三春と壱夜の話2
「壱夜兄さん?」
「俺たちの育て方がまずかったのはわかってる。いまとなっては反省しかないけど、そのくらいあのときは三春のことが心配でしょうがなかったんだ」
さっきまで赤くなっていた壱夜兄さんの顔が、今度は困ったように微笑んだ。後悔しているように見えるのは、どことなく悲しそうな表情に見えるからだろうか。
「心配で心配で、心配しすぎて三春を閉じ込めるようなことをしてしまった。俺たちに心配をかけないように“僕は可愛くないよ”と言い出したのをそのままにしてしまった。それじゃ駄目だとすぐに否定したけど遅かった。本当に申し訳なかったと思ってる」
「兄さん……」
「でも、これからは慎太郎くんが三春を大事にしてくれる。俺たちでは見せてあげられなかった世界をきっと見せてくれる。もちろん俺も二海も三春のことが大好きで大事だと思ってるけど、慎太郎くんも同じくらいそう思ってくれてるはずだよ」
「……うん」
兄さんの言葉に胸が熱くなった。壱夜兄さんが僕たちを応援してくれているんだと思うだけで心強くなる。
「そうだ、可愛く見えるとっておきの技を教えてあげようか」
「技?」
「慎太郎くんが一瞬でメロメロになる方法なんだけど」
「教えて!」
食い気味で答えると壱夜兄さんが「あはは」と笑った。
「話しかけるとき、慎太郎くんの目の前に立ってじっと見つめるといいよ」
そう言いながら兄さんが上を向く。
「こうやって顎を上げないと目を見られないくらい近づいて、それからジーッと見つめてみて。絶対にメロメロになるから」
「見上げて見つめる……」
「たぶん瞬殺じゃないかな」
「瞬殺、」
物騒なことを言いながら「間違いないよ」と笑った。壱夜兄さんが言うならきっとそうなんだろう。「今夜試してみようかな」なんて考えたらドキドキしてきた。
「さて、今日はスーパーも混むだろうし、さっさと買い出しに行っておくか」
「僕も手伝うよ」
「ありがとう。こうなるとおせち関係は買わないほうがよさそうだね。必要なのは今夜の鍋の肉とお蕎麦と、あとはお雑煮の具材くらいかな」
「おせち買わないの?」
「三春は今夜からいないし二海も食べないだろうし、俺も明日の夜は留守にするし」
「あっ、そっか」
毎年おせちを三人で食べていたからか寂しい気持ちになる。
「そうだ、来年はみんなで年末年始を過ごそうか」
「みんな?」
「そう。慎太郎くんも優美ちゃんも、もちろん靜佳も誘って。それならおせちを用意しても酒のつまみですぐになくなるだろうし」
みんなで年越し蕎麦を食べるのを想像してみた。
(昔は誰かの誕生日になるとみんなで集まったりしてたっけ)
それも慎兄さんが都会に行ってからはなくなった。あんなふうにまたみんなで集まれるのかと思うとちょっとワクワクする。
きっと昔よりずっとにぎやかになるだろう。慎兄さんと二海兄さんは言い合いをしそうだし、靜佳もきっと巻き込まれる。それで最後は優美ちゃんがビシッと言って丸く収まるんだ。それを見ながら壱夜兄さんと僕とで年越し蕎麦を用意する光景が頭に広がった。
「すごく楽しそうだね」
「三春もそう思う?」
「うん。ちょっとにぎやかすぎるかもしれないけど」
「そこは優美ちゃんがどうにかしてくれるよ」
「あはは、僕もそう思った」
笑いながら出かける準備をした。寒くないように分厚いコートを着て、それからクリスマスプレゼントで慎兄さんにもらったマフラーをぐるぐるに巻く。
(今年は最後にいろいろあったなぁ)
慎兄さんと再会して、髪を切ってもらって、そうして付き合うことになった。驚いたり戸惑ったり焦ったり、とにかく大変な十二月だったけどいい一年になったと思う。来年もきっといい一年になる。
(早く慎兄さんに会いたいなぁ)
あと何時間かすれば会えるのに急に会いたくなってきた。
(そうだ、初日の出見に行けるってメッセージ送っておかないと)
壱夜兄さんが車を出してくれるのを待っている間、僕はニマニマしながら慎兄さんにメッセージを送った。




