第十九話 三人の友人と二人の???
六月も初頭の某日。少し曇った空の下に三人の男子が歩いていた。
「なぁなぁなぁ、お菓子ってこれでいいかな?」
「……別に持ってかなくてもいいんじゃないの。優太朗は要らないって言ってたし……カフェだろ。」
「でも頼りきりじゃダメだろ!」
「……まぁ、確かに。でもいいでしょ。普通のお菓子結構買ったし。」
そう言って開いたビニール袋の中には、途中のドラッグストアで買ったお菓子たちが詰まっていた。
「……えっと……ここを、左ー? だっけー?」
「……右だよ。なんで叶采は二分の一を外すの。」
「えー? 知らなーい。」
呑気な三人組は昼下がりの道を歩き、目的地のカフェを目指す。
そう、明、叶采、前嗣の三人だ。
今日は彩葉たちとの会合の日。
どこがいいかと話し合った結果、『BRANCH』が一番集まりやすいということになり、三人はそこに向かっている。
休日でも営業はしているので他の客もいる中での会合になってしまうが、優太朗曰くカフェの中で少し話しているくらいなら別に迷惑にはならないだろうとのことだ。
「……あと少しで着く。もう見えるよ。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「……それで、髙木くんはどうしてその……お友達さん?にわたしを会わせたいんですか?」
「いや、俺が会わせたかったわけじゃないんですけど……その友達が会いたいって言ってたので。」
「それはなんでですか?」
「えっ? ……えっと……わかんないですけど……」
一方、『図書喫茶BRANCH』では優太朗と二人の女子が向かい合って話している。
予定した時間よりも少し早く来た二人は、一足早く席についていた。
「……ふふっ、やっぱり髙木くんは面白いですね。」
「お、面白い、ですか? まぁでも、本人たちが来たらどっちにしろわかると思います。」
「そうですね。……栞。大丈夫? まだちょっと、髙木くんは怖い?」
「い、いや……怖くはないんだけど……ちょっと、緊張して……」
愛染さんが緊張しているのは仕方ないことだろう。
彼女は男子も女子も嫌いだと言ったが、だとすれば人見知りのような一面もあって然るべきだ。
「……愛染さん。大丈夫です。俺の友達は……いいやつばっかりですから。」
「……は、はい。がんばります……」
「いや、頑張らなくてもいいとは思いますけどね?」
俺はそう言って小さく笑う。
少しの気遣いを確かに込めてはいたが、それ以上に本心からそう思っていた。
明や叶采はもちろんのこと、前嗣だって思っていたよりもずっと普通で、ずっといい奴だ。
なればこそ、俺が怖気付く必要はないと思った。前嗣が会いたいと言ったのだし、明や叶采だって賛成だったのだから尚更だ。
「そういえば、お二人はテストは大丈夫でしたか?」
「……私は、普段よりちょっと悪かったかなぁ……なんて。」
「そうなの? ごめんね、わたしのせいで。」
「ち、違うから……!」
愛染さんは焦って花月さんの方を見た。
しかしそれに反して、花月さんは少し悪戯に笑う。
やはりこの二人の仲の良さは微笑ましい。
そうして話を続けていると、チリンチリンとドアベルが鳴り響く。
「……あ、あれ……! いたいた……!」
入り口付近で小さな声と共にこちらを指差す男が一人。その後ろにはもう二人の男がいた。
「優太朗ー……!」
「別にそんなに小声にしなくてもいいよ。今はお客さんも殆どいないし。」
「あ、そう? じゃあちょっとやめるわ。」
明はビニール袋を手に持ったまま、こちらの席に近づいてきた。
後ろからは前嗣と叶采もこちらに向かってくる。
「あ、花月さん。久しぶり!」
「はい! 久しぶりです!」
「……明、知り合いだったの?」
「うん。同じ図書委員仲間。まぁ、こないだ優太朗といた時に初めて話したくらいだけど!」
「へー、そうなんだー。」
優太朗は立ち上がり、三人を席に誘導した。
そうして向かいの、彩葉の隣に腰かけようとした瞬間、叶采の声が響いた。
「あー、女子Bさんだー。」
「……今気づいたの?」
「やっぱそうかー! 何かこないだ優太朗と話してる背の高い人、なんか見覚えあるなーって思ってたんだよなー!」
