96話
桐山かえでは、定期的に魔法教会に通うことになった。
表向きは瑠璃男さんの新しい秘書として、実際には『異世界人の身体的特徴がないか』や『無くなった記憶を呼び起こすことが出来ないのか』という一応検査名目の尋問を行うためだ。
正直少女の女神が願う平穏とは程遠い生活なんだが、本人はいたって元気で通っている。
名目上の仕事とはいえ、瑠璃男さんの秘書であるためちょくちょくと顔を合わすことになった。
あの恐ろしい系の女性が、こうも変わるのかと思うぐらい明るく接してくる。
まあ、ほどほどに警戒はしているけど今の処危険があるようには見えない。
良かった。
落ち着くところに落ち着いたという感じがする。
かえでさんは、俺より年上ではあるがこの世界のことを俺以上に知らないなしく、少々危なっかしい。
見るに見かねて送り迎えが毎日行われる。
そのお陰で、俺としても役得が生じる。
学校からの帰り、俺の隣に一人の少女が肩を並べて歩いている。
桐山さくら、桐山かえでの義理の妹だ。
そう、教室の中でいまいち接点がないように見られがちな俺達が、一緒に下校するようになったんだ。
草葉の影や道の途中の壁の向こうでは、俺に対する怨嗟の声が響いている。
それを聞く俺は、少々複雑な気分だ。
前の世界での俺は、間違いなく彼らの一人だっただろう。
しかし、苦い経験をしている俺は一時の恥なんてかなぐり捨てて行動している。
教室での公開告白やそのあとの追い回し事件を経て、こうしてこの位置を確保することが出来たんだ。
彼らにもこの経験から学んでほしい。行動しないものに得るものは無いということを。
「ちょっと、もう少しは慣れて歩いてくれる? 勘違いされるでしょ」
そう、今や本人も勘違いされるかもしれないという立ち位置に俺は立っているんだ。
・・・・・・いや、勘違いされることを嫌がられてるのか?
って言うことは、初期の位置に戻っただけか?
ただ単にマイナスだったのがプラマイ0に戻っただけ?
いやいやいやいや、それでもマイナスをプラス方向にもどすことがどんだけ難しいことか!
そう、これは間違いなく進歩といって良いだろう。
そんな益体のない平和な日常を謳歌していると、面倒ごとが向こうからやってくるもの。
魔法教会に着くと桐山は義姉の元に、俺は瑠璃男さんの所に向かう。
その途中、俺の隣を小さな男の子が走り抜ける。
この場所で滅多に見ない光景ではあったが、まあ、日常的に神様という非日常と接している俺はあまり気にしなかった。
だが、桐山はそうでは無いらしい。
なにやら注意深く子供を観察していたと思ったら、そのあとを必死に追いかけ始めた。
つられて俺の走り出したけど、この先には瑠璃男さんの部屋と応接室しかない。
ということは、前を走る子供の行き先は瑠璃男さんの部屋だろう。
そしてこの男の子は、神様に違いない。
ならそんなに急ぐ必要もないと思うんだけど、桐山の速度は落ちるどころかその速さを増した。
勢いよく男の子が瑠璃男さんの部屋に入っていくと、少々舌足らずな声が響いた。
「桐山の娘よ、一晩でかまわん! 我と閨をともにしてはくれまいか!!」
遅れて部屋に侵入する俺と桐山。
そこには桐山かえでに膝をついて、同衾を懇願する男の子と困った顔を浮かべるかえでさん。
そして腹を抱えて笑っているキツネと少年の神様。
頭を抱える瑠璃男さんと少女の神様。
アレかな? 女性を見たら口説かないと失礼に当たると思っている向こうの神様なのかな。
まあ、あっちの神様は色々と女性関係酷いことになってるしね。
しょうがないしょうがない。
「このっ! ナンパ神! いい加減にしなさいよ」
桐山の声が響く。・・・・・・ん? 桐山の顔見知りの神様なのかな?
「良いではないか! 家では八雲の監視が厳しくて近ずくこともできんのだ、ここしかチャンスがないんじゃ!」
家では? あれ、ということは同居している女性を職場で誘ってるのか?
ははぁ~ん、さてはこの神様も残念な神様の一員か。
まったく、魔法教会に出入りする神様ってこんなんばっかりだな。
「###、言われてるで?」
「はあ? あんたの事だろ」
いや、すべからく全員そうだと思てますけど?
「我は桐山八雲を庇護しておる鬼神じゃ。数奇な運命にある魔術師よ、今後ともよしなに」
床に正座させられている男の子は、自分を鬼神と名乗った。
一応そこそこ有名な神様らしい。が、俺には皆目見当もつかない。
そして同じく床に正座させられている俺も自己紹介を行う。
「斉藤哲夫です。今後とも末永くよろしくお願いいたします」
桐山家に住み着いている神様なんだから、失礼があってはいけない。
将来頻繁に顔を合わせることになるだろうから。
「おーおー、必死やな。モテない同士仲良うしときな、末永くな」
「そうそう、加速空間で30年ぐらい仲良くしてくると良い」
「帰ってこなくていいわよ?」
え?
怒れる二柱と一人の少女は、俺と鬼神を冷ややかな目で見降ろしながら宣告を行う。
言葉を理解することには俺と小さな鬼神を除く周りの景色が、黒く塗りつぶされていった。
「さて、始めるかの」
「始めるって・・・・・・何を?」
「謝罪と戦闘の訓練じゃ」
謝罪と・・・・・・戦闘? 訓練?
あの・・・・・・ごめんなさい、意味が分からないです。
次回投稿は03/10を予定しております。
では、次回投稿で。




