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 外伝 : ルスの精霊国

◆ 成長の先に立つ者


アレハンドロとの迷宮巡りは大詰めに来ていた。

上級の迷宮――四つあるうちの三つめに差し掛かっている。


この頃は魔力の伸びは頭打ちだ。

アレハンドロと鍛え始めてから、もう五年が経つ。

 

ルスの身体は、エルフとは思えないほど逞しく大きく成長した。

もちろん、肉は食べている。

身長百九十センチにもなるルスは、今ではエルフの中でも一番背が高いはずだ。


「ルス、ここは問題ないが、次の迷宮は難関だ。最後の四つめは無理して行かなくても良いんだぞ」


三つめの迷宮を攻略したあと、アレハンドロはそう言った。

だがルスは首を振る。


「ううん、最後までちゃんとやりたい。そうすれば……僕はきっと勝てる!」

「お前、何と戦っているんだ?」

「え、エート……自分……かな」


いよいよ最後の難関、四つめの迷宮だ。

ここにはバレリアも一緒に潜ることになった。


バレリアは今、女性初の戦闘魔導師として注目されている。

大神殿の魔水晶で選別を受け、彼女の頸には赤い魔法陣が刻まれていた。


彼女はアレハンドロに付き、戦闘魔導師見習いとして修行を続けている。


「さあ、行くわよ!」


三人はいつもの配置につく。

つまり、アレハンドロが先頭、ルスがその後ろ、バレリアが最後尾だ。


「ここから一気に走り抜けるぞ。この迷宮はもたもたしていると魔物が無限に増えてくるからな。俺が蹴散らしながら先を行く。討ち漏しは頼んだぞ」

「「はい!」」


◆ 迷宮最深部の願い


第五階層に着くと、今までゴブリンだった魔物がオークに変わった。

二メートルも在る巨体の魔物だ。


この階層は、人型ばかりが出るという。

その性質のせいで、出てくる魔物が総て陣形を組んでくるため厄介だ。


ブモオオーっという豚のような鳴き声だが、かわいらしさやとぼけた感じは全くない。

醜く歪んだ顔つきと、はみ出た牙が恐ろしげだった。


アレハンドロの火魔法で作った『火矢』は、確実にオークの心臓を貫いていく。

ルスも負けじと木魔法で相手の自由を奪い加勢をし、時おりそのまま木の蔦を鋭く突き刺して仕留めた。

今では弓矢は滅多に使わない。

迷宮が広ければ遠くから狙うこともあるが、近接戦が多いこの迷宮には不向きだった。

ルスの木魔法はレベルが上がり、様々な形に変化させることが出来る様になっていた。

討ち漏しはバレリアが、身体強化を使って殴り殺している。


ルスはちょっとだけ、思う。

「女性なのに、殴るの?」

でも、口には出さない。


階を進めば進むほど、魔物が堅く、そして強くなっていく。

十階層の中ボスに着く頃には、時間が掛かかりすぎて魔物の数が増え出し、先に進めなくなっていた。


「よし、このボスを倒したら、一旦異空間で休憩だ。転位陣を敷く」


ルシオからもらった携帯型の転位陣は欠かせない。

迷宮に転位陣を直接刻んでも、いつの間にか消えてしまうからだ。

ルシオさんの携帯型転位陣のお陰で、この上級迷宮を攻略できる者が増えたという。


ルスは、”今日はこれまで”と言われて、ホッとしてしまった。


こんなに厳しい迷宮だと思わなかった。

十一番目の迷宮から比べると倍も厳しく感じる。


迷宮棟にある迷宮は、実は十三基ある。

十三番目の迷宮は、いまだに攻略されていない。

あまりにも難易度が高すぎるせいだ。


アレハンドロでさえ無理だった。


「ルシオとクリステルが加わってくれたら、もしかすると攻略できるかもな。だが、彼奴らは忙しすぎて無理だ……」


悔しそうに言うアレハンドロを見て、ルスは思った。


――僕も無理だ。いけないだろうな。十二番目でこんなに大変なんだ、死ぬかもしれない。


迷宮は、神がつくりたもうたものだそうで、死ぬような怪我を負えば迷宮から排除される。だけど一撃で死んでしまえば、それも無意味だ。


異空間で一日休み、また次の階へ進むため迷宮へ潜る。

上級迷宮は五十階層あるので、単純に計算すれば、五日で終わる。

だけど、そうはいかない。十階層を過ぎれば、その先はゆっくりとした歩みになってしまうからだ。

魔物はトロールや、ハーピーなどがまとめて出てきて、上からも攻撃されるため大変だ。


少しだけ怪我をする回数が増えてくる。

迷宮を攻略し始めて二十日目。とうとう最後だ。


この迷宮には珍しく、広く取られた空間にオーガが五体、陣取っていた。


「こいつらも増えるからな、一時間以内で倒さないと倍になる」


「ええーーーっ」


巨大なオーガ。角があり、上半身が異様なほど発達し、腕は丸太のようだ。

しかもオーガは立派な防具や武器まで身につけている。


――こんなの、どうやって倒せばいいんだ?


