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78話

 身体のあちこちに痛みが走る。

 足元に連なる不死者の群れ、動けない彼らはせめてもの抵抗に口撃を仕掛けてくる。

 俺はそれを認識すると、その声の発生源を一つ一つ潰していく。

 時にナイフを投げ、時に刀を突き立て、そして槌で潰していく。

 ようやく静寂が訪れた。あたりに充満する血の匂い。

 少しの達成感が心を満たす。


 言葉も発せなくなった不死者を足蹴にして、奥に進む。

 まだ終わってはいない。

 この愚か者どもが使っていた、薬杯なる遺跡を完全に潰してしまわないと。

 俺だけが行えるオカルトに対する恩返し。

 優しさを与えてくれたオカルトを汚す遺跡を握りつぶせるという能力。

 これこそ真に祝福されていると言って良いだろう。

 誰でもない、俺が行わなければならない行為だ。


 穴の中を進むと、何か甘い香りが漂ってくる。

 とてもいい香りに思えるが、何故かこの場所で嗅ぐととても不快な臭いに思える。

 ただ掘り抜いた穴倉にはふさわしくない臭い。

 そう、獣になって闘争を行っていた時も微かに匂っていたあの香り。

 それが強く香ってくる。


 匂いを辿っていくと、少し開けた空間に出た。

 その奥、一段高くした場所に器が置かれている。

 あれが薬杯か?

 この匂いもあれから漂ってきているのか。

 近寄ってみると少しだけ、匂いが薄くなる気がした。

 違う。そう直感すると周囲を見まわす。

 誰かいる。

 

 間違いなく誰かがこの空間にいる。

 見えない相手を探し周囲に目を凝らす。

 薬杯しかないはずの空間に、誰かの目線が混じっているように感じる。

 どこだ。

 間違いない、ここに誰かがいる。

 

「どこだ!!!!」

 思わず声が荒ぶる。

 見えない何者かにせめてもの怒りをぶつけるかのように、少しだけ声量も大きくなる。

「ふふふ、まったく変わっていないわね。達夫」

 その声は少し反響するが、俺の後ろから聞こえた。

 振り返ると、そこには誰もいない。

 だが、その存在感が徐々に浮かんでくる。

 姿は見せないが、確かにそこにいると主張している。

 

 その空間を睨んでみるが、目線が定まらない。

 確かにそこにいるはず。それでも姿を現すつもりがないようだ。

「何者だ!?」

 自分の中から怒りが引いていくのがわかる。

 得体のしれない何者かに対する警戒心が、怒りに勝っているんだ。

「そんなに怯えないでもいいわ」

 怯える? なにを言っている?

 そう言われて、初めて自分の手が震えていることに気が付く。

 

「その顔、まだ誰かもわかっていないの? ふーん、でも確かに体は達夫よね?」

 何故だ? あの変態でも最後まで分かっていなかったはずなのに、コイツは確信をもって俺の身体が達夫であると言い切った。

 知っていた? いや、最初にあった薔薇鉤十字騎士団の幹部と思しき変態でも達夫の身に何が起きたのかさえ知らなかった。

 なら、今ここにいる何者かが、知っていたというのは考えずらい。

 では、ここで知られた?

 だとしたら、どうやって分かった?


「へぇ~、そう言うことね。なるほど、愛の一翼も落ちたものね」

 勝手に納得された。

 何を納得したというのか。いや、何で納得できた?

 この相手は少し、まずいかもしれない。

 この状況で、相手だけが情報を取っていく状況は望ましくない。

 もし、神様の様に常に思考を読まれてしまうのであれば、少なくとも勝てる見込みが減る。

 そして、神様と違いその力を使って俺を殺しに来るかもしれない。

 

「姿を見せたらどうだ」

「そうね。そうしてあげましょう」

 そう言うと、何者かの姿が浮かび上がる。

 そいつは確かに、俺の目の前に現れた。

 ・・・・・・なぜか、全裸で。

 美しい顔立ち、豊満な胸、くびれのある腰。

 そして、何故か見慣れたものを股間にぶら下げた、一目でわかる変態がそこに居た。


 どうしよう、今すぐ立ち去りたい。

 今、達夫がやけに騒がしく殺気だった魔力をたぎらせているけど。

 俺は見ないことにして帰りたい。

 何だろう。どういえばいいのかな。

 えっと、その・・・・・・。

「薔薇鉤十字騎士団って変態しか入団できないの?」

 ついつい口から疑問が漏れる。

 返答次第では、達夫も何かしらの変態であるに違いない。

 

「あらあら、女の裸体を見て第一声がそれ?」

「本当に・・・・・・女? 生物学的に? 心的に?」

「んー、生物学的には両方。心は・・・・・・相手によるわね」

 いや、え? 何言ってるの?

 あっ! あれか、半陰陽とかそう言うの? いや、でもその場合・・・・・・あそこまで立派にはならないはずじゃ。

 いやいやいや、違うな。根本はそれじゃないな。

 ちょっと、混乱が酷いな。

 今、最も問題なのは・・・・・・。

「何にせよ、服着てくれません?」

 そう、これだ。何の話をするにせよ、先ずそこだ。

 話を進めるにせよ、戦うにしろ、それが一番大事。

 

 目の前の自称女性は、自分の体を確認するように見回す。そして、一言口にする。

「・・・・・・いやよ、なんで服なんて着なくちゃいけないの?」

 あー、なるほど。

 分かった、これは達夫も何かしらの変態だな。間違いない。


 待てよ・・・・・・ってことは、だ。

 あの女は神様で、その狂信的な信者であるところの、こいつら薔薇鉤十字騎士団は全員が変態だと仮定する。

 何で、そんな変態どもがあの女を崇めるのか?

 ・・・・・・答えは一つしかない! あの女も変態に違いない!!!

 変態の神様か・・・・・・あれ? 神様って変態的なエピソードそこそこあるよな。

 その神様たちに創られた俺たち人間も・・・・・・変態に属するってこと!?

 って言うことは!! まさか、・・・・・・目の前も裸族が正しい姿の可能性も微、いやいやいやいや、それはない。絶対無い!! だって俺、ノーマルだもん!!

 特別な趣味嗜好はない・・・・・・よな?

 あれ? なんか、心配になって来た。

 

 くっそう!! こんな高度な精神攻撃、今まで体験してきたことない。

 俺はどうすればいい!!

 

 

次回投稿は02/02を予定しております。

では、次回投稿で。

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