十三話
あれからもう一週間がたった。
水路も無事完成し、今彼らは排水用の水路を作り始めてる。
とりあえず工事関係は彼らに任して、先に魔法具の性能テストを行ってみようと思う。
-こうして労働をするなど、魔王の私からすればありえないのだ-
今は【G】だろ。
-お前もな-
ちなみに魔法具の配備に関してはティナと一緒に行う。
といってもティナが何か特別なことをするわけではない。
ただ自分も制作に参加した道具の活躍するところが見たいだろうと思ったから誘った。
最初に来たのは村からさほど離れていない畑の方だ。
少なくない魔法具を持ってきたので全身荷物まみれだ。
「よし、早速魔法具を設置しようか」
「はい」
ティナが後ろについてくる。
…作った道具的に畑の中心…でいいよね?
-全体に光を与えたいならそれで間違いないのだ-
一応魔王に確認しておいた。
見切り発車で失敗するのが一番しょうもない。
俺は畑の中心まで歩いていき、容赦なく作ってきた魔法具をぶっ刺した。
ズンッ、という音が鳴った。
すこし力が強かったかもしれない。
木で作ってあるから、折っちゃったかと思った。
「そ、そんなに激しくしなくても」
もちろんその自覚はある。
「ごめん、ついつい力が入り過ぎちゃった」
とりあえず今刺したこの中心の一本で上手く行くか確認しよう。
この魔法具の使い方は非常に簡単だ。
使った道具は二つ。
①木の棒②魔石
たったそれだけだ。
木の棒の先端にはくぼみがあり、そこに魔力満タンの魔石をはめるだけ。
もちろん魔石の形は一定じゃない。
魔石が綺麗にはまることの方が少ないだろう。
魔石が先端のくぼみから落ちれば困る。
だから木の棒にかけられた魔法は一種類じゃない。
このくぼみ部分と、棒の部分で別の魔法が掛けれている。
くぼみの魔法が置かれたものを接着する魔法。
棒の部分は発光する魔法。
魔石をくぼみに置けばすぐに発動する。
「おぉ…光った」
-ふむ、私が作ったに等しいのだ。失敗はないのだ-
「す…凄いです」
ティナが光に見とれている。
それでも思い出したようにティナはこちらに歩いてきた。
「あの、私も手伝います」
「助かる。じゃぁこっちの分をお願い」
ティナに光源用魔法具の束を渡した。
畑はそこまで広いわけじゃない。
でもそれなりには広い。
二本目を俺が差し、棒と棒の間隔をティナと共有した。
この間隔通りに刺せば、問題なく全体を照らせるだろう。
ティナと俺は二人で作業を進めた。
そういえばこの光にはある問題がある。
この魔法具…というよりは光そのものに問題がある。
エルフ達は自分たちがいる場所を隠したい。
彼らに商品価値がある以上、それは当然の考え方だ。
でも薄暗い森でガッツリ光を灯してしまえば、いる場所がばれてしまう。
夜になればこの場所は丸わかりだ。
そこでもう一つ魔法具を用意した。
-間抜けのお前の為に提案したのは私なのだ-
それは隠密魔法だ。
この魔法具の作成にはかなり苦労した。
というのもただ光を照らしたり、ただ物を引っ付けたりする魔法とは比較にならないほど高度な魔法だったからだ。
この魔法具の作成にはティナも一切かかわっていない。
あまりに複雑だからだ。
今回用意した隠密魔法の効果は二つ。
幻覚作用、それに意識誘導作用だ。
実際には畑があるこの場所を見ても何もない。
さらにこの場所には近づく価値がない。
この魔法具を使えばそう見え、そう感じてしまう。
でもこのままだと農作業に来た人たちまでかかってしまう。
だから対策を用意した。
今回ティナと俺が試験の為に付けているけど、それはネックレスだ。
鉄製のネックレスで、この魔法具は使用者の魔力を吸うようにできてる。
つけていれば自動的に発動してしまう。
そのためもしも使うならここに来るギリギリがいいだろう。
このネックレスを付けていれば隠密魔法に対する耐性が付く。
かなり便利なものだ。
この畑の為に用意した魔法具はこれで全部だ。
そして無事全ての設置が終わった。
とりあえず一番重要かもしれない隠密魔法の点検をしておこう。
「ティナ、悪いけど畑から出てネックレスを外してみて」
「わかりました」
ティナが畑から出てネックレスを外した。
「す…凄いです。何もありません」
-私が作ったのだ。完璧に決まっているのだ-
そういって魔法の効果でティナはどこかに歩いて行ってしまった。
すぐに追いかけて行って声をかける。
