十二話
集落の食料面の状況を確認してから一日が経った。
あれからも長老から話を聞いたが、そこまで気になる内容はなかった。
強いて言うならば農作以外の食料は狩りで賄っているという点。
これに関しては畜産するのがいいだろう。
単純なことなので、そこまで深く話合っていない。
これからこの場所に住む人が増える可能性も考えれば当然の結果だ。
かなり先の話をすれば貿易という手もあるが、それまではかなり長い道のりだろう。
今日やることは紙にまとめた。
長老や他のエルフと共有するためだ。
-以下用紙内容-
①水路の確保
ベンが土竜(アースドラゴン、以降の呼称を土竜とする。)であることを活かし、水路を確保。地図を長老に預けてあるのでそれをもとに実行。
畑、集落の二点を結ぶように作成。
水源である井戸の水がやがて枯渇する可能性があるため村まで配備が必要。また今後住民が増えることを考えると、井戸という水の供給システムでは賄いきれない恐れがあるため。
農作における近場に水がないことによる移動距離の削減=人的コストの削減。
期間:一週間
内容:水路の配備、水路周辺の確認(安全性・ルートなど)
責任者:イクス
担当者:長老、エルフ二人、ジゼル、ベン
②排水設備の確保
①に同じくベンを利用して排水用水路も確保。
期間:一週間
内容:①に同じ
責任者:長老
担当者:長老、エルフ二人、ジゼル、ベン
③魔法具の作成
1.疑似日光を放射するための魔法具
日差しがないことによる農作物の劣化、及び成長速度の改善。
2.ろ過用魔法具
水路を引いた際の水をきれいにするため。
湖の水の理由目的として、生活水・食用水も含むため。
※今後の為に魔法具の作成教育を含む。対象ティナ。
期間:一週間
内容:魔法具の作成、作成の教育
責任者:イクス
担当者:イクス、ティナ
-以上用紙内容-
ちなみにエルフ達の文化にはすでに紙がある。
というかそういった生活に欠かせないような道具はすでに完備されている。
彼らも生活しているので当然のことだが、生活レベルでいえば簡素な村と変わらない。
国の都市レベルを目指して生活水準を向上していこうとしているだけだ。
ベンがいれば楽勝だと思うが、そのうち道も整備していきたい。
そして俺は今、用紙通りに仕事をしている最中だ。
俺の役目は魔法具作成。
場所は当然自宅、もちろん隣にはティナもいる。
「それじゃ魔法具を作成しようか」
-仕方ない、教えてやろう-
「お願いします」
ティナが小さく御辞儀をした。
長老に用意してもらったのは魔石、それに背の高さほどある枝だ。
木の枝に魔法を付与、そして魔石でそこに魔力を補充できるようにする。
枝の上部になる部分には魔石を取り付けられるくぼみをつける予定だ。
「まずは枝の形成からやろうか」
「はい、わかりました」
-よし、イメージを送るぞ-
枝を一本持ち上げ、魔法を展開した。
すると枝はすぐにイメージ通りの形になった。
なんというか、派手さも何もなく、その形にただ変わっていった。
「うん、こんな感じかな」
「え?」
ティナは枝の方を見て首を傾げた。
「あの…全然理解できなかったんですけど」
「…うん…俺も」
「え?」
魔王、ちょっと詳しく教えて。
-イメージで見せただろう?なぜ分からないのだ?-
天才肌の学者みたいなこと言ってないで、口でわかりやすく教えて。
-え?急に嫌味なの?私口ついてないんだけど?ひどくない?-
いいから、早く教えて。
-魔王の扱いじゃないのだ。…まぁいい。今使ったのは物質の形状を変える魔法なのだ-
「今使ったのは物質の形状を変える魔法なんだ」
「通りで…。風属性魔法で削って作ったようにも見えませんでしたし。それなら納得ですよ」
ティナが笑顔でうんうんと頷いてる。
「って、ちょっと!そんな魔法使えないですよ!聞いたこともありませんYO!」
そんなティナが突然立ち上がり、抗議してきた。
怒りでラッパーみたいになってる。
…ラッパー懐かしいな。
俺の世界では吟遊詩人が季節ごとに来て、自慢のラップを聞かせてくれたもんだ。
…と、今はそんなこと思い出している場合じゃないか。
ていうか聞いたことないって言ってるけど?普通の魔法じゃないの?
