88話
キツネは2、3日姿を現すことが無かったが、直ぐにいつも通りのキツネが戻ってきた。
俺が訪れると冗談を交えながら、努めて明るく振る舞っているかのように見えた。
であるなら、俺はそれに対していつも通りに振る舞わなくてはならない。
そうすることがこの悲しみを抱えた神様に対する敬意だと思ったから。
あと数日で年が変わる。
面倒ごとを年内に消化できなかったのは、はなはだ残念ではあった。特に借金が無くならないのはこの上なく無常を感じずにはいられないが今日も仕事に勤しむとしよう。
・・・・・・俺に仕事納めって訪れるのかな?
まあ、借金が多いからもらえる仕事はやるけどさ。
いつもの瑠璃男さんの部屋に行くと、直ぐに別の部屋に連れていかれる。
瑠璃男さんの部屋の隣にある応接室。
滅多に使われることのない、開かずの間とかした部屋が開け放たれている。
通常、キツネたち以外の神様が訪れても使われることのない応接室。
今回の神様は、どんなえらい神様なんだろうか?
扉が開かれ、後ろ姿が見える。
多面でもなくましてや多肢、鳥面でもない。
至極普通の人型をした姿が見える。
正面に回ってみてもごく普通の人の顔がそこにあった。
しかも極一般的な日本人の顔をしている。
そして何故か俺の方を強くにらんでいる。
俺と面識のある神様か? ・・・・・・いや、覚えがない。
まあ、出会ってきた神様はどれも特徴的な神様ばかりだしな。
印象の薄かった神様か?
分からないけど、取りあえず大人しくしておこう。
「ようこそおいで下さりました、探索者桐山殿。こちらが我らが魔法教会が誇る特級魔術師、100万の鍛冶師です」
瑠璃男さんが俺と目の前の男を紹介する。・・・・・・名前を紹介したってことは、なんだ、人間だったのか。
それにしても、特級魔術師だのミリオンスミスだのその紹介は、やめてもらえませんかね?
・・・・・・? あれ? 今、桐山って言った?
紹介がされたにもかかわらず、未だに俺を睨んでいる男の人。
いや、まさかな。
同じ苗字なだけだよ。
あ、そうか。俺が先にあいさつしないから。
「斎藤哲夫です。よろしくお願いいたします」
頭を下げ、あげたと同時に手を差し出す。
「どうも、桐山八雲といいます。娘のさくらが色々とお世話になっているようで」
・・・・・・マジかよ。この人が桐山さくらの親父さんか。
色々な話を耳にされているようで。
手が物凄く痛いけど、ここは甘んじて受け入れよう。
◇ ◇ ◇
桐山八雲、魔術師からしたら知っていなくてはいけない人物。知らなかったのは俺ぐらいのものだろう。
自分の仕事の都合上、関わらざるを得ない人物だから。
盗掘師ギルド頭目の家系にあり、その現当主が桐山八雲氏その人だからだ。
遺跡を求める少々問題のある団体とそれを阻む魔法教会、双方に情報を供与し利益を貪る無法者の印象があったが桐山八雲氏は見た目は至極常識人に見える。
まあ、娘への執着も人の親であれば常識的範囲だろう。
俺としては、いきなり殴られないだけでも十分優しい対応をしてもらってる。
なぜ盗掘師の頭目が魔法教会を訪れたかといえば、神様に用事があるという。
この常識人に見えるジェントルが、なぜ常識外の神様に用を頼むのだろうか?
そして、なぜ俺がその席に並ばないといけないのだろうか?
「おお! やっちゃん。久しぶりやな」
「やっちゃんはやめていただきたいですね。眷属殿」
キツネが現れ八雲氏と話している。
その態度はいつものキツネのように感じる。
うん、無理をしているような様子はないな。
俺に分かるようなら、そもそも担当を変わってるか。
そんな事を考えながら、ふとおかしな心配をしていることに気が付く。
相手は神様で、少なくとも千年単位で生きている。俺はといえば30余年しか生きていない。
神様から見ればまだ生まれて間もない赤ん坊のようなものだろう。
逆に俺の方が危うく見えていることだろう。
「で? 何の用やねん。あの件なら多分答えは変わらんよ」
「いえいえ、その件はもう・・・・・・今回は少々手違いが起きましてね。ランク外の情報が洩れました」
「はあ、まあ今年は少なかったから安心しきってたけど。そうかぁ~」
キツネが額を抑えて深いため息をつく。
そもそも遺跡にはランクと言うものが有る。
言い換えれば、危険度だ。
酒船石の様に比較的誰でも使用可能な遺跡には、ランクが設定されている。
危険度の高い遺跡に関しては、教会への情報提供が優先される。
因みに酒船石は下から3番目のランクで、比較的安全な遺跡ということになっている。
それよりも初仕事の帰命山の遺跡の方が危険度は高く、ランク上位の遺跡となっている。
何故なら、危険度とは神様への信仰がどの程度揺らぐかが基準になっている。
即ち、効果が問題なく発現し効果が実感できるものほど低くなる。
効果が発現しない、またはどうしようもない効果しか発現しない遺跡の方がランクが高いということになる。
要するに、神様の基準でありそこに人は介在しない。
人的被害も二の次だ。
しかし、なんにでも例外がある。
それが神様の下半身に係わる遺跡、それがランク外の遺跡ということになる。
製作した神様が限定的に使用できる遺跡にも拘らず、何故か人が使用できてしまう。この世界での七不思議に挙げて良い代物。
なるほど、俺が呼ばれるわけだ。
というか、ほとんど俺専門の仕事のような気がしてならない。
ある程度事情を分かっていて、情報が洩れずらく、神様への信仰に影響が出ない魔術師。
そんな条件は俺ぐらいしか有していないだろうからな。
しかし、疑問が残る。
キツネが八雲氏の依頼を了承し、八雲氏は部屋を後にする。
どうしても疑問を解消したくて、俺は瑠璃男さんとキツネにその疑問を問いかける。
「あの・・・・・・なんで、ランク外かランク内か判断できるの。あの八雲さんは」
そう、人間である八雲氏にその効果を知るすべがあるのがそもそもおかしな話だ。
代々続いている家の当主と言う事は、桐山さくらの母親の様に異世界人ではない。
この世界で生まれ育った、れっきとしたこの世界の住人だろう。
その人が何故、神様にとって危険な遺跡であるかどうかを判断できるのだろうか?
そもそも、この世界の管理者でさえ知りえない情報を何故知りえているのか。
考えてみれば、盗掘師という職業があること自体おかしなことなのだ。
「まあ、そう考えるのが普通やな。ラズリーにも聞かれたことあったしな」
「ええ、現役の魔術師だったころでしたね」
「哲夫君、遺跡を知る遺跡があったとしたらどうや」
え? すっごく便利じゃないか。どんな相手にも先んじて情報を・・・・・・あ!
「そういうことや、『桐山文書』言うてな。正式な名前すらわからん、製作者も不明な本来教会が保有していなくちゃいかん遺跡が、あの男の手にあるんや」
それに加えてギルド構成員の足もある訳だ。
それじゃ教会は勝てないな。
「・・・・・・就職先、間違ったかな」
「いや、キミじゃクビになるやろ。遺跡に触れられんのやから」
・・・・・・そういやそうだった。
さて、仕事いこうか。
次回投稿は02/22を予定しています。
では、次回投稿で。




