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86話

 年の瀬、いわゆる師走と言う奴だ。

 世の中色々と忙しいようで、坊主もホウキに乗って東奔西走する時期。

 ・・・・・・なんで、この世界に仏教徒がいるんだろうか?

 目の錯覚かな? ま、まあ、仏も神の一種ということにしておこう。

 色々ややこしいことになりそうだからな。

 そんな訳で、色々と忙しい人の所には人手が必要になる。

 人手が必要と言う事は、交渉次第で臨時収入のチャンスがあるということだ。

 絶対にモノにしたい臨時収入!!! 少しでも借金返済にあてたい。

 またしても俺を蝕む、借金という恐怖。

 それを解消するには、今の仕事だけでは足りないのだ。

 よって、持っていそうな人から分けてもらいに魔法教会にやって来た。


 俺はこの世界に伝手がない。いや、少ないと言っておこう。

 そしてその少ない伝手を使わないと、年も越せない。

 流石の野草たちも、この時期の寒さには勝てないらしい。

 かれこれ、二日は口にモノを運んでいない。

 はっきり言って、ひもじい!!

 何でもいい、せめて暖かい物を恵んでもらえないと寒さにやられてしまう。

「そんな訳で、何か仕事をください!!! トイレ掃除でもなんでもします!!!!」

 瑠璃男さんの部屋に突入後、初手土下座を敢行。

 憐れみで、何かを恵みたくなるだろう!? さあ! 俺に今日の糧をください!!

「・・・・・・」

 あれ? 返事がない。


 頭を上げて辺りを見回すと、部屋の主である瑠璃男さんの姿がない。

 いるのは、キツネだけだ。

 って! いるなら返事してよ!!

「アホかい、忙しいから外で遊んでき」

 え? コイツ・・・・・・俺がどんな状況か分かってて突き放してんの?

 おかしくない?

「学校での一件、忘れた訳やないよな? 大変やってんで? 後始末」

「やだなぁ~! 忘れたわけないじゃないですかぁ~! 感謝してますって、お稲荷様」

「それ別のひとな」

 キツネは俺の方を見ずに何かをいじっている。

 丁寧に丁寧に、何かを磨いている。

 覗き込んでみると何やら箱のようなものがキツネの腕の中にあった。


「何それ? ・・・・・・賽銭箱?」

「ちょっとお稲荷さんから離れようか、・・・・・・こいつはな、ワシの友人の形見やねん」

 友人の形見か。

 キツネの友人か・・・・・・え? 神様って死ぬの!?

「そりゃどうにかすれば、死ぬやろ。一応生きてんねんから。・・・・・・ちゃうで? コレ人が創ったもんやからな?」

 え? 人間の友達なんていたの?

「失礼な! これでも友達多いねんで? キミと違って」

 ぐふっ! 的確に悪口を挟んでくるとは・・・・・・。

「で? それなに?」

「はぁ、キミに分かりやすいように言うとやな・・・・・・アンティキティラの機械の改良版や」

 ああ、アレか・・・・・・!!!!!

「ええええええええええ!!!!!!!!!!!! な、な、何でそんな物が!! え? えええ!?」

「やかましい!! やかましいわ! 耳元で叫ぶな、この大きな耳は飾りや無いんやで!?」


 え!? だって、だって、あの有名な古代の機械じゃないですか!?

 ギリシャのアレ!! 天体の動きを計算できるって言うあれ!!

「ホンマにうるさいなぁ~! そう、それやそれ!」

「何であるの!? 何で持ってるの!?」

「製作者にもろたんやけど?」

 ええええええええええええ!!!!!!!!!!! 作った人知ってるの!?

 どんな人!? ねえ! どんな人!?

「ええ・・・・・・えらい喰いつくやん。・・・・・・まあ、話してやるかぁ~」

 キツネはさも面倒臭そうに話し始めた。

「あれは、そうやな・・・・・・ワシが神様になりたてのころかな――」

 キツネが神様になったとき、この地に降り立つとそこはまだ、古代と言って良いような時代だったそうだ。

 初めての降臨で、少々降り立つ時代を間違った。・・・・・・時代を間違えるってなに?

 その頃のキツネは少しヤサグレていて、神様の仕事なんてする気もなかったらしい。

「そんな訳で、どうせなら行ったことない所で遊んどこ思ってな。とある島に隠れてたんや」

 

 しかし、この世界で神様がまともに隠れられる訳も無く早々に現地人に発見され、崇め奉られてしまったそうだ。

 その島はその時代においては、魔法より科学に傾倒する人が多い島だったらしい。

 そんな中、一人の技師にキツネは出会った。

「ソイツな、技師の癖に夢見がちでな。いつか宇宙を飛んでみたいとか言ってたんや。けどな、ワシ一応神様やからあの忌々しい『黒騎士(ブラックナイト)』の事は伝えとかないかんかなぁ~って思って、やめろいうったんや」

 そうしたら、その技師は何故か逆に燃え上がり何時の日か黒騎士を壊して宇宙に上がると言い切った。

 そのためには、壊すべき黒騎士の位置を特定しなくてはいけない。

 そう言って、とある機械の開発に勤しんだ。

「それが、これや」

 キツネが箱を置き、天井部分をポンと叩くと箱の上部から一条の光が発せられ、目まぐるしく動き出したかと思うと天井のある一点を指し示し動かなくなった。

「この先には、確かに黒騎士がある。あるんやけど・・・・・・結局、そいつはこれを作るのに一生を費やしてしもたんや」

 人の一生のなんと短いことか。夢の障害を排除するための最初の一歩だけで、持ち得る時間の全てを消費してしまったのか。

 ・・・・・・どんなに無念だったんだろうか。

「哲夫君、それは違うで。ソイツな・・・・・・笑って逝きよった」


 キツネはそう言うといつもは見せない様な、優しい顔になった。

 キツネにとって夢に一生をかけた友人が誇らしいのかもしれない。

「一生をかけてもやりたいことなんて、人間だった時にも見つけたことないしな? ワシ、ソイツの顔見て思い出したんや。やりたいこと」

 一瞬キツネの目が鋭く見えたのは、気のせいかもしれない。

 でも、その人のお陰で今のキツネがあるんだとしたらその人にはお礼を言いたい。

 不貞腐れてるキツネなんかのそばに寄りたくないからな。

「ソイツの遺言でな、いつか自分のような馬鹿にあったらこいつをくれてやってくれってな。だから、たまに整備してやらんと。壊れたら申し訳ないしな」

 キツネと友人の約束は、未だに果たされてはいない。

 いつか、この約束が結実する時は来るのだろうか?


「おお、それまだ持ってたんだ?」

 俺とキツネしかいない部屋で、何者かの声が響く。

 キツネがそこ声に反応して、尻尾を床に打ち付ける。

 すると、部屋の片隅に青白い炎の檻が出来ていた。

「まったく、ここの警備はどないなっとんねん。姿現せ! 丸焦げになりたくないやろ!」

「まったくはこっちのセリフだよ。変わってないね」

 炎の檻の中が揺らめいたと思うと、そこには一人の男がいた。

 口ぶりからキツネの顔見知りかと思ったんだけど・・・・・・そうでは無いらしい。

 キツネはその牙をむき出しにして、男を威嚇している。

「誰や、なれなれしい」

「あれ? 流石に分からないかな? 俺だよ、ホメ坊って言えばわかる?」

「・・・・・・っ! う、嘘やろ。なんで・・・・・・」

 キツネの牙がゆっくりとしまわれていく。

 代わりに、俺の魔力がゆっくりと脈動を始めた。

 

次回投稿は02/18を予定しております。

では、次回投稿で。

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