愛染さんは少し顔を伏せ、テーブルの隅の辺りを見ながら小さく口を開く。
「あ……は、はい。……そ、そうです。」
「栞? 知り合いなの?」
「……えっと……その……彩葉と髙木君が話しているのを覗きに来た時に、偶々会った人、みたいな……」
「そうなんだ! よろしくお願いします!」
花月さんは事情を聞くなり明るい笑顔でそう言った。
こういう人当たりの良さが彼女の長所の最たるものだろう。
まぁ、それ故に愛染さんは少し神経質になりすぎてしまったのだが。
「……まぁ、お前らが愛染さんと知り合いなのはいいんだけど……『女子Bさん』って何?」
叶采は少し目を丸くし、明と前嗣、そして愛染さんの顔を見てニコッと笑った。
「あははー。何だろーね。内緒ー。」
気にならないと言えば嘘になるが、叶采の笑顔を見る限り決して悪い意味じゃないのだろう。
「……まぁいいけど……花月さん、隣失礼します。」
「はい、もちろんです!」
俺はそっと彼女の隣に腰かける。
これでしっかりと三対三になった。
しかしこの場にいる全員と友達である俺が、何とかこの場を仕切らなければならないと気張ってしまった。
「……ということで……まずは自己紹介から……?」
「あはは! 何それ、合コンみたい!」
「ごっ……いや、変じゃないだろ別に!」
明は笑って俺を揶揄ってきたが、花月さんも笑っているし場を和ませるのには程よい冗談だったのかもしれない。
……いや、明なら冗談じゃなくて本気で言ったんだろうな。
「と、とりあえず、自己紹介から。……俺からでいい?」
「うん! いいんじゃね? 一応この場の全員と完全に知り合いなのは優太朗だけだし!」
「……えっと……みんな知ってると思うけど、髙木 優太朗、です。」
シーンと静かな空間が広がる。
花月さんはこちらを微笑みなが見上げ、愛染さんは少し緊張した様子だ。前嗣はジーッとただこちらを見て、明は目をぱちくりとし、叶采は普段通りニコニコだ。
「……え!? 終わり!?」
「えっ、終わりじゃないの!?」
「いや、もっと色々あるだろ喋ること!」
そうは言われても自己紹介なのだから名前を言えばそれで終わりではないのだろうか。
いや確かに学校の自己紹介などでも趣味とか一言とか言うけれども。
「……じゃあ、俺からやるから見とけよ! 代わりに優太朗は後で!」
明はそう言って立ち上がる。
「俺は二年六組の東谷 明! 呼び方はなんでもいいよ、明でも東谷でも。花月さんと同じ図書委員! 好きなものは遊び。嫌いなものは勉強。よろしく!」
まぁ、流石といったところだ。
明ならではの陽気さは、女子二人にもよく響いたようだ。この自己紹介だけで明がいい人間だとわかるだろう。
「じゃあ、次は前嗣!」
そう言って明は隣の前嗣を指差す。
「……はいはい。……小倉 前嗣。同じ二年六組。……好きなものとか嫌いなものは特に無い。……呼び方も、何でもいい。……よろしく。」
「前嗣! 元気出せよ!」
「そーだよー。何とかなるってー。」
「……そういう意味の『元気出せよ』じゃないでしょ。」
この三人はいつも通りといった感じだ。安心感すらある。
チラリと花月さんたちの方を見ると、二人とも彼らの名前を覚えようとしているようだった。
しかしそのうえで、愛染さんはやはり少し緊張しているように見える。
愛染さんの緊張を解きたいと思ったが、俺にそんな器用な真似ができるわけもなく。この後の流れに任せるしかない自分が少し情けない。
「……叶采。」
「はーい。オレは赤松 叶采、十六歳ー。おんなじ二年六組ー。文化祭実行委員だから、何かしたいことあったら言って。ワンチャンくらいならあるかもー。好きなのは寝ることで、嫌いなのは勉強ー。よろしくねー。」
一方、叶采の自己紹介からは全く緊張感が感じられなかった。
常々思うのだが、叶采の辞書に緊張という言葉はあるのだろうか。個人的には前嗣や明よりも緊張と縁遠く思える。
あるのだとしたらその様子を一度見てみたい。
「次はー? 誰にするー?」
「うーん……誰でもいいけどな!」
明は腕を組んで少し考えるような顔をした。
すると、横から前嗣が口を出した。
「……女子でいいんじゃない。花月さんとか。」
「……あ、俺最後!? まぁいいけど……」
