな?」
「ああ、君の魔法がなかったら、何十人もの犠牲が出たはずだ。君は英雄だよ!」
「いえ、命令通りに動いただけです。」
俺が答えるとすぐに二人が褒めちぎってきた。
正直とてもうれしい。
「謙遜しなくていいよ。自分をもっと評価すべきだ。」
「そうだぞ。もっと誇るべきだ。」
そんなたわいもない会話をしていたとき、カマエルが静かに告げた。
「お話はその辺にしておけ。調査の時間だぞ。行くぞ。気を抜くな!」
カマエルは未調査の建物のドアを開けた。
その後ろから俺たちも続く。
「気をつけて調べろ。どこに敵が潜んでいるかわからないぞ。」
二番目に建物に入った騎士が指示を出す。
内部を調査する俺たち。
ふと、俺は内部に置かれていた箪笥が気になった。
それは、魔物が作ったにしては綺麗すぎるものだった。
(エデンから盗んできたのかな?)
そう考えながら箪笥へと近づいていく。
「「コウヘイ! 待つんだ!」」
「グギャギャ!」
騎士たちの注意の声が響く。
その直後に箪笥の内部からナイフを持ったゴブリンが飛び出してきた。
(ヤベ、油断した! この距離じゃ逃げられない!)
とっさに飛び退こうとするも遅かった。
魔物の刃に貫かれる。
そう思った瞬間、敵が真っ二つに切り裂かれた。
「危ないぞ! 大戦果を出して油断したな?」
カマエルが素早く切り伏せてくれたようだ。
床に倒れたゴブリンは叫びを上げている。
「ギャギャ!グギャギャ!グギャー!」
「往生際が悪い!」
別の騎士が剣を突き立てて、ゴブリンの動きが完全に止まった。
「生け捕りにするつもりだったが、しょうがないな。ひとまず外に出ようか、コウヘイ。」
「あ、そうですね......いったん出ますか。」
建物を出た俺たち。
付近調査もそれからすぐに終わって、全員がエデンへの帰路についた。
あちらこちらから、レイド参加者たちの歓喜の声が聞こえてくる。
まだエデンまでは距離があるが、気の早い一部の参加者たちは祝杯を挙げていた。
他の参加者たちとは対照的に、俺の心は暗く沈んでいた。
先ほど襲いかかってきたゴブリンの最後の叫びが焼き付いていたからだ。
本来であれば言語として認識されないはずの叫び。
俺は、翻訳魔法を使っていたことにより、叫びの意味を理解出来た。
いや、理解出来てしまったと言うべきかもしれない。
「ギャギャ!グギャギャ!(この人でなし共!俺たちから全てを奪いやがって!)」
「グギャー!(俺たちが人間であることを忘れたのか!)」
最初は翻訳魔法が誤作動を起こしたのかと思った。
いや、そう思い込んでいた。
だが、最後の言葉が間違っていないとすれば辻褄の合うことがいくつもある。
(知能が低いはずの魔物が、訓練された兵士のように統率された動きをしていた。それに『火薬』なんて高度な物を魔物が作ることができるのか?)
一度芽生えた違和感の種は、急速に大きく成長していった。
(俺、気づいちゃいけないことに気づいちゃった? 俺自身もヤバい目に遭うんじゃね? 逃げた方がいいかな?)
第五話へ続く




