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第十一話 人の悪意

 どうしてこんなことになったんだろう、なんて思わない。

 いつかはこうなるかもと思っていた。しかしまさかこんなに早いなんて。



 チラッと向かいに座る彼女を覗き見る。

『BRANCH』の一席に腰掛けてからもう五分は経った。

 その間、一切の会話が無い。

 彼女は『話したいことがある』と言ったが、上手く言葉を紡げないのかもしれない。


 少しどころか激しく気まずいので膝の上に置かれた手を見つめる。

 気づけば爪が伸びていた。仮にも飲食店で働いてる身としては冷や汗の一つもかきたくなる。

 しかし今はそんな場合じゃない。

 いつ会話が始まるかわかったものではないのだ。


「……すみません、急に押しかけるみたいな感じになってしまって……」


「い、いえ! 全然大丈夫ですよ。」


「先に少しでも、話をつけるべきでした。」


 急に話しかけられたから思わず少しビックリしてしまった。


「……。」


「……。」


 またも無慈悲な沈黙が訪れ、思わず頭を抱えたくなる。

 いつもの癖でため息を吐きそうになったが、理性がそれを抑えてくれた。


「……あ、愛染さんの話したいことっていうのは……何ですか?」


 勇気を出すことは大事だ。

 まぁ正直、彼女が俺に話したいことなんて幾つか思いついている。そのどれもが、俺にとっては心苦しいものだが。


「……色々、あるんですけど……まず、一つ聞いてもいいですか……?」


 彼女もすごく何かを恐れているようだ。

 その原因が、俺にそれを伝えることかどうかは分からない。


「はい、大丈夫ですよ! 答えられる範囲で答えます!」


「……髙木さんは……」


 愛染さんは永遠のような沈黙を間に挟み、もう一度静かに口を開く。


「……彩葉と、付き合っているんですか……?」


「……………………え?」


 またもや沈黙が生まれる。

 彼女は控えめにこちらを上目遣いで見つめ、答えを待っていた。


「ええええええっ!?!?!? いやいや、お、俺が花月さんと!? そ、そんな訳ないです!!」


 店内に自分たち以外誰もいないことを心底ありがたく思う。

 母には知り合いが来たから今日は上がると言ったのが、レジにすら誰もいない。どうせベルがあるのだからレジ番なんて元々要らないのだ。


 いや、そんなことは本当にどうでもいい。

 目下の問題は愛染さんの問いだ。

 冗談かと思ったが、彼女の顔を見ればそんな可能性は消え失せる。

 本気だ。本気で俺と花月さんが付き合っているなどと思っていたのだ。


「そ、そうなんですか?」


「そ、そうです! て、ていうか、なんで俺と花月さんが付き合ってると思ったんですか!?」


 あまりに突拍子もない。あり得ないとしか言いようがない。


「……すみません。こないだ、彩葉を追いかけてたら……ここにいる二人を偶然見ちゃって……それで、前も校門の前で話してましたし……」


 まぁ、別にあの瞬間を見られたことはそこまで気にならなかった。

 ただ、正直なんとも言えない。

 俺が側から見たら二人でカフェにいる男女は付き合ってると思うのだろうか。


 ……いや、動揺のあまり最も大切なファクターを忘れていた。俺たちは真堂高校の生徒なのだ。

 真堂高校なんて男女で話しているだけで関係性を疑われる場だ。そも校門の前で話している時点で疑われていてもおかしくない。


「……あ〜〜…………なる、ほど、です。」


 あまりにも反応し難い返事をしてしまった。

 彼女は目をあちこちに逸らして会話に困っている。

 俺はいつまで経っても会話が苦手なようだ。


「ご、ごめんなさい……。覗き見するつもりは無かったんです……」


「いや、全然大丈夫です。……とにかく、俺と花月さんは付き合ったりしてません。」


「……じゃあ、どういう関係なんですか? どうして、そんなに……」



 どういう関係。

 今まで考えたこともなかった。

 ただ『常連』と、それだけでしか無かったから。

 でも、今ならハッキリと言える。

 しっかりとした一つの答えがある。



「友達です。」


 当たり前だ。友達になったんだから。


「……どうして、友達になったんですか……?」


 どうして?