-私の常識では普通の魔法なのだ-
なるほど、仕方がないね。
「ちなみにそれって…つまりは錬金術っていうことですか?」
-違うのだ。あれは物質を別の物質に変換させることなのだ。私がやったのは任意の物質を任意の形に変えただけだぞ-
「違うらしいよ。別に別の物質に変化させたわけじゃないから」
「らしい?」
ティナが疑問気にこちらを見つめた。
「あぁ…魔法って人から教わるでしょ?だかららしいってこと」
「確かにそうですよね。それにしてもイクスさん、魔法に凄く詳しいんですね」
「まぁね」
俺は丁寧に鼻の下を人差し指でこすった。
-いや、お前の手柄じゃなくない?-
ちょっと先に次の作業に移ろうかな。
こうやってまた聞かれても困るし。
「でも…私的にはこうやって博学なイクスさんと二人っきりで勉強できるのは…嬉しいことですけど」
「え?ごめん、聞いてなかった」
次の作業に集中してた。なんて言ったんだろう。
-え?お前死ぬの?ゴキブリなのに股の触角感度弱くない?-
「…何でもないです」
そうは言いつつもティナはどこか怒っている様子だ。
もしかするとさっきの作業の説明が不十分だったからかもしれない。
次こそはちゃんと教えるために、ちゃんと予習しなくちゃ。
魔王、早速教えてくれ。
-お前の脳の病気を治す魔法を教えればいいの?-
…なんてやり取りを繰り返しつつ、俺たちは魔法具の作成を続けた。
●
「ベン、水路は地中に作る。経路上で泥などが交じり合わないように、うまく補装しながら作ってくれると助かる」
「ンボッ」
ジゼルがベンのけつを軽くたたいた。
ベンが地面に潜っていった。
「おい、そんな適当な感じで大丈夫なのか?」
長老がジゼルに意見している。
今エルフとジゼル、それにベンは村の水路開始地点に来ていた。
長老が心配するのも当然だ、この水路には村の行く末がかかっている。
「地図も見せたし、問題ないだろう。竜種は他の魔物たちよりも遥かに頭がいい。お前達エルフも流石に知っているだろう?」
「…っく…それに我々はまだお前を完全に許したわけじゃない」
長老の話が少しだけずれていく。
「それに関しては悪かったと思っている。人族との戦いを通して、私も仲間や恋人を失う辛さを経験した。…仕方がなかったから許せという気はない」
ジゼルが地面の振動を頼りに、ベンが進んでいく方向へと歩く。
地面を補装しながら掘り進んでいるので、そこまで速くはない。
地面の補装方法は土属性魔法だ。
そうして歩いていくジゼルの後ろを長老が付いていく。
「私もすまなかったな。少し熱くなってしまった。なぁ、まじめな話、二手に分かれないか?」
「二手に分かれる?」
ジゼルが長老の方に顔だけ向けた。
「つまりだな、ベンが掘った地中の経路を後ろからついて行く者、地上からベンについて行って経路の安全を確保する者の二つだ」
長老は作業の効率化を提案した。
地上の確認も重要だが、地中の確認も重要だろう。
二往復するよりも、一度にやってしまったほうがいい。
「…なるほど。であれば私だけが分かれるのが効率がいいだろうな」
ジゼルは長老以外のエルフの方を見る。
彼らは皆一様にジゼルから一定の距離を取っていた。
その目に映るのは恐怖と、そして憎しみだった。
長老も完全に割り切っているわけではないが、今がその時ではないと理解している。
目標のある未来に向かって歩いている時に、よそ見をするのは危険だ。
ジゼルは他のエルフ達に気を使い、地中に潜ることを決めた。
これでは仕事にならないだろう。
「私が地中に潜る。地上は頼んだぞ」
「わかった」
長老が頷いた。
「ベン、穴を開けてくれ」
ジゼルが地中に向かって話しかけた。
ジゼルとベンの間には分厚い土の壁がある。
それなのにベンは正確にジゼルの声を聞き取った。
地面に突然穴が開く。
ジゼルは一瞬も迷うことなく、その穴に飛び込んだ。
そして少しすれば、邪魔なその穴はふさがった。
ジゼルは穴を掘るベンの後ろをついていく。
「はぁ…そう簡単にわだかまりが解けるとは思っていないが…どうしてイクスは私にこの役目を頼んだのだ。エルフ達が未だに私に怒りを燃やしているのは分かり切っているだろうに」
「ンボッ(これをチャンスにしろってことよ。気にせず頑張れよ)」
ベンが返事をする。
しかしジゼルにベンの言葉の意味を理解することはできない。
だからベンの言葉の意味を想像で埋めてしまう。
「そういってくれるか。頑張ってみるよ。自身はないけどな」
「ンボッ(そうさ!なんでも気合いさ!)」
あながち間違っていない。
ジゼルは落ち込むのは後回しにし、ベンの作る水路を見る。
水路は予定通り出来上がりつつある。
ジゼルは水路がゆっくりと完成していく様子を見て、自分も少しずつ歩み寄っていこうと思った。




