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79話

 お、落ち着くんだ俺! 大丈夫! 俺はノーマル、何故なら俺がそう思っているからそうに違いない!!

 大体、人がアブノーマルかどうかなんて、主観でしかない。

 なら、俺が自分を信じれば俺は大丈夫!!

 

 必死に自己弁護をしている俺を、奇妙な目で見てくる裸族。

 俺は唐突に理解した。これが戦いの機微! そして、この状況こそが精神的風下に立っているということか!!

 取りこぼしそうだった刀を握り直し、裸族に向き直る。

 つまらない動揺はするんじゃない。

 コイツが俺の敵であるという事実は変わらないんだ。

 敵から目を離すな。そう教わっていたじゃないか。

 

 大丈夫! 俺にはできる。

 任務の度に加速空間になんて入っていられない。

 今回こそ無事に任務を完遂するんだ!


「あ! もう良いの? じゃあ、行くわね!! 女神の一翼、この希望のミカエルがハニエルを討つわ」

 俺の態勢が整うまで律儀に待ってくれていたのか。

 何だ、意外と常識を持ち合わせているじゃないか・・・・・・格好以外は。

 裸族は魔法を詠唱している。

 そこは理解が出来た。

 しかし、どの部分が詠唱なのかが分からない。

 流れるように身をひるがえしながら、次々に魔法が押し寄せる。


 その様子はまるで、踊りだ。

 なるほど、こうした詠唱の隠匿方法もあるのか。

 詠唱と詠唱の隙を無理やりつなげて、一つの踊りのような動きを繰り出す裸族。

 そして、ぺちぺちと何かがぶつかる音がリズムを刻んでいる。

 そして狭い空間でその音が反響すると、まるでダンサーに向けた手拍子のようにも聞こえてくる。

 ・・・・・・遠くから見たら、それは素晴らしい踊りに見えるかもしれないな。

 音の発生源を知らない状態なら、目を奪われるかもしれない。

 でも、コレ・・・・・・イチモツですよね? 明らかに。


 ええ、それはそれは立派ですからね。

 振ったら音も出るでしょうよ。

 ・・・・・・嫌味か! 嫌味だろ、こいつ!!!

 何故とは言わないが、無性に腹が立つ。

 俺の尊厳を妙に逆撫でするこの踊りを、一秒でも早く止めなくては!

 普通サイズに対する宣戦布告とみなし、刀を地面に突き立て、両手の空いた状態から無数のナイフを投げつける。

 これでもかと、逃げ場など作れないほど広範囲に満遍なく、ナイフが飛び出す。


 しかし、それを意にも介さないように裸族は踊り続ける。

 時に優雅に、時に荒々しく。その身のこなしは少しだけ見入ってしまう。

 地面に突き立てられたナイフを足場に、踊られては流石に見事としか言えない。

 俺が無様に地面を転がりながら、裸族の魔法を避けていると次第に俺達の立場を明確にしていく。

 

 足の裏以外は汚れていない裸族と、全身泥にまみれたスーツを纏う俺。

 他人が見たら、間違いなく俺を無様な負け役と判断するだろう。

 思っていたよりも、この裸族は強い。

 そして、コイツは未だに魔法でしか攻撃をしてこない。

 これに、もしも体術を混ぜられたら。

 流石にヤバいかもしれない。


 心に焦りが積もるが、耳に聞こえる音がそれ以上に心をかき乱す。

 雄の矜持って・・・・・・悲しいよね。

 分かっていても、張り合わなければならない。

 そう! 負けるわけにはいかない!!

 思わずズボンに手を掛ける。

 

 いかんいかん!! 相手に合わせてどうする!?

 大丈夫、俺は平均サイズ。

 劣っている訳ではない。

 冷静になれ、これはイチモツの勝負じゃない。

 命を賭けた戦いだ。

 ヤツの踊りと、俺のイチモツレン・・・・・・じゃなかった、イチモクレンもどっちが戦いに優れているかの勝負だ。

 即ち、最後に起って、じゃなくって立っていた方が勝ちなんだ。

 

「スンスン、何で嫉妬の臭いがするの?」

 はぁ~!! 嫉妬なんてしてないし!!!

 大きさじゃないからな!!!

 大事なのは心だ!!

「今度は怒り・・・・・・色んな事を考えながら戦うのね」


 裸族の言葉に苛立ちながらも、ヤツの言葉の裏を読み取る。

 さっきから、やけに俺の感情を読むなコイツ。

 でも、神様連中とは違い大雑把な感情だけ。

 そして臭いと言う言葉。

 まさか、コイツ。臭いで人の感情がわかるとでもいうのか?

 いや、分かるんだろう。

 思えば、ただの魔法使いがここで出張ってくる意味も分からない。

 一翼という言葉から、恐らくこいつは変態集団の幹部の一人。

 なら、変態レイヤーの様に魔眼みたいな能力があるのかもしれない。

 

 そうか! この見るからにおかしい裸も何かの効果によるものかもしれない。

 確か魔眼は魔法防御を高めて防げたんだよな。

 だったら・・・・・・こうだ!!

 怯える魔力と達夫を奮い立たせ、スーツに魔力を流し込む。

 付与した加護の魔法耐性の意識して、魔力を伝える。

 鼻腔に甘い香りが感じられる。

 そして、その匂いが消えるとそこには裸族の本当の姿が現れた。


 その豊満な胸は消え去り厚い胸板が現れ、女性的なくびれは胸板から広がる腹斜筋のシルエットに変貌する。

 なんだ、こいつ・・・・・・姿まで偽装してたのか。

 ・・・・・・服は着てないんだな。

 何でそっちは本物なんだよ!!!

 

 なぜか落胆という言葉が頭をよぎる。

 い、いや、期待してなかったから。本当に期待してなかったから!

 最初から幻惑してきてたんだな。

 不意に感じる甘い香り、それを感じると何故か裸族の姿がぼやける。


 なるほど、匂いで俺の感覚も惑わしていたわけか。

 道理で当たらない訳だ。

 ナイフが当たらないことに、何の疑問も浮かばなかったけど、こうして正常な感覚で見てみればおかしなことになってるのがよくわかる。

 俺が投げたはずのナイフは、ことごとくがヤツの方に向かってはいなかった。

 まるで見当違いな場所に刺さっているナイフ。

 この匂いは、五感を狂わせる効果を持たせているのか。

 そう言えば、この空間に入ったときから香っていたな。

 初めから、裸族の術中にはまっていたわけだ。


 それが分かると、この裸族の戦闘能力の高さを理解できた。

 コイツは最初から俺を嬲りごろすつもりで、戦っていたわけか。

 俺は認識を改める。

 コイツはただの裸族じゃない。

 かなり危険な裸族だ。

次回投稿は02/04を予定しております。

では、次回投稿で。

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