 ……分からない。そんなの分からない。

 言葉にするなら、ただ友達になりたかったから。

 もっとあの人の笑顔を見たかったから。

 もっとあの人と一緒にいたかったからだ。


 でも、そんなことを口にはできない。恥ずかしいから。

 それに、こんなことを愛染さんにいったらなんて言われるか想像がつかなかった。


「……うーん……うーーん……」


「……いえ、すみません。きっと、彩葉ならただ髙木さんと仲良くなりたかっただけです。……変な勘繰りみたいなことして、ごめんなさい……」


 彼女はあまりにしゅんとしている。

 さっきからずっと思っていたが、どうしてこんなに大人しいのだろう。

 あの日見た愛染さんはむしろ怖いくらいだった。威圧感を放ち、花月さんを守るようにこちらを睨んできていた。

 だのに、今の彼女はすごく萎縮している。

 苦手な男子と話しているのだから普通かも知れないが、それにしても弱々しい。


 ……少し、距離を詰めてみようか。


「……愛染さん、ずっと気になってたんですけど……『さん』付けなんてしなくていいですよ。同学年ですし。」


「……でも、髙木さんは私のこと『愛染さん』って呼んでますよ……?」


「い、いやそれは……女子は大体『さん』付けが普通じゃないですか? それより近い敬称なんて……『ちゃん』しか……」


「さ、『さん』で大丈夫です……!」


 やはり『ちゃん』付けはされたくないらしい。というか俺もしたくない。

 流石に距離を詰めすぎだし、なんかチャラい奴みたいだ。


「とにかく、『さん』付けはなんか歳上とか先輩感が強くて変な感じがするので……できれば、『くん』とかがいいかな……って思います。」


「……じゃあ……髙木君、でいいですか?」


「はい、大丈夫です!」


 できる限りの笑みを浮かべる。

 内心では冷や汗ダラダラだったが、思っていたよりも愛染さんは男を毛嫌いしているわけではないらしい。

 というかやはり、今日の彼女は何か弱々しく感じる。


「……それでその……髙木君。…………話したいことの、話なんですけど……」


 どうやらまだ始まっていなかったらしい。

 本番はここからだということだ。

 急に恐ろしくなってきた。

 怖い、というよりは何か……変な気分だ。

 知らない何かが身体の中に入ってくるような感じ。

 ざわざわと、胸の内側で木々が揺れる。


「……はい、何ですか?」


 平静を保って静かにそう答えた。

 笑顔とは呼べないが、恐れたりもしない。

 ただ、静かに彼女の声を待つ。



「……こんなことは……言っちゃいけないって、分かってるんです。でも……ごめんなさい……私は……」


「……愛染さん。まだ、何も言われてません。俺はまだ分からないままです。」


「………………彩葉と…………」



 俯いて眉を歪める彼女を見れば分かる。

 きっと告げられるのは決していいことでは無いのだろう。

 でも受け止める準備はできていた。

 目を背けてはならないと、最近よく教えられたから。



「…………会うのをやめてくれませんか……?」



 その言葉は想定できていた。

 というか、それくらいしか思いつかなかった。


 愛染さんは顔を伏せて肩を震わせている。

 泣いているわけではない。けれど酷く恐れているようだ。

 何を?

 俺を?

 なんで?