「まあ、何度も遣っ付けたから、俺に任せろ」


アレハンドロから雷が放たれる。

その次には土の槍が下から突き抜け、オーガの足を縫い止めた。

最後にメラメラとした火の壁がオーガを取り巻いた。


「さあ、おまえら、攻撃していいぞ遣っ付けろ!」


「ちょ、ちょっと! アレハンドロ! これじゃあ倒せないわ。火を消して!」

「あ、そうだった。わりぃ、わりぃ」


身動きができない、生焼けのオーガを次々と屠っていく。

アレハンドロは剣を取り出し頸を一撃で断った。


オーガを倒した後に広い空間の奥に扉が現れた。


「おい、ルス。今のうちに精霊水をたっぷり飲んでおけ。この先はお前の出番だ」


扉を抜けると、また広い空間があり、中心に塔が立っていた。


「ここでは、戦う必要はない。変な奴が出てくるが、そいつの言う通りにしろ。分かったか、ルス」


ルスは最後を任され、緊張した。

ゴクリとつばを飲み込むが、口が渇いてうまくいかない。

もう一度精霊水を飲んで喉を潤し、一歩を踏み出した。


塔の中には、ローブを着て顔が隠された魔導師のような魔物がいた。


【われは、神に作られし傀儡である。されど、其方との意思の疎通はできておる。其方の最高の魔法を見せてみよ。然らば願いを叶えようぞ】


ルスはアレハンドロに促され、一歩前に出て、今自分にできる最高の木魔法を放った。

太い根がみるみる伸び、魔物を取り囲んでいく。巨大な根と蔦が絡まり魔物は取り囲まれ、完全に見えなくなった。

その後、めきめき、みしりときしむ音が響き、木の根は自ら爆ぜるように爆散し、辺りには木の破片が飛び散った。


バレリアとアレハンドロは、呆然としている。

魔導師がいた場所には一つだけ木箱が置かれていた。


「何故一つだけなの?」

「俺達は以前にも攻略して願いが叶っている。願いは一度だけ叶えられるんだ。さあ何か願って箱を開けて見ろ」


ルスは、目を閉じた。そして願った。

――皆を守れる様に強くなりたい。


こうして迷宮攻略は終わった。


◆ 願いの行方


ルスは、自分のアルマが十分成長したと確信していた。

今、クリステルの異空間にある、精霊樹の前に佇み、アルマを流す。


これは精霊樹に実をつけさせるための祈りの儀式だ。

二年は最低かかると聞いている。

エルフは、精霊樹から生れる。その時も同じようにアルマを流すが、これとは違う。


祈りは――「飛び地を作りたい」だ。

子孫を増やすという願いとは別だから、実も違うものが出来上がるはずだ。


「初めてだから……上手くいくかな」


側ではクリステルが静かに見守っていた。

ルスの邪魔にならないよう、息を殺して見つめている気配がする。


――何となくやりにくいなぁ。長くかかるから、すぐに飽きるだろうけど……


それからは、毎日アルマを流すのが日課となった。

午前中はアルマが半分になるまで延々と流し続ける。

くたくたになって、森の泉に湧き出す精霊水をがぶがぶと飲んでアルマを補充する。


午後は、異空間を出て、クリステルの手伝いをする。

ルシオが新たに作ってくれた、”認識変化”のコンタクトをつけているから、ルスのことをエルフだと気付かれることはなかった。


ルスは、別にバレても構わないと思うようになっていた。

確かに人族の中には魔導師であっても怪しげな者はいる。

