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第十話

「…ティナ…お前は…世界を見てみたいと思うか?」


 長老がティナの方を向いた。


「私は…世界を見てみたいです。それに…もう大切な人たちを失いたくありません」


 ティナのその目を見れば、彼女が何を考えているか長老にはわかった。


「失いたくないなら…我々が変わるしかないのか」


 長老はこの場についてきた実力のあるエルフ達へ次々に視線を送った。


 そしてそれぞれのエルフは頷くことを返事とした。


「…わかった。我々は君を受け入れよう」


 長老がこちらに手を差し出してきた。


 もちろん俺も、それに心よく対応する。


 この時の俺は、この握手が後に世界中を揺るがすことになるとは知らなかった。


 ●


「イクス…やはり私は納得できない!」


 現状長老は俺に猛講義をしている最中だ。


 俺は長老って呼び続けるつもりだけど、本名はラクレットというらしい。


 とりあえず長老は放置する。


 そういえば、俺は無事エルフと共同生活できることになった。


 エルフ達は現集落を捨て、取り戻した集落跡に戻ってくる。


 どうもここにある祭壇は想像以上に大切なものらしく、本当は候補に入るどころではなく、即刻戻りたいところだったらしい。


 それでも国を作るには規模が小さいから、もうちょっと頑張んなきゃいけないけどな。


 -お前これ…大丈夫か?-


 まぁもっとも、当面の目標はこの森の制覇ってところか。


 -なぁ…これいくら何でも酷いと思うぞ-


 今俺は長老からまだ空いている土地を紹介され、集落の中に俺の家を建てている。


 家なんか作ったことないけど、何とかなるものだ。


 -お…おい。正気か?これかなりひどいのだ-


 はぁ…さっきから魔王までうるさいな。


 もしかしてこの芸術的建築について文句でもあるのかな?


 -いや…巻きグソじゃんこれ。この集落で最高に異質なんだけど-


 なに言ってんだか。


 こんなに美しいとぐろ巻き、俺にしか作れないよ。


「い、イクスさんに…こんな趣味があったなんて」


 おっと、ティナも俺の芸術を見に来たのかな?


