第14話:捕虜たちは真実を知る
【へブロナ周辺部:臨時捕虜収容所】
俺とエリシャは、捕らえたエデン兵たちの居る収容所へやってきた。
捕虜収容所と呼ばれてはいるものの、戦闘直後の荒れ地の一部を柵で囲っただけの簡易的なものだ。
柵越しに中を覗くと、捕虜たちが怯え切っている様子が窺えた。
「なあ、本当に俺らどうなるんだ?」
「知るかよ! どうせ魔物どもの餌にでもなるんだろ!」
未だに認識阻害魔法の効果が続いているようだ。
彼らには、エルミナ兵が『人間』ではなく『魔物』として見え続けていた。
そんな彼らを前にして、俺はエリシャに合図を出した。
「異常解除!」
エリシャの声とともに捕虜たちが白い光に包まれる。
全デバフを解除する彼女の魔法により、捕虜たちにかけられていた認識阻害魔法が消滅していく。
彼らの目には、真の光景が飛び込んでいった。
「一体何のつも......どういうことだ! 敵は『魔物』なんじゃなかったのか!?」
「落ち着け! 自分たちが『人間』だと思い込ませているだけだ!」
「そうだ、俺たちは『魔物』と戦ってきたんだ! エデンの外に『人間』がいるはずが無い!」
捕虜たちは自分たちが攻撃していたのが『魔物』ではなく『人間』だったことに気づいていった。
だが、彼らはすぐにその気づきそのものを否定した。
自分たちが『人間』を殺していたという事実を、彼らは信じることができなかった。
いや、『信じたくなかった』というのが本質だろう。
(やっぱり、すぐには信じないよな。ここまでは想定通りだ。)
俺は、捕虜たちに先の戦いで使用したグレネードランチャーを手渡した。
もちろん弾は渡してないし、彼らに現実を受け止めさせるにはこれで十分だろう。
新兵器を俺から受け取ったエデン兵。
その一人が驚愕の声を上げ、捕虜たちに動揺が広がっていった。
「おい......こんな武器見たことないぞ!」
「確かに.....なぜ魔物がこんなものを持っているんだ?」
「本当に敵は......人間だったの......か?」
俺は捕虜たちに告げた。
彼らを信じさせるための根拠を。
「皆さんは俺たちのことを『魔物』だと信じていましたよね? その武器の精巧さは一目瞭然でしょう。そんなものを大量に用意できるのは『人間』以外にいると本気で思いますか?」
動揺が更に広がっていく。
後は畳みかけるだけだ。
「皆さんは騙されていたんです! 『ゲヘナ』は魔物の領域ではありません......『エルミナ神聖王国』という人間の国です! レイドを初めとした『正義の戦い』は、全て『人間を虐殺するただの犯罪行為』だったんです!!」
俺が話し始めたときは、彼らはただ騒ぐだけだった。
彼らは段々と口をつぐんでいき、話し終えたときには誰もが黙りこくっていた。
そんな中、捕虜の一人が沈黙を破った。
「なあ...俺たちがしてきたことは間違いだったのか? 嘘だと言ってくれよ!!」
堰を切ったかのように多くの者が続いた。
「そうだ......間違ってなんかいない! こいつの話は全て巧妙な嘘だ!」
「エデンが間違っているわけない!!」
「そうだ! そんなはずな...」
「黙りなさい!! あんたたちそれでもいい大人なの!?」
エデン兵たちの惨めな言い訳を聞いて、エリシャが怒鳴り声を上げた。
彼女のあまりの剣幕に、全ての捕虜が再び黙り込んだ。
「あんたたち本当は気づいていたんじゃないの!? 真実を知った人を『知恵の実病』とかいって無理矢理連れ去っていたわよね? 何も悪いことしてない人でも、人手が足りなくなった時に農村とかに攫ってるわよね?」
「「「..…....」」」
「あんたたちはエデンの裏側をよく見てきたはずよね? ちょっと考えれば、エデンにはそれ以上の闇があることくらい想像つくでしょ! 目の前の光景がそれよ!!」
「それはちが......」
「へえ、誇り高きエデンの兵士様が無責任にも言い訳ですか? ふざけるんじゃないわ! あんたたちのせいでエルミナは......いや、この世界の他の国が、どれだけ酷い目に遭ったと思ってるの!?」
「エリシャ、一旦ストップ。」
「......わかった。」
俺は感情的になりすぎていた彼女をなんとか宥めた。
捕虜たちの方はというと、三分の二ほどが涙を流しながら跪いていた。
その顔を涙で濡らした彼らは、後悔の念を口にしたり、神への謝罪の言葉を述べ続けている。
恐らく、この人たちは真実に向き合い始めているのだろう。