俺は見逃さなかった。花月さんに順を振る直前に、前嗣が愛染さんの方をチラリと横目で見たのを。
愛染さんの緊張した様子を見て、トリにならないように。そして前に花月さんを置くことによってさらにやりやすくする。
彼のこういうところを本当に尊敬する。
周りをよく見て、無遠慮そうに慮る姿。
配慮された方にも申し訳なさを感じさせない助け方。
俺も、これくらい器用にできたならと思ってしまう。
「じゃあ、次はわたしでいいですか?」
彼女の軽やかな声が微笑みと共に脳に届く。
毎回、特に間を開けているわけでもないのに懐かしいと、久しぶりだと感じるのはどうしてなのだろう。
「わたしは、花月 彩葉です。お花に月に、彩る葉っぱです! クラスは二年二組。東谷くんと同じ図書委員です。好きなものは読書で、このお店にはよくお世話になってます。よろしくお願いします!」
相も変わらず可愛らしい。
聞けば聞くほど愛染さんが心配する理由もよくわかる。
「ここの常連なんだよね! 二人はこのカフェで知り合ったの?」
既に知り合っている明が普通の友達のように話しかけた。
こういう奴がいると本当に助かる。
ただ、今回のこの質問は少し答えに困る。
「えーっと……」
花月さんもこちらをチラッと見て言葉に詰まっているようだった。
「……まぁ、そうと言えばそうだし、そうじゃないと言えばそうみたいな……?」
「なにそれー、変なのー。」
「……まぁ、色々あるんでしょ。……言えないことが。」
何だか少し棘を感じるが、言えないというのは言い過ぎだ。
「いや言えないわけじゃないんだけど……えっと……花月さん……?」
彼女の方を見て判断を仰ぐように首を傾げる。
「……はい! 大丈夫ですよ!」
流石の花月さん。何も言っていないのに俺の聞きたいことを理解してくれたようだ。
「……んー、こないだの……俺が包帯巻いてた時。覚えてる? ……あのときに助けた女の子が……花月さん。」
「……なるほどね。なんでそんなに仲良いのかと思ってたけど、納得した。」
「へー!」
これを打ち明けたのは初めてだ。
確かによく考えてみれば、どうして仲良くなったのかも分からないのでは不思議で仕方ないだろう。
「ちょっと待てよ! それ俺も知らないんだけど!?」
「え……あ、明にも言ってなかったっけ……?」
「常連ってことしか聞いてない!!」
「あー……ご、ごめん。」
てっきり最初に学校で花月さんと会ったときに話したと思っていたが、あの時は『BRANCH』の常連として紹介した気もする。
何にせよやはり、俺は色々と隠しすぎていた。
「……じゃあ、次! Bさん!」
すっかり進行役を明に取られ、俺はその座を譲った。
「……えっと、私は……」
だがやはり、愛染さんは少し緊張しているようだ。
チラリと、テーブルの下で花月さんが彼女の手を握っているのが見えた。
「……わ、私は、愛染 栞です……。クラスは、二年四組で、元少林寺拳法部です。」
「えっ、少林寺!? かっこよ!!」
「え……あ、ありがとうございます……」
明の無邪気さがとてもありがたいと思った。
今日、この友達紹介に参加するというのは愛染さん自身が決めたらしいのだが、気まずくなったりしたらどうしようかとずっと心配だった。
いくら花月さんがいるとはいえ、人が苦手な彼女が上手く彼らと接することができるのか。
今でも心配だ。
心配は心配なのだが、少しだけその心配が和らいだ。
明のおかげ、と言ったら変かもしれない。
けれど、確かに愛染さんの顔が綻んだのを感じたから。
「ちなみにー、愛染さんは花月さんと友達なのー?」
叶采のそんな質問に、少しマズいと思ったのは隠しようが無い。
愛染さんのしたこと、そして何より、彼女が彼女自身をどう思ってるのか。それらを考えればどう答えるのか困っているのは分かってしまう。
「……えっと……」
「幼馴染です! 小学生の頃からの!」
花月さんが遮るようにそう言った。
その顔は笑顔。
しかしその奥の愛染さんの顔は、なんとも言えないものであった。
「へー! 俺と前嗣と一緒じゃん!」
「はい! ずっと仲良──」
「……ち、違います……!」
全員の視線が愛染さんの方に向く。
彼女の細く、しかし奥にはっきりとしたものが感じられる声が、花月さんの声を遮った。
