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第2話:理想郷へようこそ

【王都オラム:謁見の間】

「ここは神々が治める世界なのですか?」


「その通り! ここは我らが治める理想郷じゃ。この世界は『エデン』という名だ。」


(この人たちに失礼な態度取ったら絶対にヤバいな。礼儀正しくしよ。)



玉座に座るこの世界エデンの主『イオフィエル』

金色の長い髪と紫の宝石のようにきれいな瞳。

ゆったりとした白い服。

パッと見は普通の好青年に見えるが、一つだけ普通の人間とは大きく異なる点があった。

背中から生えている一対の白い大きな翼。

その服装と相まって、彼は宗教画に描かれている『天使』のような姿であった。


イオフィエルだけではない。

聖騎士団の団長である『メタトロン』にも同様の白い翼が生えていた。

そんな彼らを見て、冒頭の台詞が思わず口に出ていた。


(あの翼邪魔じゃないのかな? 仰向けに寝るのもキツいだろうし、着替えるときも大変だと思うけど。)


俺は思わず変なことを考えてしまった。

口に出したらヤバそうだから、絶対に言わないけど。



俺の考えを知ることなく、イオフィエルはとても優しい顔で言葉を紡いだ。


「そなたも異世界から来たそうじゃないか。それに薬師の少女を助けてくれたとも聞いている。礼としてこの世界で暮らすことを許可しよう。」



最初に出会った騎士シェムハザがイオフィエルの言葉を聞いて反応した。

彼には翼は生えておらず、普通の人間の姿をしていた。


「承知しました陛下。住宅地Bブロックに空き家があるので、そちらに住んでいただきましょう。いいですか、コウヘイ君。」


「ええ、ありがとうございます。」



こうして、俺は第二の人生を歩み始めた。

一見『理想郷』にしか見えない場所で。





【王都オラム:住宅地Bブロック】

シェムハザの案内で俺は住宅地にやってきた。

いくつかある空き家のうちの一つを指さして彼は告げた。


「ここが君の新しい住処だよ。」


そこには質素だが、小綺麗な住宅が建っていた。

青い屋根に白く塗られたきれいな壁。

こじんまりとした平屋だが、一人暮らしにはちょうど良い大きさだ。


シェムハザが俺に確認してきた。


「ここでの決まり事は覚えているかい?」


「『他の住宅ブロックに入ってはいけない』と『幸福を追求する』の二つですよね。」


「問題ないね。それじゃあ、またね。」



シェムハザの事務的な質問に、俺は答えた。

彼に背を向けて、俺はもらった家に入ろうとした。

入る直前に、少し前から気になっていたことをシェムハザに聞いてみた。


「シェムハザさん。空き家がいくつもあるようですが、なぜですか?」


「陛下が『住居がなくて困っている人を絶対に作るな』と命じてね。みんなが頑張って作りすぎたせいで、余った家がいくつもできちゃったんだ。」



返事を聞いて納得したが、俺の中にはまだ違和感が残っていた。


「それにしてはやけに生活感があるように見えますが。」


「自宅をリフォームする人が、空き家を一時的に使うのさ。生活感があるように見えるのはそのせいだよ。」


(一時的に滞在したにしては、生活感が強すぎるような......まあ、いいか。)



シェムハザはもう一度俺に尋ねてきた。


「他に聞きたいことはあるかな?」


「いえ、特にないです。」


「OK。ここでの生活を楽しんでね!」



そう言って、彼は去って行った。

期待を胸に、俺は新たな住処へと入っていった。




~~~~

次の日


朝食を食べ終えた俺は、軽く散歩をしようと家から出ようとした。

玄関を開けたら、目の前には何十人もの人々が立っていた。

同じBブロックに住む住民たちだ。



「「理想郷へようこそ!! 今日からコウヘイ君もここの一員だよ!!」」


歓迎の言葉とともに、俺に花束が渡される。

クラッカーの弾ける音もして、俺の家の周囲はお祭り騒ぎになっていた。


「あ、ありがとうございます。歓迎してくれてうれしいです。」


あまりの大歓迎ぶりに、俺は思わず縮こまっていた。

軽い気持ちで家を出るつもりが、家の外がこうなっているとは思っていなかった。


隣人たちの温かすぎる目線に、思わず俺は困惑してしまう。

困惑が冷めやまぬまま、不自然なほど丁寧な口調で隣人たちに挨拶をした。



「よそ者ですが、よろしくお願いいたします。」


少し疑問に思ったことがあったので、質問してみた。


「ずいぶんタイミングがいいですが、皆さん長い間待機してくれていたんですか?」



近くにいた二人が答えた。


「そんなことないよ。君が家から出てきそうなタイミングで集まったのさ。」


「あたしらは、お互いに見守り合っているのさ。みんな同じ時間に同じようなことをしているから、コウヘイ君の動きもなんとなくわかるのよ。」


「皆さんは凄いですね。よそ者の俺の行動パターンも予想出来るなんて。」


「「もちろんさ。見守り合うことは大事だからね。」」

「「病気になったとしても、すぐに駆けつけてあげるから安心してね!!」」


(凄く良い人たちだ。なんて優しい世界なんだ。)



その日の歓迎会は夜まで続いた。

こうして、俺は理想郷での新生活が幕を上げた。