 分からない。


 彼女は言っていた。

 こんなことを言ってはいけないって分かっている、と。

 つまるところ罪悪感を感じているのだ。

 しかし、会わないで欲しいと言うだけで何をそこまで恐れることがあるのだろうか。

 別に欲を伝えるのはいけないことではない。



「……ちなみに……なんでか、教えてもらえますか?」


「…………それは…………彩葉が、心配……だからです……」


「……俺が、男だからですか?」


 少しの微笑みを浮かべ、しっかりと彼女を見つめてそう尋ねた。

 自分以上に緊張している人がいると落ち着いてくると前に聞いたことはあったが、本当だとは思っていなかった。

 頭も心もすっかり冷えている気がする。


「…………そう思ったのは……私が男の子を嫌いだって、彩葉から聞いたからですか……?」


「……そうです。俺が知ってる愛染さんの情報は本当に少ないうえに、全部花月さんからのものですし……」


 彼女は顔を伏せたままさらに少し小さくなった。


「彩葉は……他に何か、言ってましたか……?」


「えっと……俺と話したら、俺がいい人だって分かるはず……みたいなことを言ってました。俺は別にいい人じゃないですけどね……」


 少し呆れたように笑い、縛った後ろ髪をピョコピョコと弄る。

 愛染さんは相変わらず下を向いていた。

 彼女の前に置かれたアイスティーの氷が、カランと音を立てて揺れる。


「……愛染さんは昔、男子たちに虐めを受けていたって聞きました。だから、まだ男の人に悪い印象があるのかなって。」


「そ、それはっ……そう、なん、ですけど……」


 他に何か理由があるのだろうか。

 あるなら聞きたい。

 彼女が、愛染さんが何を思って俺と花月さんの関係を怖がっているのか。


 てっきり、俺が悪い奴の可能性を疑っているのだと思った。純粋な花月さんの近くにはおいていけない、みたいな。

 けれど今の愛染さんの瞳を見ると他の理由も感じる。

 見開いた目は焦点が合わない。自分の太ももの上に置いた手でも見つめているのかもしれないが、どちらにせよ肩で息をしているのは心に何か引っかかりがあるのだろう。


「……他に、何かあるんですか?」


「………………。」


「……できれば、教えて欲しいです。もちろん、無理にとは……言わないですけど……。愛染さんが過去にどんな仕打ちを受けてきたのかは、俺には分かりませんから。」


 彼女はゆっくりと顔をあげる。

 眉をハの字に歪め、瞳孔はまだ震えていた。



「……男の子、だけじゃないんです。」


「え?」


「…………私が苦手なのは、男の子だけじゃないんです。」



 思わぬ返答に口を閉じられない。

 彼女の言っていることはつまり、男だけではなく女も苦手ということだろうか。

 脳の理解が追いついていないのが自分で分かる。

 頭が痛い。まるで小説を読んでいるときみたいだ。


「えっ……と……それ、は? どういう……」


「……私は、確かに男の子に虐められてて……男の子のことは苦手です。でも、それで男の子を避けてたら……いつの間にか、女の子のことも、苦手になってて……」


 あまりに声が震えているので、温かい飲み物でも持ってこようかと思ったが、今ここから去るのは違うとも思った。


「それが、どうして俺と花月さんが会うべきじゃない理由になるんですか?」


「髙木君は、知らなくて当然かもしれないですけど……女の子は、思っているよりずっと……陰湿です。すぐに嫉妬して、陰で悪口を言ったり、バレないようにハブったり……」


 まさか花月さんを心配だと言うような彼女が、そんなことを口にするとは微塵も思わなかった。

 これではまるで、男よりも女の方が嫌いみたいだ。


 花月さんはきっとこの事を知らなかったのだろう。

 愛染さんも花月さんには隠しておきたかったに違いない。


「……それで、それがなんで……」


「髙木君にこんなこと言うのは変かもしれないですけど……男の子は単純です。私を虐めてきた人たちだって、悪口とかは正面から言ってきました。でも……女の子でそんなことをする人は……少ないです。」


「…………。」


 今はきっと聞くターンだ。

 こちらから尋ねたのだから当たり前なのだが。


「私は今まで、いくらでもそういう人たちを見てきました……。女子だから、これも当たり前かもしれません。……皆んなが皆んな、そうだとは思ってません。けれど、どんな場所にも少なからずそういう人はいると思います。それに……」