「……私は……彩葉の……」
そこまで言ったが、彼女の声は止まる。
不思議なことはない。
愛染さんの言いたいことはよくわかる。しかし、そんなことを簡単に言えるわけがない。
もし俺が同じ立場だとしても言葉に詰まってしまうことだろう。
共感はできる。
だからと言って俺にはどう助け舟を出せばいいのか全くわからない。
なぜかこちらまで戸惑っていると、前嗣が口を開いた。
「……別に無理に言わなくていいでしょ。まぁ、なんかあるのは分かったから。……ほら、優太朗。」
「えっ、俺!?」
「いや、当たり前でしょ。あと自己紹介してないの優太朗だけだし。」
「あ……そういうこと。」
少し戸惑ってしまったが、前嗣の気遣いに感謝するほかない。
「……ごめんなさい。ありがとうございます……」
「いえ、謝る必要ないです。……じゃあ、俺の自己紹介を……!」
正直こんな雰囲気の中で自己紹介なんてしたくもないが、前嗣が出してくれた助け舟を無視できるわけもない。
それに、花月さんの元気が少し無くなってきているように感じた。
「俺は、髙木 優太朗です。……まぁ、全員知ってると思うけど二年六組で、親がこのカフェをやってます。」
短い沈黙を破るように、明が拍手をしてくれた。
叶采はそれに続き、次に花月さんも微笑んで拍手をする。
「なんで俺のときだけ……」
「いやー、トリだし! ここ、優太朗の家みたいなものだしね!」
「まぁ、みたいなものっていうか普通に家だけど……」
ほんの少しだけ照れくさいような感覚を感じながら腰を下ろす。
「……さて、これで自己紹介は全員終わったね。……それで、次は何話すの。」
前嗣はそう言って明の方を見る。
彼の中でも進行役は明に移ってしまってしまっているらしい。
「んー? 話題とか分かんねーよ! ていうか、こういうのはバカに振るもんじゃないだろ!」
「……いや、こういうのはバカの方が得意でしょ。」
「あははー。だったらオレが一番得意だー。」
三人はいつものようにくだらないことを言い始めてしまった。
しかし、明が突然こちらに視線を向けてきた。
「そういえば、皆んなはこないだのテストどうだった!?」
「えっ、テストの話題!?」
俺は驚いて、つい少し大きな声を出してしまう。
「わたしはいつも通りでした!」
「わ、私は……少し悪かった、かもしれません……」
二人とも律儀に答えてしまったので、俺に止められるわけもなく。
しかしまぁ、高校生の話題としては別におかしくもない。
「俺は二六八位だった!」
「……いやそんな自信満々に言うような順位じゃないでしょ。ていうか、言いたくない人もいるんじゃないの?」
前嗣は全員の顔を見て、尋ねるように少しだけ首を傾げた。
しかし──
「オレはいいよー。」
「まぁ、俺もいいかな。」
「わたしも大丈夫です!」
「……わ、私も別に隠す気はないです……」
と、まさかの全員がそんなに嫌がっていなかったという結果に終わった。
「……まぁ、俺も別に嫌じゃないけど……じゃあ、優太朗から反時計回りで。」
「お、俺から?」
前嗣が俺を指名したので、仕方なく記憶を探る。
愛染さんの諸々などもあって勉強が足りていなかったので普段よりは少しだけ低かったが、公表が難しいような順位でも無い。
「えっと……一六二位、かな?多分。」
「へー、優太朗にしてはちょっと低いな!」
「そ、そう? 平均の範疇な気がするけど……」
一年の頃から大体このくらいの順位をキープしている。
一度だけ外れ値も存在したのだが、やはり基本はこの辺りだ。
「ちょうど半分くらいですね!」
「……そ、そうなんですか?」
花月さんが隣からそう言ってきて、俺は少し戸惑ってしまった。
「一クラス約四十人×八クラスなんで、学年全体で大体三百二十人くらいですから。多分転校しちゃった人とかもいますけど。」
言われてみればそうだ。俺は本当に普通と言ったところなのだろう。
「オレは二九四位ーー。」
「「ひっく!」」
俺と明の言葉が綺麗にハモる。
二人して驚いてはいるが、叶采の順位はいつもこんな感じだ。
彼はどうして真堂高校に入れたのかのかも分からないくらいに頭が悪い。
授業態度は明よりはいい気がするのだが、テスト前に殆ど勉強をしていないのだろう。