 俺がティナの驚く表情を楽しみに、その顔を見たが、絶望していた。


 -当然の反応なのだ-


「全く、この芸術が理解できないなんて…残念だよ。みんな」


 俺が早速とぐろ巻きハウスに入ろうとしたら、突然地面が揺れ始めた。


 何事かとエルフ達が騒ぎ始める。


 揺れはかなり強い。


 それでも俺がドアノブに手をかけた瞬間、それは起きた。


「お、俺の家がーーーーー!?」


「ンボッ」


 そう、俺の作った超高機能とぐろ巻き大便ハウス(これといった特別な機能なし、言いたいだけ)が地面から突然出現したベンによって破壊されたのだ。


 -大便ハウスがベンになったのだ!?-


「う、嘘だ…半日かかったのに。俺の大便ハウスが…」


「ンボッ」


 -ただいまって言っているのだ-


「べ…ベン生きてたのか。それはそれでよかったけど、俺の家を壊すなんて…」


「ンボッ」


 -ベンもお前が生きていて喜んでいるのだ-


「これで…俺の住む家はなくなった。もう…終わりだ」


 俺はどうしようもない絶望感に地面へと倒れた。


 そんな俺の側に、ティナが寄ってくる。


「あ…あの、良ければなんですけど、うちに来ませんか?わ、私…イクスさんなら歓迎しますし、いっぱいもてなしちゃいますよ?」


 ティナは顔を真っ赤にし、もじもじとしている。


 熱がある状態でトイレを我慢しているようだ。


 -え、お前頭イカれてるの??ペペトトス吸った?-


「だ、ダメだ!お父さん許しませんよ!こんなどこのゴキブリの触角かも分からない奴なんか、同じ家に住むのなんて反対!」


 長老が変な口調でティナにまくしたてている。


 -「どこの馬の骨」みたいな感じで「ゴキブリの触角」を使っているのだ-


「…そういえばアースドラゴンって、文字通り地をつかさどっているんだろ?ベンは家とか作れないのか?」


「ンボッ」


 -周りにある家と同じ感じでいいのかって聞いているのだ-


「…とぐろ巻きハウ…」


 -嫌なのだ。金輪際力を貸さない可能性すらあるのだ。普通の家なのだ-


「周りの家と同じ感じでお願いします」


「ンボッ」


 -間取りを聞いているのだ-


「…二階建てで…住むのは俺だけじゃないから…う~ん」


 俺は地面に一階の図面、二階の図面を木の棒で書き上げた。


 ちなみに、一階がリビング、キッチン、風呂場。二階が同じくらいの部屋二部屋で、それぞれが寝室になっている。トイレはどちらの階にもある。


「ちょっと待ってください!」


 ティナが突然大きな声で制止してきた。


「え?どうしたの?」


「そ…その、もしかして…ジゼルさんと一緒に?」


 おそらく図面にある二階の二部屋を見て、そう聞いたのだろう。


 もちろん一緒に生活する上で、エルフ達にジゼルのことは話した。


 ジゼルは今この場にはいない。


 自分が殺めたエルフ達の墓を掘って埋葬している。


 長老が抗議してきているのは、このことだった。


「やはり我々は…同族を殺した者を受け入れられない。それに…魔族は危険だ」


 長老が言い辛そうに口に出した。


 だが俺の結論が変わることはない。


「でも長老は俺を殺そうとしたよね?」


「グッ!?それとこれとは話は別だろ!」


「同じだよ。彼女も、自分に必要だったからそうした。エルフも、俺という存在が邪魔だったからそうしたんだ。何も彼女を許せと言っているわけじゃない。彼女のこれからを見て欲しいんだ。それに…きっと俺たちがこれからやろうとしていることには力が必要になる。彼女以上にそれができる人が、エルフ達の中にいる?」


 俺は長老の方を見た。


 長老は悔しそうにすることしかできない。


 彼女よりもエルフ達が強ければ、この集落を奪われていなかっただろう。


「そんなことを言っているんじゃありません!」


 ティナが大きな声で割り込んできた。


「だ、男女二人の共同生活なんて…け、けがれています!」


「え?」


「そんなけがれた生活は私が許しません!二階の部屋は三部屋にしてください!私が一緒に住めば、不浄も浄化されます!」


「え?いいよ、悪いし。ちゃんとお風呂に入るから、汚くないし」


 俺はティナの話に冷静に答えた。


 俺の返事に長老がホッとした表情になる。


 -お前の脳みそに洗浄が必要なのだ。汚れがひどくてうまく動いていないのだ-


「そ…そんなぁ…」


 ティナがまるでこの世の終わりみたいな表情をしている。


 何がそんなに彼女をやる気にさせるのか理解できない。


 -ティナは家事とかできそうなのだ。お前は家事とかできるのか?-


 魔王が不意にそんなことを聞いてきた。


 …確かに俺に生活能力はないな。


 -ティナがいれば炊事洗濯家事おやじ、全部やってくれるかもしれないのだ-


 …正直初めての一人暮らし…いや、二人暮らしか。


 とりあえず自立した生活への不安があった。


 もしもそれをティナ一台で解決できるというのなら…。


 -え?家具としてカウントしてない?一台って言ってる-


「ティナ…君さえよければ是非一緒に生活してくれたまえ」


 -何その口調?-


「え?いいんですか!?や、やったぁ!!」


 ティナは俺の想像以上に喜んでいる。


 俺はさっそうと二階の図面にもう一部屋書き加えた。


「ダメだ!そんなことは神が許しても私が許さんぞ!」


 今度は長老が大きな声を出した。親子ともども似ている。


「お父さん…?」


 ティナが実の父親に向かって、アサシンもびっくりの殺意を向けた。


「な…ティナ?そ、そんな…どうしてだ?」


「私…今回は譲る気ないよ?」


 今回は…おそらく俺の処刑に関する話だろう。


 おそらくあの時彼女と父の元で何らかの交渉があった。


 その件を示唆しているのではないだろうか。


「うぐ…わかった。観念しよう」


 最後に長老は悔しそうに俺の方を見た。


「む、娘に手を出したら承知しないからな!」


 そういって長老は走り去っていった。


 ジゼルの件も上手くうやむやにできたし、良しとしよう。


「それじゃぁベン、これで頼む」


「ンボッ」


 ベンは暫く図面を眺めた。


「ンボッ」


 ベンがそういうと、長老から許可を取った土地に突然魔法陣が現れた。


 そして地面から家が生えてきた。


 エルフ達の集落にある家と、遜色ない家が。


「す、凄いよベン。感心した!」


 俺は早速家に入り、内装を確認した。全ては注文の間取り通り、完璧だった。


 後はジゼル、ティナ、俺の三人で部屋割りを決めるだけだろう。


 そう考えていると、ジゼルが丁度家に帰ってきた。


「お帰り、ジゼル」


「これが…二人の家か?結構立派なんだな」


 ジゼルが新しい家を眺めている。


「これは()()の家ですよ!」


 ティナがやけに三人を強調していった。


 まぁ何はともあれ、家が出来てよかった。


 ●


 家完成の夜。


 リビングで待っていると、包丁のトントンという音がリズムよく響いてくる。


 料理の匂いもとてもよく、鼻を通り抜ける匂いは素晴らしかった。


「ど…どうしてあなたも料理普通にできるんですか?ていうか私よりも…」


 ティナがどことなく悔しそうにつぶやいた。


 非常に小さな声だったが、俺の耳には問題なく聞こえる。


「普通だろこれくらい」


 ジゼルが包丁をまるで手の一部のように動かしていく。


 その手さばきは、一流の料理人すら弟子入りを懇願するほどのものだ。


「ま、まぁこういうのは…料理だけではないですし、問題ないです」


 ティナも一生懸命料理を作っている。


 夕飯の後、なぜかティナとジゼルが一緒に風呂場に向かっていった。


 その後、ティナの絶望するような叫び声が風呂場から聞こえた。


 なんとなくくだらないことだろうと思ったから、俺は眠りについた。

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