でも力が付いた今、恐れはそれほどなくなった。


ここシュバリスには、鬼人という種族も住んでいる。

鬼人は見た目こそオークのようだが、優しい人々だ。

クリステルによれば、元は人族だったが、穢れた肉を食べてこうなってしまったのだという。

可哀想だなと思う。

けれど今、それを”元に戻す”研究をソフィアが進めているらしい。

ただ穢れを取るだけだと姿は変わらずに、身体は人族の力しか持てなくなるという。


「すごく面倒な研究なんだね」

「そうね、でも、彼らはとてもいい人たちでしょう。だから力になってあげたいのよ」


ソフィアは、優しい。

学校の校長を自ら退職して、今は鬼人のために尽力しているのだという。


※  ※  ※


ソフィアが学校を退職したのを機に、ルシオも臨時講師を辞めた。

テセロはもうすぐ十歳になる。

そろそろ、魔法の勉強に本腰を入れる時期だ。


基本魔法文字や、簡単な魔力操作は出来ている。

これからは、魔法理論をしっかり教えていこうと考えている。


今はソフィアと一緒になってソフィアの異空間で何やらやっているらしい。

だが、ルシオには教えてもらえない。


「何故、内緒にする必要がある?」


なんでも一緒にしたいと思うルシオには、少し寂しい。

テセロは大きくなるにつれ、子どもらしい仕草が薄れ、

手が離れていくのを感じる。そのたびに淋しさが募っていく。


「まあ、いいさ……」


ルシオは転移で大地溝の洞窟へと降り立った。

この奥にエルフの異空間への入り口がある。

タバが管理する、精霊国の”飛び地”だ。

時々ここを訪れている。

ここにはロボがいて、エルフの危険を排除してくれていたが、そろそろ役目を終えてもいいのではないか、とルシオは思い始めていた。


ロボを連れ戻そうかと考えてはいるが、ロボはここに留まりたいのではないか。

今ルシオの異空間は海に浮かぶ島しか残っていない。

ロボにとっては、あまりにも窮屈だろう。

バーリョとその番は寿命を全うしてもういない。


ここにずっと居たいかどうか、ロボに確かめよう――

ルシオはそう決めて、異空間の入り口を通り抜けた。


エルフの里は、木の根が複雑に絡まり合った高く堅固な柵に覆われている。

その中に足を踏み入れた途端、見たくない顔が目に入った。

アダ王だ。


おっとりとして、人の良さそうな王――

だが、実際には油断がならないエルフである。


過去の数々の不快な記憶が、ルシオの頭の中でくるくると巡った。


彼は、自分がどれほどルシオの気持ちを逆撫でするのか、

まるで気に病まない”鈍感さ”の持ち主だ。


ここに来れば顔を合わせる可能性は確かにあった。

だが、これまで一度も遭遇することがなかった。


アダ王は和やかに挨拶をし、


「待っていたのだよ、ルシオさん。精霊樹の実が出来上ったのでな。そなたにまた食べてもらおうと思って持参した」

そう切出した。


「僕の異空間はもう先約がいます。その実は受け取れません」

「……! なんと、約束を違えるというのか。エルフの飛び地として与えると其方、言うたではないか!」

「ええ、言いました。エルフにやることは間違いないです」

「……どこにおるというのだ。他に生き残りでも見つかった……そうなのか?」

「いえ、ルスにやると、僕が決めました。ですから約束は守っています。安心して下さい」

 