~~~~

それから数ヶ月後。


【王都オラム中心部:大聖堂】

俺は隣人の『オスカーさん』と近くに住む『サーシャおばさん』と一緒にBブロックの外にある共用エリアの大聖堂に来ていた。

場所はBブロックの外の共用エリアにそびえたつ大聖堂。

現実世界で建設中のサグラダ・ファミリアよりも巨大で、この王都のシンボル的存在だ。



俺たち三人は、大聖堂内部椅子に座っていた。

毎食同じ内容の配給弁当を持ち寄って、ランチを食べに来たのだ。


「三食無料なんて、この世界はすごいですね! この食事はどこで作っているんですか?」



俺は二人に疑問を投げかけた。

二人は、とてもいい笑顔で質問に答えた。


「王宮で作られているらしいよ。多分騎士団の方たちが暇を見つけて作ってるんじゃないかな?」


オスカーが答えた。

俺は彼の答えの不自然な点に気づいて、別の質問を投げかけた。


「騎士団の方たちだけでは作りきれないと思いますが。奴隷にやらせたりしてないですか?」



今度はサーシャが俺に聞いてきた。


「コウヘイ君。『ドレイ』って何?」


「自由を奪って無理矢理働かせられる人のことです。」


「コウヘイ君。そんなことをして何の意味があるんだい?」


「労働力にするためです。俺がいた世界では、過去にそういったことをしていました。」



二人はため息をついて答えた。

その態度はとてもあきれ果てたものだった。


「いいかい。この世界に住む人間の最も大事な『権利』と『義務』はなんだったかい?」


「『幸福に暮らすこと』ですよね? どんな人間も幸せに暮らす権利があり、それが義務でもあるんでしたよね?」


「よく覚えていたね。コウヘイ君。」



受け答えを聞いていたサーシャが語りかけてきた。


「ちゃんとわかってるじゃない。『人の幸福を奪う』なんてひどいことして良いわけがないわ。」


「お二人のおっしゃる通りです。俺が元いた世界がひどすぎておかしくなっていたみたいです。自殺する人が出てくるような、俺が元いた世界はおかしすぎたみたいです。」



俺の返事を聞いて二人は笑顔になった。

そして、俺に話しかけた。


「コウヘイ君。そんな悪趣味な概念なんて忘れちゃいなさい。」


「サーシャさんの言うとおりさ。この世界ではそんな言葉自体不要だよ。」


「「君も全力で幸福を追い求めて良いんだよ。なんたってそれが『最大の権利であって義務』なのだから。」」


「さ、今日はお開きにしましょ。しっかり休んでね、コウヘイ君。まだ前の世界での心の疲れが残ってるみたいだし。」


サーシャおばさんの台詞を最後に、この日の小さな集会は終わった。





~~~~

数日後


「良い朝だ~。今日は何をしようかな。」


心地の良い朝。

カーテンを開けて穏やかな日光を全身に浴びる。


今日の分の配給弁当を取り出して朝食の準備を始めた。

中身はいつものパンと、よくわからない物でできた肉料理。

デザートは謎の物体でできたゼリーだ。



カランカラン!


「誰だろう? 今開けまーす。」


いつも通りのルーティーンの最中に、玄関の呼び鈴が鳴った。

ドアを開けたら、シェムハザの姿があった。



「やあ、コウヘイ君。朝食を食べ終わったら、腕試しをしてみない?」


「腕試しですか。急ですね。」


(朝食を食べてないことをなんで知ってるんだろ?)


疑問が浮かんだが、別にどうでも良さそうだったので軽く流した。

そんなことをいちいち気にしてたら、この世界で生きていくのは大変だ。



「君にもそろそろ『レイド』に参加してもらいたくてね。」


「『レイド』ってなんですか?」


「知っての通りこの世界の外には『魔物の支配領域(ゲヘナ)』があるんだ。ごくまれにそこ魔物がこの世界に忍び込んできて、一般市民を襲うんだ。それを防ぐための正義の戦いだよ。」


「魔物と戦うのって、危険じゃないんですか?」


「もちろん危険さ。だからこそ実力は必須だよ。でも、君は来てすぐにゴブリンを追い払ったんでしょ。ぜひ君の腕を見たいんだ。問題なさそうなら次のレイドに参加してほしい。」


「俺の実力はたいしたことないと思いますが......とりあえず腕試しをやってみます。ゲームみたいで楽しそうですし!」


「良い返事だ。さあ、さっそく腕試しに行こうじゃないか!」



『魔物と戦う』

この言葉が俺を少し緊張させた。

だが、不思議と不安や忌避感も出てこなかった。

その理由はいくら考えてもわからなかった。


(戦うこと自体が嫌だと考えていたような。まあ、いっか。)




第三話に続く

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