残りは未だに反抗心が残る態度を取っていたものの、常識そのものが揺らいでいることが手に取るようによく分かった。
俺は捕虜たちに向き直って言い放った。
可能な限り多くの人間を虚構から目覚めさせるために。
「もしもエデンへの反抗心が芽生えた方は言って下さい。エルミナ神聖王国に協力していただきます。」
【へブロナ中心部:エルミナ軍司令部】
「コウヘイ君。本官の認識が間違っていたようだ。確かに君の戦闘力は低い。しかし、指揮能力や兵器開発のセンスは素晴らしい。」
「たまたま今回も上手くいっただけですよ、メルビムさん。」
「そんなことはない。さっきまで君のことを舐めてかかって申し訳なかった。」
戦いを終えた俺たち。
俺の活躍と新兵器の圧倒的な威力を見て、メルビムも俺のことを一目置くようになった。
彼だけではない。
その場にいた将校全員が同じ意見のようだ。
「次回からは君に作戦指揮を一任する。もしもの時は本官がフォローするから、安心して職務を全うしてくれ。」
「わかりました、メルビムさん。少し不安ですが全力を尽くします!」
「それと、捕虜に事実を教えてくれてありがとう。上手くいけば情報を引き出せるし、次回以降の戦闘で得た捕虜への説得にも使えるはずだ。」
「一つメルビムさんに相談したいことがあるんですが。今後の戦闘に関してです。」
「言ってみてくれ。」
「次回以降は『非致死性弾』を大規模投入してもいいですか?」
「あまりいい策だとは思えないが、理由を聞かせてもらおう。」
「そろそろ敵が民間人から成る義勇兵を投入してくると思うんです。俺はエデンの民間人を助けたいと思って、行動を起こしました。俺にとっての護るべき対象なので、可能な限り傷つけたくないんです!」
「ずいぶんと甘い考えだ。そんなことをしたら、今度は多くのエルミナ人が犠牲になるよ。」
「もちろんそれは分かっています。ある程度はエデンの民間人が犠牲になるのは、致し方ないと思っています。でも、可能な限り一人でも犠牲者を減らしたいんです!」
俺はただの感情論ではないことを追加した。
それは軍事的な利点を強調するものだった。
「それと、捕虜を上手く説得できれば『こちらの戦力』として吸収できると思うんです。『真実を知らないから容赦なく殺戮を行えている』ので、その大前提を覆せばそれだけで戦闘力を削げます。」
「今の捕虜たちはこちらの戦力として協力するとは思えないな。」
「それは分かっています。ですが、後一押しなんです。『彼らの常識を破壊し尽くす何か』がありさえすれば、自発的にこちらに加わろうとするはずです。」
少しの間沈黙が流れた。
メルビムは考えた末に結論に至ったようだ。
「分かった、君の意見を尊重しよう。上手くいけば両陣営の犠牲が減るし、勝つまでの時間自体も短縮できるからな。ただし、捕虜を取るのは余裕があるときだけだ、いいな。」
「もちろんです。余裕があるときに捕虜を取るという方針で大丈夫です。」
俺との会話を終えて、メルビムは話題を変えた。
彼もシェムハザが気がかりのようだ。
「さて、後はシェムハザ君の方だな。エリシャ君、彼の様子はどうだ?」
「あまり良くはないわ。もっと早くに話を聞いてあげるべきだった......」
「俺もだ。シェムハザさんは相当つらかったと思う。俺たちには敵だけど、彼にとっては仲間だったんだから。それを傷つけさせたせいで......こんな事になった。」
重苦しい空気が流れる中、メルビムが言葉を紡ぐ。
俺たちに寄り添いつつも、自身の仕事を完遂するための言葉だ。
「二人にはシェムハザのケアをお願いする。可能であれば彼を戦力として活用していきたい。酷な話で済まないが、一人でも戦力が必要なんだ。」
メルビムは重苦しい表情で再び口を開いた。
その時の彼の様子は、かつてないほど暗いものだった。
「コウヘイ君、エリシャ君。彼のケアをお願いする。君らの仲間を利用しようとしている本官のことを恨んでくれていい。何としても彼を立ち直らせてくれ。」
メルビムの言葉には、彼の職責と他人を利用する事への自責の念がこもっていた。
とは言っても、メルビムの話を全面的に肯定することはできなかった。
「エリシャ、今度こそシェムハザさんにしっかり向き合おう。」
「もちろんよ。利用するためじゃなくて彼を立ち直らせるためよね?」
「そうだ。俺たちは利用するんじゃない。シェムハザさんの仲間としてできることをやるんだ!」
俺たちはシェムハザの元へと向かった。
彼の心を救うために。
第十五話に続く