ルシオの固い決意を悟ったアダ王は憮然とした表情のまま、精霊樹へと歩み寄り、そのまま妖精の道を通って消えてしまった。


ルシオは妙に軽い気持ちになり、ロボを呼ぶ。

「ロボ、お前ここに居たいか?」


ロボとルシオはしばらくの間見つめ合った。ロボはルシオにすり寄り、

その後、さよならを言うように一声吠えて走り去った。

ロボの側には数頭の狼が追走していた。


「やはりな、ここはロボの縄張りでもあるんだな」

ルシオは静かに呟き、エルフの里を後にした。


◆ 揺らぐ継承


アダ王は、このところ拠点としている――

ルシオが最初に定着してくれた地の民の国スブムンドの飛び地へと移動していた。


この場所の他には新しい大地溝の飛び地と、獣人族の村の奥に、先祖か作った飛び地がある。

先祖から受け継いだ飛び地は狭く、アルマも少なく、今にも消えそうになっていた。

その困窮した時期に、ルシオが魔水晶を与えたお陰で持ち直したという経緯があった。


アダ王はまだまだルシオに異空間を造ってもらいたかった。

自分たちでは、あのように広く、アルマの行き渡った飛び地を作る事は難しい。

まして、ルシオのように自由に世界を飛び回り、

アルマの豊富な定着場所を見つけることなど、到底不可能だった。


「ボゴ。其方に与える予定だった飛び地が、ルスに横取りされたようだ」

「ルス? あのみそっかすの……?」

「ああ、そのみそっかすだ。哀れに思ってクリステル殿の異空間を与えたが……身の程知らずにもう一つ要求したようだの。ルシオの懐に入るのがうまかったようだ……」


ボゴとアダ王は一計を案じた。

そして、ここの異空間に常駐している魔導師に相談を持ちかけた。


ここにいる魔導師は、かつてルシオと共に地の民を発見したサムエルだ。

迷宮島の調査が終わりしばらく静かに研究に専念したいと申し出て、このエルフの飛び地に滞在していた錬金魔導師だ。

彼のパートナーと一緒に、穏やかな毎日を送っていた。


アダ王は温厚で、余計な口出しをしない。

地の民は、希少な鉱物を提供してくれる。

サムエルの研究場所として理想的な環境だった。


今回相談を持ちかけられて、二つ返事で受けた。

久し振りに尊敬するルシオ魔道師に会える――

喜び勇んでルシオに連絡をいれ、転移の許可をもらったのだった。


◆ 迫る影


「ほほう、アルマで決着をつけると、アダ王は仰ったのか?」

「……は、はい」

サムエルは、なぜか眉間にしわを寄せたルシオ魔道師から剣呑な気配を感じ取ってしまい、戸惑っていた。

――私が、いけないことを言ったのだろうか。

そう思うと不安が押し寄せ、サムエルはとオロオロし視線を泳がせた。


「いいだろう、時と場所はこちらで決めさせてもらう。そうだな、広い場所でなければ危険だ。ああ、そうだタバの飛び地にしようか、サムエル」

ルシオは一度そこで言葉を切り、フッと冷たい笑みを浮かべた。

「いや、あそこには危険な獣がうようよいる。虚弱なエルフどもには耐えられまい……スブムンドへ、こちらから出向く。三日後だ! 今すぐにアダ王に、そう伝えてくれ!」


「は、はいいいーー!」

ルシオの剣幕に押され、サムエルは脱兎の如く飛びだ出していった。


◆ 力の証明


「僕が、アルマ対決をすれば、この異空間がもらえる……そう言うことですか?」

不安そうな表情でルスはルシオを見る。

「そう言うことだ」

ルシオは悪い笑みを浮かべ、クリステルと目配せをする。

「ふっ、ルス。戦いではないから心配するな。見せつけてやればいいだけだ。誰も傷つかないいい方法だと思う。なあ、ルシオ」

「ああ、アダ王にしては上出来な提案だ」


エルフの間では、この話が持ち上がり大変な騒ぎになっていた。

今まで戦いの類いは見たこともなかったエルフ達は、一体どのようなものなのかと半信半疑になりながらも興味を示している。


その舞台となる、スブムンドの飛び地には、精霊国の他の飛び地からも続々とエルフや妖精たちが集まってきた。


普段、こんなに人が一所に集結することがなかったため、宿屋や食堂はてんやわんやの大騒ぎとなってしまった。


地の民からも助けてもらいながら、食糧の調達をして忙しいながらも、この先の戦いにワクワクが止まらない。


宿泊施設も足りず、野宿をする者たちが森の中で毎晩騒いで、決着の行方をああでもない、こうでもないと予想していた。


エルフの、所謂王族は五人しかいない。

精霊樹に祈り、王がアルマを流して生まれるのだ。数百年に一人、生まれるかどうかと言う王族。


ルスはその中でも一番年若い王族だった。

ルスの上には四人の兄がいて、一人は先祖代々の飛び地を任され、次の兄はズブムンドの飛び地。

もう一人は大地溝にある飛び地だ。


クリステルの異空間の管理を任せられて、最後の異空間は三番目の兄ボゴが管理をする予定だったのだ。

それが今、ルスが二つとも任せられるかも知れないという不公平さに、ボゴ兄から白い目で見られているだろう。


ルシオとクリステルは見届け人としてここに来ている。

ルスは二人の後ろからついて歩いているが、エルフ達は、誰もルスだとは分からないようだ。


皆、ルスより頭一つ分背が低い。

「こんなに皆、背が低かったかな?」



アダ王は、ルシオたちがこちらに歩いてくるのを見て――

やはりルスは逃げたか……。

そう思った。


この飛び地に来たのは、ルシオとクリステル、そしてその護衛と三人だけ。

ルスがここにいないという事実は、アダ王にこれからの飛び地の行方が確実に決まったという確信と、ルスに対する少しだけの落胆を同時にもたらした。


「やあ、ルシオさん。クリステル殿。せっかく皆が心待ちにしていた対決が、なくなってしまった。悲しいことだが……まあ、身の程知らずが起こした不和だ。我が王族の、恥かきっ子のことを大目に見てくれたまえ」