 少しだけ俯いて、細い眉を歪めた。

 その先がすごく気になる。しかし急かしては逆効果だ。

 きっと既に考えたくない事を色々と考えていることだ。焦って欲しくはない。


「……それに、真堂なら尚更です。……男子たちがどうかは分かりませんけど……少なくとも女子の中に、恋人が欲しいと思ってる人は少なくないです。……そんな中で、彩葉が男の子と仲良くしてたら……」


「……それは、そんなに疎まれることなんですか?」



 単純に疑問だった。

 恋人が欲しくて、その状況で友達に恋人ができたら嫌なのだろうか。

 好きな人が先に取られた、とかならまだ分かる。

 しかしそうで無いのなら、抜け駆けしやがってと思うくらいが普通ではないだろうか。


「……やっぱり、男の子は、そうなんですね。……髙木君は、彩葉をどう思いますか……?」


「え……? えっと……良い人……ですかね?」


「……それは、女の子たちも同じです。皆んな、彩葉を良い人だって思ってます。それに、可愛い子だとも。」


 なるほど、確かにそれには同意だ。


「それに加えて頭もいいんです、あの子。だから、皆んな彩葉を可愛がります。でもそれは……今だからそうなってるだけで……色んな面で好かれるあの子に、仲が良い男の子ができたなんて広まったら…………もしかしたら、あの子を可愛がる人たちの中にも、嫉妬する人がいたりするかもしれません……」



 考えすぎだ。

 疑いすぎだ。

 悲観しすぎだ。


 なんて思うのは間違いだろう。

 俺には、この人がどれだけの『人の悪意』に晒されてきたか分からない。

 今までどんな事を言われ、どんな事を聞かされて、どんな事を見てきたのか、知らない。


 俺の周りには幸いながら良い人が多かった。もしかしたら、俺が気づいていないだけかもしれないが。

 虐めはあった。陰口も少しくらいはあったかもしれない。

 けれどそこまで悲観する程ではなかった。


 だから、彼女のこれまでを考えると少し可哀想になる。

 虐められた理由もわからない。

 慰めなんてもう必要としていないだろう。

 俺にできることは、無いのかもしれない。



「……彩葉には、そんなこと言われて欲しく無いんです……。あの子は純粋で、本当に良い子だから……。陰口なんて、どれだけバレないようにいっても相手には何となく分かるものだから……あの子が、自分が悪く言われてるのを知ったときの顔を考えたら……私は、どうしても……!」


 彼女にどんな言葉をかけるべきか分からない。

 何を言っても、今愛染さんが一番俺に求めているのは花月さんとの接触を断つことだ。


「……なるほど。よく、分かりました。…………きっと、愛染さんは優しい人なんですね。」


 彼女は眉を酷く歪めてこちらを一瞥し、苦しそうな顔で俯いた。


「……つまり、愛染さんが俺と花月さんに会ってほしくない理由は……俺を男だから悪いと思ったわけでは──」


「──わ、分かってるんです! こないだの彩葉の笑顔を見た時も、今日色々話している間も凄く…………髙木君がいい人だってことは、本当によく分かるんです……」


 彼女の目に映る色はよく知っている。


 自己嫌悪だ。


 今、目の前の少女はきっと自分を酷く罵りたい気分なのだろう。


「本当は、こんなこと言っちゃいけないとも分かってるんです……! 彩葉は、髙木君といる時すごくいい笑顔を浮かべていました……。会わないで、なんて……私のエゴでしかなくて……酷いお願いです。今日のことが知られたら、もしかしたら彩葉にも嫌われちゃうかも……。理由を言ったのだって、彩葉を人質に取るようなもので……」


