91話
奈落に落ちる瞬間、底に光が見えた気がした。
神様たちからは聞いていない地下の空間。
仮にこの建物が本当に要塞として機能するなら、地下があっても不思議ではない。
だけど、神様が嘘を言う必要性が感じられない。
間違いなく、過去の自分の行いに恥じていたように思うし、何よりこの世界にこの施設が必要だとは思えない。
ということは、この地下空間は薔薇鉤十字騎士団の連中が創ったという可能性が高い。
そして、その場所に光が灯っているなら、敵の本丸にご招待いただいた可能性が非常に高い。
・・・・・・それにしても、深くないか?
結構な時間落ちてると思うんですけど?
コレ、そのまま行ったら逝っちゃうんじゃないか?
スーツの回復の加護を使用したまま、刀や剣、槍を側壁に突き立てて減速を図る。
よくあるアクションのように感じたが、やっぱりあれ、フィクションだわ。
一回一回、脱臼するほどの衝撃を受けながら、その度に回復の加護で脱臼状態から戻り繰り返し減速していく。
光がだんだんと近づいて、ようやく底が見えて来た。
最後には減速しきれなかった衝撃を全身に受けて、地面の有り難さを全身で噛みしめる。
落ちて来た奈落は、広間に繋がっていた。
仄かに光る広い空間。
そこに一組の男女が浮かび上がる。
椅子の背もたれに寄りかかっている男、そしてそいつを背もたれごと抱きしめている女。
幸いにも、二人の方に顔を向けて落ちた為、気を失ったふりをして様子を観察する。
・・・・・・今回は、どんな変態なんだろうか?
もしかしたら、意外とまともかもしれないという淡い期待は、二人目の幹部の時に捨て去った。
期待をしないのであれば、どんな衝撃も受け入れる準備が必要だ。
そのために観察を試みたんだが・・・・・・失敗だった。
二人の会話が聞こえてくる。
「あら、ダーリン。誰か来たみたいよ?」
「まったく、二人の愛の巣に。無粋なやつもいたもんだな」
女性らしい声と若干高さが残る男らしき声。
・・・・・・いやいやいや、そんな訳ないって。
ハイトーンボイスなだけだよな?
薄目で二人を観察すると、奇妙なことに女は動いているのに椅子に座っている男は微動だにしない。
「あら? 彼ってもしかして達夫君じゃない?」
「達夫? 誰だそれは? 俺の知らない男の名前を口にするなんていけないお口だね」
うわぁ~、ダメだぁ~!
薄目である事を感謝するべきか、この光景を見せられている不幸を呪うべきか。
目が暗がりに慣れてきたおかげで、二人の関係が分かって来た。
全身に鳥肌が立つのがよくわかった。
大抵の事には許容するつもりだった。
けど、これは駄目だぁ~!!
男が微動だにしない理由。
それは動けるはずもないから。
関節はあるんだろうけど、何と言うか。動力的な問題? といえばいいんだろうか?
はっきりと言ってしまえば、マネキンだ。
マネキンであるなら、声が聴こえるのがおかしい。
だが、彼女は一人二役で会話を成立させている。
・・・・・・会話で良いんだよな?
一人芝居といえばいいんだろうか?
それを見せつけられる不快感。
お芝居でならそれはそれで一演目だから、それでいい。
見に行くならそういうものだと、理解できているから。
でも、この状況はつらい。
見たくもない一人芝居を延々と。
しかも、人形相手にイチャイチャと。
無機物相手ってやっぱり、俺には無理だぁ~。
はぁ~! この人怖いよ~!!
女の目が俺の方に向けられる。
驚きと恐怖で思わず目を閉じてしまう。
やっちまった。絶対にばれたな。
仕方がない、起きるか。
出来れば、このまま帰りたい気分だけど。
相手が遺跡核を持っているんだろうから、そうもいかないよな。
ゆっくりと起き上がり、女の方を見る。
桐山ほどではないが、可愛い部類の顔立ち。
しかし、その目が元の可愛い顔立ちを台無しにしている。
座った目、そしてその周りには隈が浮んでいる。
「あらぁ~、やっぱり達夫君じゃない! 久しぶり~」
暗い雰囲気漂う女の口から、やけに陽気な口調で話しかけられる。
その陽気さとは裏腹に、向けられる目線はキツさを伴っている。
「ほう、君が達夫君か。私の天使がお世話になっているみたいだね」
人形の方はやけにフレンドリーな感じだ。
まあ、同じ人なんですけどね。
「返事もできないなんて、達夫君。ちょっと見ないうちに随分と暗い性格になったみたいねぇ~」
いや、あなたに言われたくないです。
そして、女の目線が俺の手に向けられる。
「あっ! その手・・・・・・駄目よ? 人の物に手を付けちゃ、私みたいな優秀な魔法使いの餌食になっちゃうからぁ~」
口調は確かに笑っている。
けど、その目は一ミリも笑っていない。
これがお芝居なら、コイツはとんだ大根役者だな。
「ハハハ、ハニーほどの使い手相手なら仕方がないさ!」
「うわぁ~・・・・・・」
思わず口にしてしまった心の声。
それを聞くと殺意を込めて俺に視線を投げる。
「なに? 何か文句があるの?」
女が苛立たしそうに指を鳴らす。
俺のすぐ近くで小さな爆発が起きる。
思わず身をかがめてしまう。
何だ? 何をした?
魔法・・・・・・だよな?
指を鳴らすと爆発が起きる魔法?
「アハハ、ビックリしちゃった? 大丈夫、まだ当てないから。でも、不用意に動かない方がいいわよぉ~。そこら辺は地雷がいっぱいだからねぇ~」
地雷? 設置型の魔法ってことか?
警報以外にもこんな魔法があったのか。
起爆方法は・・・・・・音? いや、だったら仕掛けてあるという地雷全て起爆しないとおかしいな。
任意で爆発・・・・・・は、指を鳴らす必要がないよな?
指を鳴らす瞬間に、魔力を送っているのか?
ちょっと検証したくなり、鍛造したナイフを離れた地面に投げつける。
そしてそのナイフを消してみる。
消える瞬間、そこにはわずかに魔力が立ち上る。
わずかな時間をおいて、爆発音がこだまする。
思わず口角が上がってしまう。
驚いた表情の女が、完全に敵意を向けてくる。
今までのような、嘲笑交じりの敵意ではなく純粋な敵意を。
「あれ? 彼氏しゃべらなくなったけど、大丈夫?」
俺の言葉には、完全に嘲笑が混じっていた。
次回投稿は02/28を予定しております。
では、次回投稿で。