「ティナ…ネックレス付けて」
「はッ…!?そうですね」
この魔法の弱点は、元々ここに何かがあることを知っている者に対する効果が薄いこと。
でも知っているのは身内だけだから問題ないはず。
「よし、畑周りは完成かな。次は水路用の魔法具を設置しよう」
「はいっ!」
●
さらに畑から進んで、今は湖まで来ている。
ここが水路の始まりになる。
この場所にも隠密魔法用の魔法具を置く。
水路の水の入り口をいつでも整備できるように穴が開いているからだ。
扉を作って埋めることもできるけど、より隠密性が高い方を選んだ。
早速魔法具を設置した。
これでもうこの場所はよほどのことがない限り見つからないだろう。
二人で早速水路の中に入った。
「うわぁ…結構広いですね」
ティナが驚いている。
別に予定より広く作られているだとか、そんなことはない。
予定通りの広さで作られている。
幅は直径五メートル。
円状に作られていて全て石でできている。下は平らだ。
ベンは土竜ということもあって石を自由に成形できる。
自宅を作ってくれた時と同じだ。
下を平らにした理由は点検する時に人が歩けるようにするため。
でも実際水を通せばこの穴は全て水で埋まる予定だ。
一気に水を消費することになる。
でもこの湖の仕組み的に問題ないだろうと考えている。
ちなみに今は入り口が開いているから光が届いているけど、普段は密閉するから暗くなる。
今も奥は暗くて何も見えない状況だ。
「よし、早速村方向に歩いて行ってみようか」
畑ように作った光源用魔法具に魔石をセットする。
これを灯りにして進もうと思う。
それから二時間ほど歩いた。
点検と言っても水路を歩くだけなので、結構退屈だ。
ある個所にたどり着いた時用の階段をお願いしてある。
水路の最初の目的地、畑だ。
階段を上がっていけば、予定通りの距離に畑がある。
住民が増える予定だから、畑はもっと広げることになる。
今は離れすぎず、近すぎずという位置に出口を作った。
ここでも魔法具を設置することになる。
それは蛇口だ。
俺の村では普通だったけど、ティナの前で作ったら驚かれた。
エルフの集落にこの世界水準の常識があるかは疑わしい所だけど、ちょっと嬉しかった。
-得意げに自慢してたのだ-
ちなみに蛇口は鉄で作った。
水を吸い上げる魔法がかかっていて、これも魔法具だ。
燃料は人間じゃなくて魔石。
ベンが予定通り地上にはみ出した石の筒を作ってくれているので、そこに蛇口を設置する。
これでいつでも水が出せるはずだ。
「ここにも隠密用の魔法具を置いて…これでよし。完成」
作業をしているといつの間にか日が沈み始めていた。
「もう夕方ですね」
木々が光を遮断するから、森の夜は本当に暗い。
「そうだね。暗くなると危ないし、早く作業を進めようか」
「そうしましょう!」
ティナがフンスッという音が出そうなほど気合を入れている。
両手で拳を作り、右手を前に出した。
たぶん気合を入れようぜっていうボディランゲージだろう。
一応俺も真似して拳を前に出しておいた。
ティナの頬に一滴の汗が滴り、気まずそうにしている。
-…ティナがやるとまだかわいいけど、お前がやるとキモいのだ。なんで内股まで再現したの?-
ふぅ…大変な作業だ。
早速続きをやらなくちゃ。
そこからまたさらに移動し、村付近まで帰ってきた。
ろ過用のスペースと、貯水槽がある。
貯水槽は水路に何かあった時、村の水が遮断されると困るからだ。
生活水としても水路の水を使いたいから、ろ過用の魔法具には力を入れた。
俺の村にあったろ過装置は、確か色んな層があった。
何段階にも分けて不純物を確実に取り除くためだ。
でも魔王がいる今、そんなことをする必要はない。
ろ過用の魔法具の数は一個。
これが偉大なる魔法の力だ。
-私の力なのだ-
早速魔法具を設置した。
これでこの村にも綺麗な水が確実に巡ることになる。
何よりもこの規模の水路があれば住民が増えても間違いなく大丈夫だ。
「これで水路の作業も終わり。帰ってご飯を食べようか」
「そうですね。…疲れました」
それはそうだろう。
今日は一日中歩きっぱなしだった。
ペトス工場よりも遥かに重労働で辛い。
でも生きてるって感じがする。
優先すべきだった食料面の作業が終わった。
たぶん一番時間がかかるだろう箇所だった。
排水用の水路も完備出来たら、今度はこの森に目を向けよう。




