68話
「やったやん!! 哲夫君流石!! 半身ちょうだい!」
「生き死に賭けて戦ってきた相手に、第一声がそれかよ・・・・・・キツネ、冷静になって考えてね? これの半身って、食べきれんのか?」
そこそこの距離を泳いで、キツネたちの元に戻って来たけど・・・・・・視界いっぱいにニンゲンの姿が広がっている。
もう、距離を例えるのさえ億劫になる大きさだ。
その大きさの獲物の半身を、この小ギツネの身体に収めようとしたら・・・・・・俺が平穏無事に一生を過ごしたとしても見届けることは出来ないだろうと予測できる。
大体、本当に食うのか? これを。
両手があったり、頭部の形といい、ちっとも食欲がわいてこないぞ。
「えーー! ホンマにうまいんやって!! 最高級魚なんやで!?」
「え? 魚なの!?」
「そうやで? あれ? いってへんかったっけ?」
キツネはニンゲンのことになると、興奮気味になるからなぁ~。
へ~、魚なんだ。
・・・・・・そうは見えないよなぁ~。
それにしても、これ本当にどうしよう。
このまま、この水域に放置してたら・・・・・・迷惑なんだろうなぁ~。
「ばっかっ! 哲夫君馬鹿。放置なんかしたら、近所の人らに根こそぎ持って行かれてしまうで!?」
え? そんなに人気な食材なの? まあ、確かに瑠璃男さんも食べたがってたしな。
なんか、そこまで言われたら食べたくなるけど・・・・・・処理大変そう。
「あっ! そうや、早くワタ抜かな!! 哲夫君、おっきな刃物でバツッっと腹開けてきて!!」
急かすキツネの顔は、冗談でもなんでもなく、本気で俺にこの巨大魚をさばいて来いと言っているらしい。
さっきまで、命がけで戦っていた相手に。なんとまあ、神様然とした物言いだろうか。
正直、前ほど魔力の消費が多くはないと言っても当然消費はあるし、何より命のやり取りがどれほどの緊張をもたらして精神的疲弊をしているのか、この神様は知っているのだろうか?
いやいや、神様になるような人はそんな事、物ともしなかったんだろうな。
あー、凄いなぁ~。見習いたいけど、俺には無理だなぁ~。
「コイツ、最近ホンット! 可愛げなくなってきたな。しゃーない、後で必ず分け前頂くからな」
そう言うと、キツネは前足を何もない空間に突っ込み何やら探っている。
「あった、あった。これやこれ!」
キツネが手に・・・・・・前足に持っていたのは、何やら小さな箱のようなものだ。
なにするつもりだ?
キツネがおもむろに飛び上がり、俺の頭の上で箱を開ける。
何か物凄い音を立てたと思ったら、目の前のニンゲンが跡形もなく消えていた。
え? なに? なにそれ!?
「なにって・・・・・・便利箱やん」
「べ、便利箱?」
その様子を見ながら苦笑していた、蛇の女神様が口を開く。
「魔術師殿、余りなじみがないと思いますが、色々と似たようなものが各世界にあるのですよ」
説明を受けて、何となく腑に落ちた。
場所によっては箱であったり、袋であったり、その外観からは想像できないほど収納能力のある便利道具。
箱の中の時間を固定して、腐らなかったりと色々と、まあ、便利という言葉でしか表現できないアレだ。
何と言うか、アイテムボックスとか言われる類の魔法道具ってやつね。
有ったんだ、そんな物。
「何言ってるん! これの劣化版がキミの家にもある、いわゆる冷蔵庫やで?」
ああ、そうなんだ。
劣化版でも、俺万単位で借金してるんだけど、どれだけお高い物なんですかね?
「そやね、・・・・・・それなりにするよね。神様謹製やし」
誇らしく胸を張るキツネに対して、蛇の女神様は・・・・・・。
「まあ、最近の若い神がおちいる麻疹みたいなものですから、深くは聞いてあげないでください」
若干、申し訳なさそうな表情を浮かべている。
キツネの態度と蛇の女神さまの評価がだいぶ違うな。
アレって神様の界隈でも賛否のあるものなんだな。
まあ、前の世界でもその手の創作物で、色々と出てきてたしね。
俺は、嫌いじゃないよ? 便利なのはいいことだし。
まあ、意見は色々あってもいいよね。うん。
さて、道中のトラブルは一応、収まったということでいいのかな?
これから先、何もありませんように。
二匹目のニンゲンは、ちょっと所じゃなく厳しいからな。
海上を少し移動すると、蛇の女神さまが手をかざす。
するとマッハホウキごと、海中に引き込まれていく。
俺達を中心に、マッハホウキ全体が空気のドームで覆われている。
俺には分からないけど、今海中を進んでいるんだろう。
段々と光が届かなくなり、辺りが暗闇に覆われていく。
キツネが光りの球をどこからか呼び出したことで、海底近くなんだと分かるようになった。
そして、海底に明らかな人工物があるのがわかる。
あれが、蛇の女神さまの遺跡か。
随分と深くに来ているみたいだけど、これが人の生活圏まで影響する遺跡なのか?
目に映る神殿状の遺跡は、とてもこの海域に影響が出るほどのものには見えない。
神殿というよりも社といった方がいいぐらいの大きさでしかない。
でも、これまでの遺跡もその被害予測はあまりに広範囲だった。
であるなら、人が入れる規模なら余程の範囲に影響を与える遺跡なんだろう。
そして、その遺跡を壊すともなれば同じ規模に影響を与えると言う事。
そのことを改めて実感させられる。
よし! 気を引き締めて仕事に取り掛かるとしよう。
次回投稿は01/13を予定しております。
では、次回投稿で。




