十四話
今日は長老の家にいる。
といってもこの森について情報を共有しているだけだ。
この森については何も知らない。
そもそも異世界から来たからこの世界について何も知らないけど。
長老はさっき俺が適当に作ったお手製の黒板とチョークを使ってる。
もちろん魔法で作った。
この前魔王が教えてくれた魔法が余りに便利だったから一人で練習した。
急に話だけでつらつら言われても俺は覚えられない。
-私は覚えられるのだ-
黒板には地図が貼ってある。
方法はめちゃくちゃシンプルで、釘だ。
「私たちが確認できているこの森に住む種族は三つ」
三つって多いのかな?
-少なくとも私の常識では平均だな-
「獣人、翼人、巨人だ」
長老が黒板に三種族を書いた後、こちらを見た。
もちろん俺はエルフ文字が読めない。
すでに魔法を使っている。
「これらの種族に関して説明はいるか?」
「お願い」
知ってるわけない。村にいなかったし。
-いたらいたらで凄いことになるのだ-
「まず獣人だが、獣特徴と人間の特徴を併せ持った者達だな。例えば耳が獣、顔は人間、でも尻尾が生えているなど…どこが獣かはランダムだ」
じゃぁ狼男もいるのかな?
-いるだろうな。魔王軍の幹部にも一人いたのだ-
「次に翼人、彼らは背中に翼をもった人間だ。一説には神がこの世界に産み落とした天使だとか言われているが、今じゃエルフと同じく奴隷商のおすすめ商品だな。見た目だけで言えば我々エルフよりも遥かに美しいからな。商品価値が高くなってしまったのだろう」
ティナも十分綺麗だけど、あれ以上ってことかよ。
-人によるだろ。平均値が高いか、低いかってものなのだ。エルフにもブスはいる。他の種族もおなじなのだ-
な…なるほど。
「最後は巨人だな。どの巨人もサイズはだいたい5~6メートルくらいだ。彼らはその大きな体に大きな脳を搭載していて非常に知能が高い。トロール種と勘違いされることが多いが、全く違う。奴らは知能が低いが、巨人は知能が高いんだ」
人間の2~3倍の体調があるなら頭もかなり大きいってことか。
それは頭良さそうだな。
-巨人…トロールはいたが、魔王軍にはいなかったのだ-
「…ちなみに彼らがどこに住んでいるのかも私たちは知っている。私達エルフは森に潜むのがこの中で最もうまい種族だからな。他の種族に悟れないように偵察するのは簡単だった」
「それはいい話だ。ってことは後はどの種族から国民になってもらうのか決めるだけだね」
長老が顎に手を当てて考えている。
「そうだな…おすすめは翼人だろうな。彼らはほとんど人間と同じで、私たちエルフと同じ境遇だ。説明すれば協力してくれるかもしれない」
「よし、最初は巨人で決まりだ!」
「え?話聞いてた?」
巨人は頭もいいし、体も大きい。
奴隷みたいな考え方で申し訳ないけど、労働力として最高、それに知恵も貸してもらえる。
-珍しく意見が一致したな。私も味方にするなら能力値が一番高いのがいいのだ-
「まぁお前の勝手にしてくれ…と言いたいところだが、巨人たちは頭がいいだけに保守的な考えのやつらばかりだぞ?お前の意見を受け入れてくれるかどうか」
「誘うのは変わりないんだから、とりあえず話してみよう!まだどうなるか決まった訳じゃないんだし」
「それはそうだが…まぁいいだろう。私も彼らが優秀だという点は同意だからな」
長老が諦めたように黒板に刺さった地図の一か所に指をさした。
「ここが巨人族の集落だ」
長老が指さした場所はエルフの集落よりも森の外側だった。
「あら?そこだと人間に見つかっちゃうんじゃ?」
「別に彼らは見つかってもいいと思っている。なぜなら彼らをコントロールしきれる人間などこの世界にはいないからだ。魔族や竜人を人間がコントロールできないように、巨人もまた制御不能だ」
「それだけ凄いってこと?」
「彼らは基本争いを嫌う。だが害をもたらされた時は別だ。その戦う姿はまさに一騎当千。危険であることは間違いない」
長老が睨むようにこちらを見てきた。
エルフの集落に争いを持ち込むなよという傾向だろう。
「戦いにならないように気を付けるよ」
「そうしてくれ」
かなり危険なのだろう。
長老の顔が久しぶりにマジだ。
●
「ただいま」
「お帰りなさい!」
ティナが元気よく迎えてくれる。
一日の疲れが吹っ飛ぶほどだ。
この家に住むようになったもう何度も経験しているけど、未だに慣れない。
この家でのジゼルの立ち位置は特殊だ。
まずジゼルは家事をする。
魔族と言えば力だけですべてに対処するイメージがあったがそうではないらしい。
-私だって料理くらいするのだ。人肉もたしなんだことがあるのだ-
人間食ったことある感じ?
