レポート70:打開策。
儀式の日。
「ネイティーン。素体の様子はどうだ。」
「…昨日からは、大人しいよ。…ねえ、ほんとにやらなきゃダメなの?あの子そんな暴れるような子じゃないし…」
世界樹内部の回廊を歩くネイティーンと、厳格そうな見た目の
「危険因子は排除する必要がある。それに…魔力タンクにするのならば、自我がない方が面倒が少ない。」
「…そう…。」
過求を監禁している部屋に入れば、ベッドの上で座って待っている、少年が1人。腕の拘束具は問題なく魔力を吸収しているようだ。床には、暇つぶしに与えた玩具がいくつか転がっている。
「出ろ。時間だ。」
「…大丈夫。なんとか、するから。」
ネイティーンに支えられながら抱き起こされた、少年。運搬は任せておけば、いいだろう。
部屋の扉を開き、生活用具の部屋を通り、通路に通じる扉を開いたとき、ついてきているかの確認で振り向くと、2人が着いてきていない。
「おい何をして…」
「ダメじゃないか……ちゃんと、自動ドアには安全装置をつけないとな。」
そう不敵に笑う…青年の左腕からは血が垂れている。
「な…っ…拘束具は」
「あっちの部屋に置いてきたよ。もう、必要ないからな?」
そこで、理解した。この存在は…壁の開閉に腕を巻き込ませて切断したのだ。自らの腕を。
「異端者め…」
「お前らからのプレゼントは返送だ。」
投げつけられたのは、真っ二つになったトランプの束。そのどれもに、傷がついている。
底まで認識した刹那に、トランプが輝き爆裂する。
「掘れた溝が浅いから複雑なことはできんが…質は量でカバーだな。」
「黙って連れられていれば、手荒にはしなかった物を。」
「大人しく終わりを待つのは性にあわなくてね。」
再び投げられたトランプが爆裂する…が。渦をまくようにして動く空気に阻まれる。
「ちっ。魔術ってのは便利なもんだな。」
「貴様のそれは…神術か。」
「何言ってんだ。これは、ただの刻印術だ。」
「…そうか。」
御託を並べるつもりもないのか、部屋が変形し、壁から槍が生える。だが、それは予測済。
「分かりやすくて助かるね!」
回避しながら、トランプを投げつけるが風の防壁に阻まれる。部屋の変形による攻撃ならば、解析で分かる。問題は通常の魔術。何とか用意できたトランプに、割れたスプーンで傷をつけて作成した刻印術では初級魔術程度の威力しか出ない。
相手がそれ以上の防御を貼れば、勝てる通りはない。
「少しばかり驚かされたが…その程度か。まあ、これ以上長引かせる必要もない。終わりにしてしまおうか。」
その言葉と共に展開されたのは数多の魔法陣。術式の形からおおよその威力に当たりをつけるが、最低でも中級魔術。下手をすれば上級か。どのみち...
「もう生け捕りは諦めたか?」
「体さえ生きていればそれでいい。」
「そうかい。そりゃ残念。」
本当に残念だ。今の僕の勝ち目といえば、相手がこちらを殺せないという縛り。それがなくなった今、かなり形成は悪くなったことは否定できない。
「では、死ね。」
発動の予兆を見せた魔法陣に対して、後方より放たれたのはそれぞれの属性の有利属性の攻撃。
魔法陣に直撃したそれらの魔術は、魔法陣を相殺する。
「なんの真似だ。ネイティーン」
「長老たちのやり方には...納得がいかない。」
「...まあいい。上位魔術も使えないようなエルフが一人増えたところで。」
再び展開される魔法陣。しかし、そのどれもがその瞬間に相殺させる。
「...」
再度展開。されど相殺。
「なに?」
「威力は出ないし、複雑なこともできないけど...速射だけなら、負けないよ。」
魔法陣段階なら、ワンランク下の魔術でも弱点属性なら相殺できる。
「弟君。」
「弟じゃない。」
「もー、強情だなぁ。じゃあ、カキュウ君。魔法陣は、私が相殺するから。長老本体、頼んでもいい?」
「了解。」
次の瞬間に展開された魔法陣は、発動前に宣言通り相殺される。
その隙をついて攻撃。武器らしい武器はない。使えるものは初級術式のカードのみ。遠距離で飛ばしても対応されかねない。なれば、狙いは直あて。
「さて…任せた!」
「任せて!」
魔法陣を、常に相殺されて焦りを隠せない長老エルフ。
「魔術を使えぬエルフなど!ただのもやしっ子!!」
「舐めるな破滅者!」
魔法陣を展開し続ける長老エルフ。だが、その全てはネイティーンによって相殺され続ける。
そして片腕だけとはいえ接近戦となれば解析が使えるこちらの方が有利なのは自明の理。魔法陣の展開を辞めれば、ネイティーンの魔術が援護になる。
手札を潰し、理不尽を押し付け、すり潰す。
「くっ…」
狭い室内では満足に動けるはずもない。右の掌底。手のひらに魔法陣。半身になりながら、左に流してそのまま、膝打ちを入れる。くの字に折れた長老の体に叩きつけるようにして貼り付けたのは、火の初級魔術カード。起きた事象は、発火。服は燃え上がり、老人エルフは魔術で消化しようとするが、ネイティーンが相殺する。
「初級だからと侮るなよ。部位によっては致命傷なんだからさ。」
次々と魔術札で攻撃を仕掛ける。小さな砂の奔流は皮膚を削りて、血管を切断し、血を吹き出させる。小石程度の大きさの火球は、目を焼き視界を奪う。コップ1杯程度の水も、喉に直接流し込めば溺れる。小さな芽も、肉体に芽生えれば神経を犯し苦痛を与える。ほんの空気だって…傷口から血管に入れば死に至る。
事切れた長老エルフの死因、敗因はただ1つ。
「品格なんてもの、戦場じゃ役に立たないぞ。」
長老の死体を隅に追いやると、扉を開ける。
「あとはギアの回収…この辺りでいちばんエレメントの強いところは?」
「うーん…地下の根元かな?エレメントの源泉が埋まってるって話だし。」
「わかった。行くよ、姉さん。」
「はーい…え?いま姉さんって言った!?」
「…違う。愛称だ。ネイティーンっていちいち長いんだよ。縮めてネイさんで十分だ。」
「嘘!絶対いった!ネイじゃなかったよ!ねえさんだったよ!!」
「うっせえ。さっさと下いくよ。…護衛、よろしく。」
「後でもっかい言ってよ!」