「愛染さん。……とりあえず落ち着いてください。俺はゆっくりでもちゃんと話は聞くつもりです。」


 彼女は震える息で一度深呼吸をし、俺の胸元辺りで視線を安定させた。

 無理に目を見ろなんて言わない。俺だって人の目を見るのは苦手だ。


「……すみません、取り乱して……。でも、私は……自分が彩葉に嫌われてでもあの子を……守りたいんです……」


 やはりいい人だ。きっと、すごくいい人だ。

 俺では花月さんと接触するリスクなんて思いつかなかった。

 本当に、心の底から花月さんのことを考えているのだろう。


 確かに考えすぎなところもあるかもしれない。

 けれど彼女の受けてきた『人の悪意』がその根拠となっている。



 彼女の意見は正しいと思った。


 俺だって花月さんは大事だ。

 あんな笑顔を浮かべてくれる人が、悲しい顔をするのは見たくない。

 だから、正しいと思ってしまった。

 そうするのが正解なのではと、俺自身が考えてしまった。



 でも、もう少し考えたい。

 だって、花月さんは言ってくれた。


 『これからはもっと欲張っていいんですよ!』


 欲張りたい。

 ああ言ってくれたんだから、欲に向き合ってみたい。


「……愛染さん。……もう少しだけ、考えさせてください。今すぐには決められません。……花月さんはテスト勉強でしばらく来ないそうなので……テストまでに、もう一回話しができれば……あ、でもそれだと愛染さんのテスト勉強が……」


「大丈夫です。私は、自分のテストなんかよりも彩葉の方が大切です。……なので……これ、私の『Lynk』です。いつでも連絡してください。すぐに向かいます。」


 彼女はそう言ってスマホの画面を見せてきた。

 QRコードを読み取ると『愛染 栞』というアカウントが表示される。

 友達登録をして、彼女もスマホをポケットにしまった。


「……それと、もし嫌なら……断ってもらって構いません。おかしいのはどう考えても私の方なので……」


 最後にここまで配慮して気遣いをできるなら、やはり彼女はいい人だと思う。

 ただ、そのイメージをかなぐり捨ててでも花月さんを守りたいのだろう。


「ふふ。愛染さんはやっぱり優しいと思います。……とりあえず、ちゃんと考えます。そして、俺がどうしたいのかをしっかり知ろうと思います。」


「……はい。……今日は、こんな話を聞いてくれてありがとうございました。迷惑をかけて、すみません。……失礼します。」


 彼女は席を立ち、トートバッグを手に取ってカフェの入り口に向かって歩き出した。

 その後ろ姿も少しフラフラとしているように見える。

 

「愛染さん。……また、ウチをお願いします。」


 まるでお客様に言うかのように微笑みを作り、静かにそう言った。

 自分がどんな顔をしているかなんて案外自分が一番分からないが、今はいい顔ができていると思いたい。


「……はい。また来ます。……髙木君。彩葉が言っていた……話したらいい人だって分かる……っていうのは、本当でした。……髙木君は、いい人です。」


 彼女はそう言って軽く微笑み、お辞儀をして去っていった。


 俺は、彼女の笑顔を初めて見た。とは言っても笑顔と言えるほどの笑顔では無かったが。

 初対面の時は睨まれたし、今日の会話中も一度も笑わなかった。

 少しは心を開いてくれたと思っていいのだろうか。



 まぁ、今はいい。

 早急に、考えるべきはただ一つ。


『どう、花月さんとの関係を維持するか』


 当たり前だ。わざわざ欲に向き合う必要もない。

 彼女と二度と会えないなんて嫌だ。

 けれど彼女の言っていたことにも一理あると思う。

 何よりあんな風になっている愛染さんを放っておくのも嫌だった。


 だから、双方が納得できる方法を考える。

 俺も、愛染さんも。

 ……とはいえ今のところ思いついているものはない。

 もしかしたら何も思いつかないかもしれない。

 でも考えないなんてあり得ない。


 欲張っていこう。



 カフェの中に入り、いつもの花月さんの席に目を向ける。

 そこに腰掛ける彼女の黒髪を思い出し、静かにカウンターの内側に消えていった。

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