63話
目が覚める少し前、いや、目を覚ます瞬間だったのかもしれない。
頭の中で笑い声が響いていた。
「くくく、あはははははは!!!! やっとだ! やっと見つけてもらえた!!!」
誰だ? ・・・・・・いや、本当は分かっている。
認めたくないんだ。
俺の意識に、達夫の歓喜がぶつけられる。
そう、達夫がこれまでにないぐらい喜んでいる。
その歓喜も言葉も、認めたくはなかった。
でも、頭に響いている声がそれを許してはくれない。
達夫がここまで感情を露わにする相手と言うのが、どうしても一人しか思い浮かばない。
肉親でも友人でも、ここまで感情の発露は感じたことが無かった。
だとすると、もう、その人しかいない。
俺が良く思っていなくて、取りあえず復讐だけはしておきたい相手。
達夫が自分という代えることが出来ない全てを捧げた相手。
俺が追っていた黒幕、その人だ。
イタイ変態が信仰を捧げたと言っていた相手。
ヴィマーナのやつが利用された相手。
その黒幕がようやく俺の目の前に現れた。
なんの予兆も無く、いきなりに。
そして、俺はその黒幕相手に何もできなかった。
戦うことも、逃げることさえできなかった。
まともに一歩踏み出すことすら出来なかった相手。
目すら見れない様な圧倒的な強者。
それが俺の追い求めた黒幕。
「しかも、こんなご褒美まで!! ああ、僕を忘れてはいなかったんだね!!」
達夫の歓喜とは対照に、俺の心は沈んでいた。
自分の不甲斐なさに、相手の巨大さに、打ちのめされていた。
勝てない。
その言葉が、達夫の歓喜の間をぬって頭の中でリフレインする。
達成できない目標が、ものすごい速さで遠くに行ってしまう。
これを言葉にするなら、喪失感。
「あははははははははは!!!!! これで5つ目、あとは・・・・・・17か・・・・・・哲夫さん、頑張ってくれよ! そして僕を彼女の元に導いてくれ!!!」
その声は目を覚ました直後まで頭の中で繰り返し、繰り返し響いていた。
無理だ、逃げたい。どこへ? いや、どこでもいい。
逃げないといけない。
あんな化け物ともう一度対峙しろ? 無茶を言うな!!
あの短時間で俺の心には、恐怖というくさびが撃ち込まれている。
あの女も仕事も、借金でさえ投げ出してどこか、人目の付かない所でひっそりと過ごしたい。
何を集めさせたいのか知らないが、俺は無関係で居たい。
でもそれは叶わないことも、理解できていた。
何か重要なファクターが今、俺の手元にある。
人一人の存在ですら利用して欲したものを、簡単に諦めてくれる道理がない。
そして、薔薇鉤十字とかいう何かがごちゃ混ぜになった変態の属する組織に面が割れている。
何より、俺の近くにはあの化け物ほどではないが、人が逆立ちしても叶わない神様がいる。
きっと、見張りの意味もあるのだろう。
その両方から逃げられるほど、俺はこの世界のことも魔法に付いても詳しくはない。
ならばどうする?
比較的安全な方に身を寄せるしかないだろう。
視界の焦点が合って、目の前にキツネとハデス(仮)様を捕らえる。
どうやって伝えたらいい?
どう言えば助けてもらえるだろうか?
もう、この際監禁されてしまってもかまないと思えるほどに、混乱していたんだろう。
それでも俺は、混乱しながらも神様たちに、さっき起きた出来事を報告する。
恐らく、この時の俺の顔は今まで見せたことのない苦痛を帯びた表情だったのかもしれない。
そんな俺を見て、二柱は顔を見合わせ笑いだした。
「なんや、哲夫君。いきなり飛び出していったとおもったら・・・・・・こんなところで親酒飲み干して寝っコケてたんかい!」
「まあ、余り原液で飲むものではないかな? 割り材が必要なくらい強いからね」
・・・・・・いやいやいや、伝わってないはずないだろう?
今まで散々人の心の声と会話したたのに、今更分からないフリってどういうことだよ!
しかもあの瓶って親酒だったんだ。
一人で飲んで何か悪影響ないの?
男女で飲むものなんだよね? そこんとこどうなの??
しかし、心の中でどんなに呼びかけても二柱には聞こえていないようだ。
ん? あれ? あれれ? おっかしぞー!
二柱とも目が泳ぎに泳いでますよね?
これ、聞こえてますよね?
理由、分かってましょね? どうしてこうなったのか、ここで誰にあったのかとか、十分理解してその態度ってことでいいですかね?
ハイなら額拭って、イイエなら眉毛触って。
二柱は揃って額を触る。
よしよし。
じゃあ、見捨てられてないという理解で、いいんですよね!?
・・・・・・おいキツネ。そこ、眉毛か?
お前、今更俺を見捨てるような真似しないよな?
おいどういうことだ!? 両方触るって?
見捨てる可能性もあるってことか? それともそれが前提か?
ほう、キツネよ。お前、前にも冗談で俺を苦しめといて・・・・・・今回もそんな冗談言えるのか?
随分と強い心臓を持ってるじゃないか。
もう一度聞くぞ? 見捨てないよな?
・・・・・・おい、触らないって選択肢は無いはずだぞ?
「さあ、####様。遺跡にこの子、案内せんと」
「あ、ああ! そうだね。そうだったね」
なあ、話し終わってないけど?
どうなんだよ、俺を丁重に保護してくれるのか、くれないのか。どっちだよ!
「いやぁ~、それにしてもこない広いと移動も大変ですね?」
「あ、ああ。そうだね、あ、いや、我々なら何も問題ないでしょう」
「どっちなんだよ!」
「わー! こら、シーや! シー!」
次回投稿は01/03を予定しております。
では、次回投稿で。