-あるのだ。部下に勧められてな。まぁ美味しくはないのだ-
あんまその話は聞きたくないな。
他人事じゃないしな。
-他人ごとなのだ。お前はゴキブリ-
…俺…人間…食う。
-何言ってんの?-
話を戻そう。
ジゼルと違ってティナには趣味がある。
たぶん裁縫と人間観察だ。
ふと気づくと裁縫をしながらじっとこちらを見ている。
俺の日常行動にそこまで面白い点があるとは思えないけど、なぜか見ている。
ジゼルの方を見ている時間はほとんどない。
-相変わらず触角が死んでいるのだ-
さて、ジゼルに関してだが彼女はとにかくじっとしている。
一度だけジッとしている時に何をしているのか聞いたことがある。
彼女はこう答えた。
殺してしまった人々のことを考えていると。
俺は聞いた。
意味なくね?ってね。
-あれは今でも鮮明に覚えているのだ。お前が人間じゃない証拠なのだ-
ジゼルは暫く俺の方を見つめた後、鼻で笑って黙祷を続けた。
たぶん冗談だと思われたみたいだ。
俺は死んだ人を思うより、これからどうするかを考えるべきな気がした。
でもそれは人を殺したことのない俺の意見で、きっとジゼルにしか分からないんだ。
-私は人を殺しても何も感じないがな-
流石「元」魔王。
-そこ強調しすぎじゃね?-
つまりジゼルについて何が言いたいかっていうと、彼女は置物に近い。
あんまり会話もしない。
そのうち仲良くなれるといいけどな。
-魔族の心は重い扉。並大抵のことじゃ開かないのだ-
何そのポエム…痛いんですけど。
-ポポポ…ポエムじゃねぇし!?-
違う違う、そうじゃなくて、俺にはやりたいことがあったんだ。
-やりたいこと?-
俺はリビングにある椅子に座って本を開いた。
この場所を選んだのに深い理由はない。
この本は結構前に長老の家から借りた本で、すっかり読み忘れていた本だ。
題名は「森の生き物図鑑」
探す生き物は「カ行」の最後、つまり「コ」が最初の文字。
後は想像にお任せしよう。
-誰に言ってんの?-
今は自分のことのように身近な彼について、まさか調べることになるとは。
正直ずっと他人でいたかったよ。
でもなっちゃったもんは仕方ないし。
とりあえずまずはお互いを知りあうことが大事だ。
-お見合いかよ-
俺は早速生き物図鑑を開いた。
ふむふむ…。
ゴキブリは雑食なんだ。
というか基本なんでも食うんだな。
それに他には…長い触角が優れていると。
空気の振動すら感知することが可能なんだ。
人間がゴキブリを捕まえられない大きな理由はこの触角のせいもあるのか。
動きが素早いからだけだと思ってた。
…動きの方も勘違いがあったな。
ゴキブリの動きは最速ってわけじゃないんだな。
ただし全生物の中で初速がトップクラスの速さだから捉えられないんだ。
ゴキブリは動き出してから一秒以内に体調のおよそ五十倍の距離を移動可能。
人間代のサイズだと仮定するとおよそ時速270~320㎞。早いな。
触覚による反応速度、それに異常なほどの瞬発力。
徒競走で審判がスタートと発言するのとほぼ同時に動き出せるほどの反応なのか。
つまり音速にも平然と対応できると。
そして音速に対応できるほどの異常なほど柔らかく力強い筋力。
…わお、体長のおよそ五十倍の長さを跳躍可能!?
俺に換算すると‥‥約80メートル!?
嘘でしょ?そういえば森でジャンプして空から集落を探したな。
さらにスタミナも異常なほどあるのか。
およそ四時間休憩なしで走り続ける…っておい、凄すぎない?
むっ…最新の研究結果でゴキブリは瞬間的に知能指数が300を優に超える?
おいおい…ジゼルに襲われている時にやけに物事がはっきりと考えられたのはそのせいか。
それに回復速度も異常…腕がなくなっても短期間で再生可能…通りで。
味覚が鋭敏…毒素すら感じ取る。
人間でいう心臓が頭と胴体の二か所にある…。
人間のおよそ16倍の放射能に対応可能…。
食料無しでおよそ半年の生存…。
種によっては異常なほど頑丈で堅い皮膚を持つ‥‥。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥もしかして俺って…。
最強の存在で…おk?
-…知らなかった。肉体性能で言ったら魔族よりも遥かに上なのだ…-
正直軽蔑してたけど‥‥案外【G】も悪くはないな。
-いや…これは凄すぎるのだ-




