74話
その日魔術教会を訪れると、一人の老人が入口近くで座っていた。
別に老人がいたからといって、なにも不思議ではない。
魔術師の中にも老人がいるらしいし、瑠璃男さんが本部の上層部を隠語で『老人』と呼ぶのも聞いている。
だから、別段不思議ではないけれど・・・・・・なぜかその時は、気になって話しかけてしまった。
「あの・・・・・・この建物に何か御用ですか?」
「おお、少し難儀しておってな。少年、葛西の所に案内してくれんかの?」
ああ、やっぱり瑠璃男さんの知り合いか。
まあ、それしか無いだろうけど。
それにしても、何で気になったんだろうか?
町中にいる老人たちには、特に目が行くこともないのに。
この人だけ・・・・・・。
まあ、いいけどさ。
老人から感じる何かに似た雰囲気を感じながら、心に浮かんだ疑問を外に追いやる。
「瑠璃男さん、お客さんですよ」
そう言って扉を開け、瑠璃男さんの在室を確認する。
奥の机で書類と格闘している瑠璃男さんが、俺の方を確認する。
「おお、哲夫君。来てくれた所悪いけど、今日は仕事は――」
そこまで口にすると、いきなり机を乗り越えて俺の前まで走ってくる。
あまりに俊敏なその動きは、とても初老に差し掛かった人の動きとは思えないぐらい素早かった。
そして瑠璃男さんは、その勢いのまま全身を床に打ち付ける。
「ようこそおいで下さりました!!!」
その行動はどうやら、俺の後ろの方に捧げる行為だったようだ。
「おお、葛西。息災のようだな」
気まずい俺は、瑠璃男さんと老人の間から一歩横に避けて事態を見守る。
身をかがませながら、瑠璃男さんが老人をソファーに案内する。
部屋の主である瑠璃男さんは、何故か老人を上座に座らせ、自身は下座の床に座っている。
・・・・・・この人、余程の偉いさんなんだろうな。
瑠璃男さんのあんな姿、初めて見た。
キツネにもあんな姿見せないのに。
こんな姿見たらアイツの事だ、『ワシよりも偉い人みたいでんなぁ~!』とか、『ラズリーは神様の敬い方知らなかったらしいのぉ~!? 神罰喰らってみるか!?』とか、言いそうだな。
「ワシをチンピラかなんかと勘違いしてるみたいやな、キミ」
「わぁ!!」
「わぁ、あるかい! 本当にこの子は・・・・・・神罰喰らわせんで、ホンマに」
俺の後ろから現れたキツネが、老人と瑠璃男さんの姿を目にしてしまった。
あれだけ懐いていた人物が、別の人を敬っているのを見るなんて。
こりゃ、瑠璃男さん・・・・・・噛まれるな。
「おお! お久しぶりですね。いつこちらに?」
あれ? キツネが標準語で話し始めた。ということは、この人って・・・・・・。
「随分と愉快な少年を共にしているようだの。ご同輩」
「ええ、ちょっと敬い方を知らない無礼者ですがね。####さんの所で修行でもさせたら変わりますかね?」
「ふぉふぉふぉ、手放す気もないのに、そのような冗談を言うようになったか。うむ、少年の影響かね?」
ああ、やっぱり神様だったか。
ってことは、当然。
「ま、噛みつかれても困るから、私の所では遠慮させてもらおうかの」
読まれてたか。
頭に肉球の感触を残しながら、俺は壁際の床で正座を命じられている。
話を聞くことを咎められないということは、仕事に関する話になるんだろう。
まあ、単に老人特有の長引く話をこの姿勢で聴かせるという、罰の可能性も無いわけではないけど。
「ほんに、愉快な少年じゃ。この子が件の?」
「ええ、この世界に来て何も学習できないアカンタレですわ」
アカンタレ? どこかで聞いた覚えもあるような? 無いような? まあ、いい意味じゃないだろうな。
「それで、どないしてここに?」
「我らが主の用向きじゃ、・・・・・・とある杯を紛失されたようじゃ」
その言葉にキツネの雰囲気が変わる。
「因みに、どれを?」
「薬杯じゃ」
キツネから、特大のため息が漏れる。
薬杯・・・・・・ヤクハイね。
白と中と發どれが鳴かれたんだろうか? どれにしても上がりまで早くなるからね。
「大事な話してるから、チャチャ入れんといてな」
わーい、怒られちった。
それにしても、神様の関わってる薬杯ね。
どうも嫌な流れになってきたな。
「ちょ、あれはまずいですよぉ~! なにしてたんですか!!」
「随分と使っておらんでな。気が付いた時には、もう無かった。・・・・・・仕方あるまい、そんな顔されても主のご命令じゃ、これも臣下の務めよ」
再度キツネのため息が盛大に漏れる。
「お父はんはこのことを? って、管理してたのあなたでしたよね?」
「当然知っておるし、お咎めもこうして受けておる」
老人は一切悪びれる様子も無く、そう言ってのける。
なんか・・・・・・キツネの同僚っていうの、納得できたかも。
「哲夫君、ちょっと黙っててくれるか? で、どうしろと?」
「もう壊れてもいいから、彼の者にだけは渡すなと」
「と、言う事は・・・・・・」
キツネが俺の方を向く。
はいはい、神様の尻拭いですね。
確かに俺のお仕事みたいですね。
あ、脚崩してもいいですかね?
「ホント・・・・・・すまんね、お仕事お願い」
キツネの目にうっすらと涙が浮んでいた。
なるほど、どこかにた雰囲気があると思ったら・・・・・・。
駄目なときのキツネとそっくりな駄目具合だな、このじい様。
同じ神様に仕えてると、やることも似てくるみたいだな。
次回投稿は01/25を予定しております。
では、次回投稿で。