というか明は人のこと言えるような順位じゃない気がするが。
「前嗣はー?」
「……俺は十四位。」
「「「たっか!!」」」
今度は叶采も参加してハモった。
「……まぁ、普通って感じでしょ。」
「いや普通なわけあるか!! 俺じゃどれだけ頑張っても無理だわそんな順位!」
俺は明が本気で最初から勉強すればいけないことは無いだろうと思うのだが、本人からするとそんなこともないらしい。
「小倉くんは、いつもそれくらいなんですか?」
「……いや、俺もいつもよりちょっと低い。」
花月さんは笑顔を絶やさず相槌を打っている。
確かに前嗣にしては少し低いだろうか。普段の彼ならば一桁くらいが普通だ。高い時で確か五位、低い時でも十位くらいだった記憶がある。
きっと、俺や明の諸々を気にしていてくれたのだろう。
「俺はさっき言ったからいいな! 二六八位!」
「……何回聞いても低いな……」
「いいだろ別に!! じゃあ、次は愛染さん!」
そう言って皆の視線が愛染さんに向く。
俺は少し心配だったが、彼女も彼女で向き合おうと頑張っているのを感じた。
「わ、私は……今回は三十五位でした……! 普段よりはちょっと低いと、思います……」
「いや高っ!! 男子組ボロボロじゃんか!! 花月さんは!?」
「ふふ、わたしは二位でした。」
「「二位ー!?!?」」
明と叶采が心底から驚いたように大声を出し、俺と花月さんと前嗣が人差し指を口の前で立てた。
俺は既に、花月さんが二位をキープしようと頑張っているということを知っていたから驚かないが、普通に聞けば二位なんて遠すぎて驚く。
県内でもそこそこレベルの高いあの高校で二位。
本来なら俺や明や叶采とは接することもないほどの差がある。
というか今回も二位だったのか。シンプルに凄いと尊敬する。
「二位って……何位だ?」
「えー……たぶんすっごい高いよー。」
明と叶采はあまりに現実からかけ離れた順位に頭がおかしくなってしまっている。
まぁでも、この二人はどちらも下の方だから理解できるが。
「……まぁ、それにしても二位は凄い。……いつもそれくらいなの?」
いつも通り落ち着いているとはいえ、前嗣も少し興味はありそうだ。
「はい! 二年生になってからはずっと二位です! まぁ……一位は月がいますから。」
「……凄い。明と叶采も見習いなよ。」
「見習ったところで二位なんて取れるか!!」
やはり予想していた通り、花月さんは男子三人とも普通に打ち解けている。
何なら俺と話しているときよりもずっとスムーズな感じがして少しモヤモヤした。
しかし、本当に心配だった方は解決していない。
愛染さんは頑張っている。俺が見てもわかる。
彼女は俯いていなかった。
その顔をテーブルの中心あたりに向け、できる限り皆んなの話に混ざろうとしているのだろう。
だがあまり口を開かない。
仕方のないことではあるのだが、どうせなら愛染さんとも仲良くなってほしい。
ゆっくりでもいいから。
「そうだ! 俺たちお菓子持って来たんだった! 皆んなで食べよーぜ!」
明がそう言ってビニール袋を持ち上げた。
全ては見えないが、その中には大量の菓子袋が入っているのがわかる。
「……うちでも何か出そうか? ケーキとか……あ、まだお前らの飲み物出してなかったな。」
「いいの!? 俺、ミルクティー!!」
「オレもー。」
「……俺はコーヒーで。食べ物はいいよ。どうせこのお菓子で十分。」
「オッケー。ちょっと待ってて。」
そう言って俺が席を立とうとしたその時。
「あ、あの……! ま、待ってください……!」
確かなか細さと、小さな勇気を含んだ声が聞こえた。
全員が、愛染さんの方を向く。
「……栞?」
花月さんも首を傾げ、少し心配そうに彼女の顔を見ていた。
「……彩葉、髙木君。……やっぱり、話そうと思います。こないだのこと。」
「えっ……?」
俺は思わず困惑を音にしてしまった。
彼女が話そうと思っている事は、分かる。
しかし、何故?
何故話そうと思うのか。
絶対に黙っていたほうが彼女にとっては利となるだろう。少なくともこの場においては。
小さな沈黙が流れる。
花月さんも何も言わない。
ただその場の全員が、彼女の次の言葉を待っていた。




