72話
まあ、死にそうな目に何度かあったけど、任務完了ってことでいいのかな?
今回は、何度も溺れかけたけど・・・・・・水泳習おうかな。
ああ、そうだ。金は未だにないんだった。
バイト・・・・・・いや、この仕事しながら出来るバイトもないだろうしな。
「なんや、泳ぎ習いたいんなら、教えてあげてもいいんやで?」
さっきとは違い、やけに面白いものを見つけたような顔をするキツネ。
うん、いやな予感しかしないから遠慮しとく。
「え~! ワシに任せたらウォーターカッターでも遡上できるようにしてあげれるのに・・・・・・」
アホかい! ウォーターカッター遡上できるようになる前に、天国に遡上してしまうわ!
「後で・・・・・うん、そうしよ。そやな!今回はやめとこか!」
後でもやりません!!
「本当に仲がよろしいのですね。人と近いのもそれはそれでいいのかもしれませんね」
「いやいや、###様。この子は特別ですよ、アホなんで」
「おいおい、ここまで神様に献身的な男もそうはいないだろ?」
大体、仕事が神様の尻拭いなんて聖職者でもやらない仕事してるんだ。これほどの献身もないだろ。
「いやいや、金取ってる時点で献身じゃないやん? あ! 無給でやってくれる気になった?」
「借金はキツネ、お前が返してくれるんだな? 日々の生活も保障してくれるんだろうな?」
そんなやり取りを蛇の女神様は穏やかな表情で見ていることに気が付く。
この女神様の様に、古い神様は人と言う種の育成のため厳しい面を見せなくてはいけないことも多かっただろう。
でも、それも人と言う子供を育てるために必要なことだったのだろう。
そう考えると、こうしてキツネや少年の神様たちが人と笑い合ってる状況を作り上げたのは、この蛇の女神様たちの功績と言える。
きっと、この女神様の世界は厳しくも優しい世界に違いない。
いつか、そう、いつかそんな世界を見てみたいものだ。
「さて、地上に帰りましょうか」
女神様に促されて歩き出す。
少し名残惜しい気がして後ろを振り返る。
遺跡核のなくなった遺跡。それはどことなく灯の落ちた雰囲気を醸し出している。
建物が寂しさを表現しているかのようだ。
でも、その寂しさもまた、この遺跡の荘厳さを引き立てている気がする。
そんな何とも言えない感情が沸き起こる、そんな遺跡を後にする。
帰りは来た時とは違い、ニンゲンの襲撃も無く穏やかな航海を楽しむ。
キツネを見れば便利箱を愛おしそうに撫でまわしているし、蛇の女神様が憑いている桐山は、物憂げに海を眺めている。
俺の視線に気が付いた蛇の女神様が、俺に近寄り優しく微笑む。
「さて、私はそろそろお暇しなくては。この娘も限界が近いでしょうから」
「ああ、そうですね。協力者を廃人にしてはあきませんからね」
は、廃人? ええ、やっぱり神様を降ろしてるとそれなりの代償って必要になるのか。
・・・・・・あれ? キツネがキツネなのも依代だよな?
その子ぎつねって・・・・・・。
「動物と人は精神構造が違うから、たぶん大丈夫・・・・・・やと思うで」
自信ないんかい!
「私の頼みを聞いてくれた優しい人の子、あなたに幸多きことを願っていますよ」
そういって、俺に顔をよせると口づけする蛇の女神様。
思わず唇を押さえてしまう。
あれ? 蛇の女神様がしたけど・・・・・・体は桐山。・・・・・・え? 唇にしたってことは・・・・・・あれ? 良いのか、それ?
「では、私はこれで。いつかまた会えると良いですね」
そして優しい笑顔のまま自分の手に口づけをして、別れの言葉を口にする。
目を閉じた桐山から感じる圧力が消える。
水平線の近くで海が盛り上がると、細い尻尾が振られている。
ああ。もうあんなところまで行ってしまったのか。
・・・・・・ん? 桐山の様子がおかしいい。
膝から崩れ落ちる桐山。
神降ろしの負荷か?
駆け寄り無事を確認する。
下を向いた桐山の目に涙があふれている。
そして、なにかつぶやく。
「・・・・・・さん、無事だったんだ」
誰かの無事を喜んでいる、その割にどこか暗く見える。
これは桐山の問題だ。容易く踏み込んでいいものではない。
そう俺の中で達夫でない何者かが伝えてくる。
涙を流す少女に対して、俺は圧倒的に無力だ。
かける言葉も、持ち合わせていない。涙の理由も聞ける勇気すら持っていない。
ただ、その顔を見て心がざわつくだけ。
なにも出来ない、ただの傍観者でしかない。
嫌だ。
何となくそう思った。
何故? なんで桐山が泣いているのが嫌なんだろうか?
ただの知り合いのはず、憎まれ口をたたくただの可愛い知り合い。
そう、好意はある。可愛い女の子は好きだし、見ているだけで癒される。
それだけのはず。
でも、このモヤモヤはそれだけか?
俺、もしかして本気で・・・・・・!!!
い、いや待て。何時からだ?
いや、そんなはずないだろ? 今までのやりとりでどうしてそうなる!?
思い返してみても、そんな感情が出てくるようなエピソードはない。
そのはずなのに、何でか一度自覚してしまった気持ちが霧散してくれない。
そう思うと、さっき蛇の女神様が行った行為がとても気まずい。
桐山から顔を背けて、再び口を押えてしまう。
いや、これはきっと蛇の女神様のせいだ。
うん、きっとそうに違いない。あの神様、とんでもない悪戯をしていったな。
「斉藤、どうしたの?」
涙を拭いた桐山が、俺の方を向いた気がした。
ヤバイ。きっと顔が赤いはず。
咄嗟に口に触れていた手を下げる。
「い、いや、何でもない」
立ち上がって、完全に背中を向ける。
気が付かれたくない、こんな男子中学生並な俺の感情に気が付かないでくれ!!
うしろで衣擦れのような音が聞こえる。
海原で波の音がするはずなのに、何故か真後ろの音に集中してしまう。
「・・・・・・あ!!! 最っ低! 斉藤あんた、本当に最低ー!」
あー、何を考えていたのか分かられてしまったか。
いや! 今なら誤魔化せる!!!
「はぁ~! 何が最低なんだよ、何もして・・・・・・」
振り向くと、桐山の唇に目線が固定される。
あー、うーん。えーっと・・・・・・。
「・・・・・・ごめんなさい」
なにも考えられず、思わず謝罪の言葉が口から零れる。
何となく無言になる俺と桐山。
キツネだけが気持ちの悪い笑い声をあげていた。
次回投稿は01/21を予定しております。
では、次回投稿で。