「……」

ルスは、目の前にいるアダ王が何を言っているのか理解できなかった。


「父上、お久しぶりです」


「……!!!」

アダ王は、この大柄な護衛に父上と呼ばれ驚くが、その後激変したルスだと知り言葉が出てこない。



アルマ対決が始まった。

広く均された荒野の中央に、十メートルほどの円形の舞台が設けられていた。


その周囲を、三千人を超える妖精や獣人たちが取り囲み、

固唾をのんで見守っていた。


「これより、双方は一度ずつ――己が最も得意とする魔法を、最大の出力で放つものとする!」


このスブムンドの飛び地を任されている、次兄エルフ、ドト王が開始を告げた。


まず、ボゴが堂々と進み出る。


円形の台の下でアルマを練りあげると、

美しく繊細な城がゆっくりと形作られていく。

出来上がったのは、エルフ達が住処にしている白い雅な宮殿だった。


見物人たちは「オオーーっ」と歓声を上げた。

この白い城は、アルマだけで練り上げられたものだった。

普段のエルフが作る城は木を変化させて造るため、アルマだけで作るというのは至難の業だ。


ボゴは、額に脂汗を滲ませ苦しそうにしている。

彼が力を抜くと、城は瞬く間に消えてしまった。


ボゴは介添えたちに支えられて舞台の袖へ下がり、精霊水を飲んでアルマを整えた。

ボゴの視線には「どうだ」と言わんばかりの無言の圧が宿っていた。


ルスは静かに歩み出て、おもむろに手をかざし、

舞台に先ほどと同じような白い城を作り上げた。

しかし城は、ボゴの造り上げた城よりも大きく、さらに成長していく。

とうとう舞台を巻き込み、あふれ出てしまった。


人々は声を失い、辺りは水を打ったように静まり返った。


「結果は一目瞭然。僕の異空間の管理者はルスに決定だね」

ルシオたちはその場から素早く離れ、転移で帰ってしまった。


ルスの作り上げた城は、

その後暫くの間、形を残したままそびえ立っていた。


◆ ルスの木の実


「はあ、ドキドキした」

「は、は、上手くいって良かったな、ルス」

今ルシオたちはクリステルの異空間へ来ていた。


ルスが、精霊樹が不思議な反応をしていると心配していたので、確認に来たのだ。


クリステルの異空間には、奥に森のある部屋がある。

その森は清浄な空気に溢れ、神の息吹が漂う場所だった。


魔素を含んだ水が湧き出る小さな泉の辺に精霊樹は植えられている。

初めは三十センチほどだった精霊樹。

今では大木となって聳え、森の中心を占領していた。


その木には、鈴なりに実が生っていた。


「え、これは、あの酸っぱい実?」

「よく分からないんだけど……多分これは妖精たちやエルフが生まれる実、なんだと思う……」


「へえ、こうやって生まれるのか……」

「僕が祈ったのは、異空間を定着させるための実なんだけど……」

「それは、できなかったの?」


「ううん、できている。もうもぎ取らないと腐るかも」


ルシオは、ルスから腐りかけだという木の実を受け取り、

ルシオの異空間へルスと共に転移した。



酸っぱいだろうと予想していた木の実を口に入れたルシオは、

口いっぱいに広がる甘さに驚いた。


種を吐き出してルスに手渡す。


ルスはその種をルシオの異空間の森へ持ち込み

泉の辺に植え、アルマを流した。


精霊樹は、みるみる大きく育ち、また実が鈴なりに生った。


「どうして、こうなった……?」

そばで見ていたルシオは怪訝なルスの反応を見て、


「君のアルマが、桁違い、ということさ」


変化はそれだけではなかった。

ルシオが住処としている島が、精霊樹の成長と共に大きく成長し始めたのだ。


ルシオは、

「神様、手を出していないよね!」

【それは、どうかな……】




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